講演情報
[T1-P-13]神室山の変成深成複合岩体の岩石学的研究:阿武隈変成岩との対比
*森 大成1、加々島 慎一2、矢口 真司 (1. 山形大学大学院理工学研究科、2. 山形大学)
キーワード:
ザクロ石、温度圧力経路
山形県と秋田県の県境に位置する神室山は阿武隈帯に属し,白亜紀花崗岩・新第三紀花崗岩と形成年代不詳の変成岩類からなる変成深成複合岩体である.神室山の変成岩類は阿武隈変成岩である御斉所・竹貫変成岩との対比可能性を指摘されてきた(笹田, 1985).阿武隈変成岩は,約110 Maに低圧高温型の広域変成作用を受けたものであり,竹貫変成岩,御斉所変成岩,日立変成岩,西堂平変成岩,玉簾変成岩から構成される.神室山の変成岩類については町田・石渡 (2010) によって解析が行われ,ザクロ石黒雲母片麻岩中のザクロ石と角閃岩中の角閃石の化学組成割合や,変成作用の温度条件が竹貫変成岩と類似する結果が得られている.しかし,神室山の変成岩類がたどったP-T pathについての考察はなく,対比を行うには岩石学的証拠に乏しい.そのため本研究ではザクロ石の組成累帯構造から神室山の変成岩類のP-T pathの推定を行い,竹貫変成岩を含む阿武隈変成岩との対比を行った.
本調査で確認された神室山の変成岩類は,ザクロ石を含まない低変成度の片麻岩が大半を占め,ザクロ石黒雲母片麻岩は1試料のみの発見であった.変成岩類の鉱物組合せは,石英,斜長石,緑泥石,黒雲母を含み,一部ザクロ石,カリ長石が含まれる.神室山の変成岩類は,鉱物組合せより緑色片岩相の変成度を示し,ザクロ石を含むものについてはAlm, Sps, Prpの端成分の割合から角閃岩相を示す.ザクロ石の累帯構造は,結晶内部から結晶周縁部に向かってMn成分が緩やかに上昇する逆累帯構造を示す.また,一部のザクロ石は結晶内部でMn成分が均質,結晶周縁部で急激な上昇を示すものもある.これらのザクロ石の粒径は,最大のもので0.54 mmとすべて細粒である.Kretz (1973) よりザクロ石が結晶内部で正累帯構造,結晶周縁部で逆累帯構造を保持する地域でも,細粒の場合は逆累帯構造しか存在しない場合があることがわかっている.また,宮下 (1995) より細粒なザクロ石では後退変成作用による逆累帯構造があるとされている.これらより本研究で分析を行ったすべてのザクロ石が持つ逆累帯構造は,後退変成作用によって形成されたものであると考えられる.変成作用の温度圧力条件は,ザクロ石-黒雲母交換温度計 (Ferry and Spear, 1978) によりT=545-679 ℃,ザクロ石-斜長石-白雲母-黒雲母地質圧力計 (Hoisch, 1990) によりP=1.1-3.1 kbarが見積もられた.ただし,変成岩類の近傍に花崗岩類が分布していることから花崗岩類貫入の熱による組成の改変が考えられるためこれらの値は参考値とする.
以上より推定される神室山の変成岩類のP-T pathは,ザクロ石が後退変成作用の記録のみを残すことから, T=545-679 ℃, P=1.1-3.1 kbarの範囲を後退変成作用が通過したということになる.神室山の片麻岩類を形成した広域変成作用はこれよりも高い温度圧力条件であることが推定可能である.その場合,阿武隈変成岩の一つである竹貫変成岩と同程度の変成作用であったことがわかるため,神室山の変成岩類は阿武隈変成岩と対比される可能があることがわかった.
<引用文献>
Ferry, J. M. and Spear, F. S. (1978) Contrib Mineral Petrol, 66, 113 -117.
Hoisch, D . (1990) Contrib Mineral Petrol, 104, 225-234.
Kretz, R. (1973) Canad, Mineral, 12, 1-20.
町田怜史・石渡明 (2010) 日本鉱物学会2010年年会講演要旨集, R4-P09.
宮下由香里 (1996) 地質学雑誌, 2, 84-104.
笹田政克 (1985) 地質学雑誌, 91 (1) , 1-17.
本調査で確認された神室山の変成岩類は,ザクロ石を含まない低変成度の片麻岩が大半を占め,ザクロ石黒雲母片麻岩は1試料のみの発見であった.変成岩類の鉱物組合せは,石英,斜長石,緑泥石,黒雲母を含み,一部ザクロ石,カリ長石が含まれる.神室山の変成岩類は,鉱物組合せより緑色片岩相の変成度を示し,ザクロ石を含むものについてはAlm, Sps, Prpの端成分の割合から角閃岩相を示す.ザクロ石の累帯構造は,結晶内部から結晶周縁部に向かってMn成分が緩やかに上昇する逆累帯構造を示す.また,一部のザクロ石は結晶内部でMn成分が均質,結晶周縁部で急激な上昇を示すものもある.これらのザクロ石の粒径は,最大のもので0.54 mmとすべて細粒である.Kretz (1973) よりザクロ石が結晶内部で正累帯構造,結晶周縁部で逆累帯構造を保持する地域でも,細粒の場合は逆累帯構造しか存在しない場合があることがわかっている.また,宮下 (1995) より細粒なザクロ石では後退変成作用による逆累帯構造があるとされている.これらより本研究で分析を行ったすべてのザクロ石が持つ逆累帯構造は,後退変成作用によって形成されたものであると考えられる.変成作用の温度圧力条件は,ザクロ石-黒雲母交換温度計 (Ferry and Spear, 1978) によりT=545-679 ℃,ザクロ石-斜長石-白雲母-黒雲母地質圧力計 (Hoisch, 1990) によりP=1.1-3.1 kbarが見積もられた.ただし,変成岩類の近傍に花崗岩類が分布していることから花崗岩類貫入の熱による組成の改変が考えられるためこれらの値は参考値とする.
以上より推定される神室山の変成岩類のP-T pathは,ザクロ石が後退変成作用の記録のみを残すことから, T=545-679 ℃, P=1.1-3.1 kbarの範囲を後退変成作用が通過したということになる.神室山の片麻岩類を形成した広域変成作用はこれよりも高い温度圧力条件であることが推定可能である.その場合,阿武隈変成岩の一つである竹貫変成岩と同程度の変成作用であったことがわかるため,神室山の変成岩類は阿武隈変成岩と対比される可能があることがわかった.
<引用文献>
Ferry, J. M. and Spear, F. S. (1978) Contrib Mineral Petrol, 66, 113 -117.
Hoisch, D . (1990) Contrib Mineral Petrol, 104, 225-234.
Kretz, R. (1973) Canad, Mineral, 12, 1-20.
町田怜史・石渡明 (2010) 日本鉱物学会2010年年会講演要旨集, R4-P09.
宮下由香里 (1996) 地質学雑誌, 2, 84-104.
笹田政克 (1985) 地質学雑誌, 91 (1) , 1-17.
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