講演情報

[T1-P-8]愛媛県高縄半島,松山市湯山地区の領家変成岩類の変成作用

*椿 陽仁1、志村 俊昭1 (1. 山口大学)
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キーワード:

領家変成帯、愛媛県、高縄半島、ざくろ石菫青石片麻岩、変成作用、変成P-T条件

はじめに
 領家帯は,九州北部から本州中部にかけて広がる,白亜紀の火成活動により形成された深成岩類と高温低圧型の広域変成作用を被った変成岩類が分布する領域である (Okudaira et al., 2024).
 松山市湯山地区は,愛媛県高縄半島の南西部に位置し,この地域の変成岩類と花崗岩類は領家帯に属している.本地域は北部から南部にかけて,角閃石黒雲母花崗岩体 (以下,松山岩体),黒雲母花崗岩体 (以下,湯ノ山岩体),変成岩体が分布し,これらの3者は互いに接している.湯ノ山岩体のジルコンU-Pb年代は,98.8±1.0 Maとされている (Shimooka et al., 2019).変成岩類は,変成分帯 (Fig. 1)と各帯の鉱物組合せの記載が,鳥海ほか (1991)と宮崎ほか (2016)により行われている.最高変成度で見られる泥質変成岩の鉱物組合せは,Grt, Crd, Kfs, Bt, Ms, Pl, Qzである (鳥海ほか, 1991).変成作用は,松山岩体の接触変成作用を受けた後に湯ノ山岩体の接触変成作用を受けているとされている (野戸, 1975; 越智, 1982).変成P-T条件については,検討されていない.
 本研究では,松山市湯山地区の半島基部の変成岩類の変成分帯と変成P-T条件の推定を行い,変成作用について検討を行った.

記載
 本地域の2つの花崗岩体は,変成岩類の片理面に対して非調和的に貫入している.変成岩体には,ざくろ石菫青石片麻岩,カリ長石菫青石片麻岩,カリ長石菫青石片岩,白雲母黒雲母片岩などが見られる.
 ざくろ石菫青石片麻岩は,ざくろ石と菫青石が共生しており,優白部の斜長石に波動累帯構造が見られる.
 カリ長石菫青石片麻岩は,菫青石 (斑状変晶)とカリ長石は共生している.また,この菫青石は,黒雲母,白雲母,斜長石で構成される片麻状構造を切っていない.
 カリ長石菫青石片岩は,菫青石 (斑状変晶)とカリ長石は共生している.この菫青石は,黒雲母,白雲母,斜長石で構成される片理を切っている.菫青石を除く基質の鉱物の大きさは,白雲母黒雲母片岩と同程度である.また,カリ長石菫青石片岩は松山岩体との貫入境界付近で多く見られる.

変成分帯
 変成作用のピーク期に晶出した考えられる鉱物組合せに基づいて,以下のように変成分帯を行った (Fig. 1).本地域の変成岩は,変成度の低い方から高い方へそれぞれ,Bt zone,Crd zone,Kfs zone,Grt zoneに分帯した.また,松山岩体との境界付近は,松山岩体の貫入により形成されたContact aureoleとした.

変成P-T条件
 Crd zoneのピーク期の変成P-T条件は,Grt-Bt地質温度計 (Hodges and Spear, 1982)とGMPB地質圧力計 (Hoisch, 1991)の計算結果から,約150–300 MPa,約540–550℃と見積もられる.
 Grt zoneのピーク期の温度条件は,Grt-Crd地質温度計 (Thompson, 1976; Wells, 1979; Perchuk et al., 1985)の計算結果から,約620–670℃と見積もられる.

結論
 カリ長石菫青石片麻岩の菫青石とカリ長石菫青石片岩の菫青石は,産状の違いから晶出した時期が異なると考えられる.このことから,本地域の変成岩体は,最低2回の複変成作用を受けていると考えられる.
 変成分帯より変成岩の変成度は,湯ノ山岩体との貫入境界に近づくほど上昇している.このことから,変成岩体は湯ノ山岩体による接触変成作用を受けていると考えられる.
 Contact aureoleに分布するカリ長石菫青石片岩は,記載や変成分帯の結果より,松山岩体による接触変成作用を受けていると考えられる.また,カリ長石菫青石片岩の源岩は,記載や変成分帯の結果よりBt zoneに相当する白雲母黒雲母片岩であったと考えられる.
 これらのことより,本地域の変成岩体は湯ノ山岩体の接触変成作用を受けた後に,松山岩体の接触変成作用を受けたと考えられる.

引用文献
Hodges and Spear (1982) Amer. Mineral., 67, 1118–1134.
Hoisch (1991) CMP, 108, 43–54.
宮崎ほか (2016) 地質図幅「松山」(第2版). 産総研.
野戸 (1975) 地質学雑誌, 81, 59–66.越智 (1982) 地質学雑誌, 88, 511–522.
Okudaira et al. (2024) Elements, 20, 96–102.
Perchuk et al. (1985) JMG, 3, 265–310.
Shimooka et al. (2019) JMPS, 114, 284–289.
Thompson (1976) AJS, 276, 425–454.
鳥海ほか (1991) 日本の地質「四国地方」. 日本の地質「四国地方」編集委員会, 6–8.
Wells (1979) JP. 20, 187–226.

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