講演情報
[T1-P-15]変形実験と矛盾する低温で延性変形する天然苦灰岩:ヨーロッパアルプスの例
*髙畑 彩1、ウォリス サイモン1 (1. 東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)
キーワード:
ドロマイト、延性変形、東アルプス山脈
本研究は、東アルプス山脈での野外調査を踏まえ、苦灰岩(ドロマイト岩石)の変形要因の解明について考察するものである。
ヨーロッパのアルプスなどの大陸衝突帯には、大陸縁辺に多い炭酸塩岩が広く分布するという特徴がある。また、造山帯の変形は炭酸塩岩層に集中することが多い。なぜなら、炭酸塩岩の主要鉱物である方解石(CaCO3)は200℃以下でも延性変形できるかなり柔らかい鉱物であるからである。一方、大陸縁辺の炭酸塩岩には主としてドロマイト(MgCa(CO3)2)からなる苦灰岩(ドロマイト岩石)も多く存在する。ドロマイトは方解石と結晶構造など類似した炭酸塩鉱物であるが、変形実験の結果に基づき、ドロマイトは方解石より降伏応力が高く、600°C以上の高い温度でないと延性変形しないと考えられている(Delle Piane et al., 2008, Li et al., 2021)。しかし、主にドロマイトからなる苦灰岩は600°Cより有意に低い温度 (~300°C)でも延性変形する(Newman & Mitra, 1994)という報告例がある。硬いはずのドロマイトは何故柔らかく振る舞うことができるのかは未解決の問題である。
ヨーロッパのアルプス造山帯は、アフリカ大陸とヨーロッパ大陸との間に挟まれたアドリアマイクロプレートとヨーロッパ大陸縁辺の北西-南東方向の衝突によって形成された(Wallis & Behrmann, 1996)。造山運動は白亜紀後期に始まり、現在まで続いている。衝突前、アドリアマイクロプレートとヨーロッパ大陸との間にはテチス海が広がり、海の両側に炭酸塩岩の多い大陸縁辺が存在し、また炭酸塩プラットフォームも数多く存在した。有名な例として、イタリアの北部に位置する、主に苦灰岩からなるドロミーティ山脈(Dolomiti)が挙げられる。これらの苦灰岩と同時期に堆積した、炭質物を多く含む石灰質半遠洋性堆積物も広く分布する。これらの堆積物は炭酸塩プラットフォームから剥がれ落ちてきたブロックや砂粒子など様々な大きさを示す苦灰岩を含む。
本研究の調査地域は、東アルプスのTauernfenster南東部(オーストリア)にあり、アドリア大陸の基盤岩と海底堆積物がプレート境界に相当する大きなテクトニック境界の付近で強く変形した地域である。先行研究(Bickle & Powell, 1977)により、変成温度は約300°Cであり、延性変形を含む様々な変形組織を示す苦灰岩は、露出している低温での苦灰岩の変形を調べるのに適している。この苦灰岩には、強い延性変形を被ったことを示唆する面構造や、ブーダン構造など脆性変形を示すものもある。また、本調査地域の苦灰岩は石英の多い砂岩層の上に堆積し、その後、その砂岩は変成作用と変形を受けて石英片岩となった。石英片岩の微細組織解析により変形時の応力を推定でき、苦灰岩と隣接するので、苦灰岩の変形時に作用していた応力を推定できるということも本調査地域の特長である。
本研究に関する昨年の野外調査では、まず、堆積物として形成した苦灰岩のブロックと造山運動によって形成したブロックを識別した。また、造山運動によって変形した苦灰岩の中で、隣接する脆性変形を示すものと延性変形を示すもののサンプルを採取した。面構造を示す苦灰岩は10μmほどの粒径を呈し、非変形の苦灰岩に比べて非常に細粒になっており、細粒化は苦灰岩の低温延性変形を促進すると推測できる。細粒化すると拡散クリープや粒界滑りが起こりやすくなるため、これらのメカニズムが重要な役割を果たしている可能性がある。また、面構造に平行かつ粗粒な1-2mmの層も存在し、面構造を横切る同様な脈も存在する。これらの脈が示す流体の流入も変形に関わっている可能性がある。本発表では、延性変形を示す苦灰岩の微細組織や組成分析、また詳細な温度決定を紹介し、延性変形の条件を制約する。これらの情報に基づき苦灰岩の延性変形の要因に迫る。
文献:Delle Piane et al (2008). Journal of Structural Geology, 30, 767-776
Li et al (2021). Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 126
Newman & Mitra (1994). Geological Society of American Bulletin, 106, 1267-1280
Wallis & Behrmann (1996). Journal of Structural Geology, 18, 1455-1470
Bickle & Powell (1977). Contributions to Mineralogy and Petrology, 59, 281-292
ヨーロッパのアルプスなどの大陸衝突帯には、大陸縁辺に多い炭酸塩岩が広く分布するという特徴がある。また、造山帯の変形は炭酸塩岩層に集中することが多い。なぜなら、炭酸塩岩の主要鉱物である方解石(CaCO3)は200℃以下でも延性変形できるかなり柔らかい鉱物であるからである。一方、大陸縁辺の炭酸塩岩には主としてドロマイト(MgCa(CO3)2)からなる苦灰岩(ドロマイト岩石)も多く存在する。ドロマイトは方解石と結晶構造など類似した炭酸塩鉱物であるが、変形実験の結果に基づき、ドロマイトは方解石より降伏応力が高く、600°C以上の高い温度でないと延性変形しないと考えられている(Delle Piane et al., 2008, Li et al., 2021)。しかし、主にドロマイトからなる苦灰岩は600°Cより有意に低い温度 (~300°C)でも延性変形する(Newman & Mitra, 1994)という報告例がある。硬いはずのドロマイトは何故柔らかく振る舞うことができるのかは未解決の問題である。
ヨーロッパのアルプス造山帯は、アフリカ大陸とヨーロッパ大陸との間に挟まれたアドリアマイクロプレートとヨーロッパ大陸縁辺の北西-南東方向の衝突によって形成された(Wallis & Behrmann, 1996)。造山運動は白亜紀後期に始まり、現在まで続いている。衝突前、アドリアマイクロプレートとヨーロッパ大陸との間にはテチス海が広がり、海の両側に炭酸塩岩の多い大陸縁辺が存在し、また炭酸塩プラットフォームも数多く存在した。有名な例として、イタリアの北部に位置する、主に苦灰岩からなるドロミーティ山脈(Dolomiti)が挙げられる。これらの苦灰岩と同時期に堆積した、炭質物を多く含む石灰質半遠洋性堆積物も広く分布する。これらの堆積物は炭酸塩プラットフォームから剥がれ落ちてきたブロックや砂粒子など様々な大きさを示す苦灰岩を含む。
本研究の調査地域は、東アルプスのTauernfenster南東部(オーストリア)にあり、アドリア大陸の基盤岩と海底堆積物がプレート境界に相当する大きなテクトニック境界の付近で強く変形した地域である。先行研究(Bickle & Powell, 1977)により、変成温度は約300°Cであり、延性変形を含む様々な変形組織を示す苦灰岩は、露出している低温での苦灰岩の変形を調べるのに適している。この苦灰岩には、強い延性変形を被ったことを示唆する面構造や、ブーダン構造など脆性変形を示すものもある。また、本調査地域の苦灰岩は石英の多い砂岩層の上に堆積し、その後、その砂岩は変成作用と変形を受けて石英片岩となった。石英片岩の微細組織解析により変形時の応力を推定でき、苦灰岩と隣接するので、苦灰岩の変形時に作用していた応力を推定できるということも本調査地域の特長である。
本研究に関する昨年の野外調査では、まず、堆積物として形成した苦灰岩のブロックと造山運動によって形成したブロックを識別した。また、造山運動によって変形した苦灰岩の中で、隣接する脆性変形を示すものと延性変形を示すもののサンプルを採取した。面構造を示す苦灰岩は10μmほどの粒径を呈し、非変形の苦灰岩に比べて非常に細粒になっており、細粒化は苦灰岩の低温延性変形を促進すると推測できる。細粒化すると拡散クリープや粒界滑りが起こりやすくなるため、これらのメカニズムが重要な役割を果たしている可能性がある。また、面構造に平行かつ粗粒な1-2mmの層も存在し、面構造を横切る同様な脈も存在する。これらの脈が示す流体の流入も変形に関わっている可能性がある。本発表では、延性変形を示す苦灰岩の微細組織や組成分析、また詳細な温度決定を紹介し、延性変形の条件を制約する。これらの情報に基づき苦灰岩の延性変形の要因に迫る。
文献:Delle Piane et al (2008). Journal of Structural Geology, 30, 767-776
Li et al (2021). Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 126
Newman & Mitra (1994). Geological Society of American Bulletin, 106, 1267-1280
Wallis & Behrmann (1996). Journal of Structural Geology, 18, 1455-1470
Bickle & Powell (1977). Contributions to Mineralogy and Petrology, 59, 281-292
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