講演情報
[T1-P-12]中国東部仰口地域に産する蘇魯超高圧エクロジャイトの変成温度条件の再検討
*野宮 健太1、田口 知樹1 (1. 早稲田大学)
キーワード:
超高圧エクロジャイト、蘇魯帯、オンファス輝石、ルチル、Zrルチル温度計
中国東部蘇魯帯では、超高圧指標鉱物(コース石やその仮像)を含むエクロジャイトが広く産出する。仰口地域のエクロジャイトでは残存コース石が基質に認められることもあり(Zhan & Liou, 1997 JMG)、岩石上昇期の流体浸透が乏しく、蘇魯帯の中でもピーク変成条件をよく保持していると期待されている。これまで当地域では様々な岩石学的研究が実施されている一方で、先行研究間でエクロジャイトの温度推定値には大きなギャップが存在し、ピーク変成条件の制約に至ってない。先行研究の多くは汎用的なザクロ石−単斜輝石温度計(e.g. Ravna, 2000 JMG)に基づき変成温度が議論されており、別手法に基づく比較検証も重要と考えられる。本研究ではZrルチル温度計を用いた仰口地域のピーク変成温度を再検討したと同時に、オンファス輝石中のヒスイ輝石成分に関しても検証した。
仰口地域のエクロジャイトは巨視的な岩体または片麻岩中にレンズ状で産出する。本研究では、仰口北部に位置する湾岸沿いのエクロジャイト1試料(95YKB08x)および南部のGeneral's Hillで採取されたエクロジャイト2試料(95YK0h1、95YK24a)を使用した。各試料の基質鉱物組み合わせはザクロ石+オンファス輝石+石英+白雲母+ルチル±角閃石±藍晶石であり、副成分鉱物としてジルコンが認められる。仰口湾沿いの試料ではザクロ石やオンファス輝石が粗粒結晶(最大1 mm)として観察されるが、General's Hillの変成鉱物は比較的細粒なものが多い。いずれの試料においても、ザクロ石中にオンファス輝石、ルチル、SiO2相(コース石の仮像)が包有物として存在する。基質のオンファス輝石中のヒスイ輝石成分は、それぞれXjd = 0.38–0.46(95YKB08x)、Xjd = 0.69–0.78(95YK0h1)、Xjd = 0.65–0.74(95YK24a)を示す。ザクロ石中のオンファス輝石包有物は、Xjd = 0.34–0.45(95YKB08x)、Xjd = 0.64–0.74(95YK0h1)、Xjd = 0.62–0.74(95YK24a)である。各試料の基質と包有物間でオンファス輝石のXjd値にほとんど差は認められない。しかし、General's Hill産のオンファス輝石では、不純なヒスイ輝石に相当する非常に高いXjd値が確認された。各試料40粒子以上のルチルについてEPMA分析を行った結果、それぞれZr含有量の平均値はZr = 94–141 ppm(95YKB08x)、Zr = 52–89 ppm(95YK0h1)、Zr = 46–94 ppm(95YK24a)であった。Zrルチル温度計(Tomkins et al., 2007 JMG; Kohn, 2020 AM)を適用すると、仰口湾沿い(仰口北部)ではT = 約650–690°C、General's Hill(仰口南部)ではT = 約610–660°Cと見積もられた(P = 3.0–4.0 GPaと仮定)。
仰口地域のエクロジャイトでは、熱力学的解析によりピーク変成温度条件としてT >800°Cが報告されている(e.g. Wang et al., 2014 Nat. Commun.)。しかし、先行研究の推定温度値は、今回Zrルチル温度計により得られた値と比べ優位に高い。単斜輝石中のヒスイ輝石成分が多量な場合(Xjd >0.50)、ザクロ石−単斜輝石温度計による温度推定には大きな誤差が生じることが経験的に知られている(Nakamura et al., 2015 JMPS)。本研究においても、General's Hillのオンファス輝石は著しく高いXjd値を普遍的に示した。蘇魯帯仰口地域のエクロジャイトについて、既存のザクロ石−単斜輝石温度計やシュードセクション法に基づく温度推定値は過剰に評価されている可能性がある。
仰口地域のエクロジャイトは巨視的な岩体または片麻岩中にレンズ状で産出する。本研究では、仰口北部に位置する湾岸沿いのエクロジャイト1試料(95YKB08x)および南部のGeneral's Hillで採取されたエクロジャイト2試料(95YK0h1、95YK24a)を使用した。各試料の基質鉱物組み合わせはザクロ石+オンファス輝石+石英+白雲母+ルチル±角閃石±藍晶石であり、副成分鉱物としてジルコンが認められる。仰口湾沿いの試料ではザクロ石やオンファス輝石が粗粒結晶(最大1 mm)として観察されるが、General's Hillの変成鉱物は比較的細粒なものが多い。いずれの試料においても、ザクロ石中にオンファス輝石、ルチル、SiO2相(コース石の仮像)が包有物として存在する。基質のオンファス輝石中のヒスイ輝石成分は、それぞれXjd = 0.38–0.46(95YKB08x)、Xjd = 0.69–0.78(95YK0h1)、Xjd = 0.65–0.74(95YK24a)を示す。ザクロ石中のオンファス輝石包有物は、Xjd = 0.34–0.45(95YKB08x)、Xjd = 0.64–0.74(95YK0h1)、Xjd = 0.62–0.74(95YK24a)である。各試料の基質と包有物間でオンファス輝石のXjd値にほとんど差は認められない。しかし、General's Hill産のオンファス輝石では、不純なヒスイ輝石に相当する非常に高いXjd値が確認された。各試料40粒子以上のルチルについてEPMA分析を行った結果、それぞれZr含有量の平均値はZr = 94–141 ppm(95YKB08x)、Zr = 52–89 ppm(95YK0h1)、Zr = 46–94 ppm(95YK24a)であった。Zrルチル温度計(Tomkins et al., 2007 JMG; Kohn, 2020 AM)を適用すると、仰口湾沿い(仰口北部)ではT = 約650–690°C、General's Hill(仰口南部)ではT = 約610–660°Cと見積もられた(P = 3.0–4.0 GPaと仮定)。
仰口地域のエクロジャイトでは、熱力学的解析によりピーク変成温度条件としてT >800°Cが報告されている(e.g. Wang et al., 2014 Nat. Commun.)。しかし、先行研究の推定温度値は、今回Zrルチル温度計により得られた値と比べ優位に高い。単斜輝石中のヒスイ輝石成分が多量な場合(Xjd >0.50)、ザクロ石−単斜輝石温度計による温度推定には大きな誤差が生じることが経験的に知られている(Nakamura et al., 2015 JMPS)。本研究においても、General's Hillのオンファス輝石は著しく高いXjd値を普遍的に示した。蘇魯帯仰口地域のエクロジャイトについて、既存のザクロ石−単斜輝石温度計やシュードセクション法に基づく温度推定値は過剰に評価されている可能性がある。
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