講演情報
[T1-P-10]中国東部楊庄地域に産する蘇魯超高圧エクロジャイト中のオンファス輝石の含水量★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
*菊地 泰生1、田口 知樹1 (1. 早稲田大学)
キーワード:
超高圧エクロジャイト、オンファス輝石、蘇魯帯、フーリエ変換赤外分光法、含水量
地球内部における水の分布は不均質であり、その保持機構についても未解明な点が多い(e.g. Ohtani, 2021 AREPS)。プレート収束境界における流体挙動は、島弧火成作用や地震活動など様々な地球科学的現象を引き起こす要因になり得る。また、岩石の物理化学的性質やレオロジー挙動も微量水の存在で劇的に変化するため、プレート境界をなす変成岩の含水量推定は重要と言える。一般に、深部まで沈み込んだ地殻物質中では含水鉱物の多くが不安定となる。しかし、ザクロ石やオンファス輝石はNAMs(Nominally Anhydrous Minerals)と認識され、構造的に結合したOH基により微量の水を保持できる。NAMsの中でも、エクロジャイト構成鉱物であるオンファス輝石は比較的含水性の高い鉱物と報告されている(Bromiley & Keppler, 2004 CMP)。しかし、超高圧エクロジャイト中のオンファス輝石の産状と含水量の関係性を包括的に調査した研究例は少ない。本研究では中国東部蘇魯帯の超高圧エクロジャイトを対象に、顕微フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)に基づきオンファス輝石の定量的な含水量分析を実施した。
研究試料は蘇魯帯楊庄(Yangzhuang)地域の超高圧エクロジャイトを使用した。近年、当地域のエクロジャイトを対象に変成岩岩石学および電子顕微鏡鉱物学的研究が実施されており(e.g. Taguchi et al., 2016 JMG; Taguchi et al., 2019 JMG)、そのピーク変成条件はP/T = 3.1 GPa/660–725°Cと推定されている。本研究ではオンファス輝石に富むエクロジャイト2試料(試料番号:95ZYh、95ZYg)、及び灰簾石に富みオンファス輝石が比較的乏しいエクロジャイト1試料(試料番号:95ZYa)に着目した。エクロジャイト全試料において、基質ではオンファス輝石+ザクロ石+石英の鉱物組み合わせが認められる。試料毎に量比は異なるが、その他鉱物として灰簾石±藍晶石±白雲母±角閃石±ルチルが認められる。また、コース石の仮像(多結晶質石英)がザクロ石やオンファス輝石など基質鉱物中の包有物として全試料で観察できる。各試料の両面研磨片(厚さ約150–190 µm)を作成後、オンファス輝石の赤外分光分析を実施した。分析の際は光路の窒素パージを行い、オンファス輝石の含水量はLambert-Beerの法則から算出した。各オンファス輝石には、3630–3610 cm-1、3530–3510 cm-1、3460–3440 cm-1付近にOH基の吸収スペクトルが確認された。オンファス輝石の含水量推定値を以下に示す:240 ppm(試料95ZYh; オンファス輝石118粒子の平均)、201 ppm(試料95ZYg; オンファス輝石70粒子の平均)、271 ppm(試料95ZYa; オンファス輝石14粒子の平均)。
今回確認されたオンファス輝石の吸収スペクトルの形状とピーク位置は、世界各地のコース石エクロジャイトや石英エクロジャイト(e.g. Katayama et al., 2006 Lithos; Gose & Schmädicke, 2022 JMG)及び高圧実験生成物(Bromiley & Keppler, 2004 CMP)とよく似ていた。また、本研究試料のオンファス輝石が示す含水量は、超高圧変成帯の一つであるカザフスタン・コクチェタフ地域の石英エクロジャイトとよく一致していた(Katayama et al., 2006 Lithos)。最近の実験岩石学的研究では、オンファス輝石の含水量は変成温度と相関を示すことが報告されているが、本研究成果はその指摘とも矛盾しない(Jiang et al., 2022 Geology)。楊庄地域のエクロジャイトは後退変成作用の影響が比較的少ないことを考慮すると、本研究結果はピーク変成期における含水量を反映している可能性が高いが、今後も含水量データの収集は必要と考えられる。
研究試料は蘇魯帯楊庄(Yangzhuang)地域の超高圧エクロジャイトを使用した。近年、当地域のエクロジャイトを対象に変成岩岩石学および電子顕微鏡鉱物学的研究が実施されており(e.g. Taguchi et al., 2016 JMG; Taguchi et al., 2019 JMG)、そのピーク変成条件はP/T = 3.1 GPa/660–725°Cと推定されている。本研究ではオンファス輝石に富むエクロジャイト2試料(試料番号:95ZYh、95ZYg)、及び灰簾石に富みオンファス輝石が比較的乏しいエクロジャイト1試料(試料番号:95ZYa)に着目した。エクロジャイト全試料において、基質ではオンファス輝石+ザクロ石+石英の鉱物組み合わせが認められる。試料毎に量比は異なるが、その他鉱物として灰簾石±藍晶石±白雲母±角閃石±ルチルが認められる。また、コース石の仮像(多結晶質石英)がザクロ石やオンファス輝石など基質鉱物中の包有物として全試料で観察できる。各試料の両面研磨片(厚さ約150–190 µm)を作成後、オンファス輝石の赤外分光分析を実施した。分析の際は光路の窒素パージを行い、オンファス輝石の含水量はLambert-Beerの法則から算出した。各オンファス輝石には、3630–3610 cm-1、3530–3510 cm-1、3460–3440 cm-1付近にOH基の吸収スペクトルが確認された。オンファス輝石の含水量推定値を以下に示す:240 ppm(試料95ZYh; オンファス輝石118粒子の平均)、201 ppm(試料95ZYg; オンファス輝石70粒子の平均)、271 ppm(試料95ZYa; オンファス輝石14粒子の平均)。
今回確認されたオンファス輝石の吸収スペクトルの形状とピーク位置は、世界各地のコース石エクロジャイトや石英エクロジャイト(e.g. Katayama et al., 2006 Lithos; Gose & Schmädicke, 2022 JMG)及び高圧実験生成物(Bromiley & Keppler, 2004 CMP)とよく似ていた。また、本研究試料のオンファス輝石が示す含水量は、超高圧変成帯の一つであるカザフスタン・コクチェタフ地域の石英エクロジャイトとよく一致していた(Katayama et al., 2006 Lithos)。最近の実験岩石学的研究では、オンファス輝石の含水量は変成温度と相関を示すことが報告されているが、本研究成果はその指摘とも矛盾しない(Jiang et al., 2022 Geology)。楊庄地域のエクロジャイトは後退変成作用の影響が比較的少ないことを考慮すると、本研究結果はピーク変成期における含水量を反映している可能性が高いが、今後も含水量データの収集は必要と考えられる。
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