講演情報
[T1-P-16]神居古潭帯と青海-蓮華帯のひすい輝石岩のジルコンU-Pb年代:残存島弧の沈み込みによるひすい形成の試論
*植田 勇人1、竹之内 耕2、小河原 孝彦2 (1. 新潟大学、2. フォッサマグナミュージアム)
キーワード:
ひすい輝石、ジルコンU-Pb年代、残存島弧
【はじめに】ひすい輝石岩は海洋プレートの沈み込みに伴う高圧変成帯や蛇紋岩メランジを象徴する岩石でありながら,その形成過程や希少性の要因が十分に理解されているとは言い難い.本発表では,形成の年代や圧力条件が異なる北海道神居古潭帯と糸魚川市の青海-蓮華帯のひすい輝石岩を比較し,それらの形成過程解明に向けた新たな仮説を提示する.【神居古潭帯】白亜紀~古第三紀の高圧変成帯である神居古潭帯には,ひすい輝石+石英の組み合わせを持つ変成岩が産し,それらの中には花崗質岩の原岩組織を残すものが知られている.今回ジルコンを抽出した岩石(以下,変トーナル岩とする)は神居古潭峡谷地域の転石であり,等粒状組織の名残と思われる塊状でまだらな組織をもつ.石英のほか,斜長石であったと思われる部分をおもにひすい輝石とローソン石が,また,火成有色鉱物であったと思われる部分を藍閃石が占め,曹長石は見られない.当岩塊の縁には蛇紋岩との反応縁(リンド)の疑いがある藍閃石岩が付着している.当試料から得られたジルコンにはオシラトリー累帯が認められ,およそ160 MaのU-Pb年代が得られた.中央北海道の白亜紀付加体中には,トーナル岩を伴う島弧起源のオフィオライト岩類が産し,これらは現在の九州-パラオ海嶺のような海洋プレート上の残存島弧が沈み込む際に付加したと提唱されている(Ueda & Miyashita, 2005, Island Arc, 14, 582-).これらのトーナル岩からは,今回の変トーナル岩に近い160-170 MaのジルコンU-Pb年代が得られている.そのため,白亜紀に沈み込んだ残存島弧のトーナル岩がひすい輝石+石英の安定領域に達した際に当岩石が形成された可能性を指摘できる.【青海-蓮華帯】検討した岩石は青海川橋立産の石英を欠き曹長石を伴うひすい輝石岩である.当試料の周縁部には櫛状に並んだ角閃石(大部分は二次的に緑泥石や滑石に変質)からなる明瞭なリンドがみられることから,ひすい輝石岩と周囲の超苦鉄質岩が平衡共存できず反応縁を生じたことが示唆される.このため当該岩石は熱水からの沈殿よりは既存の岩石の交代作用で形成された可能性が高い.当岩石に含まれるジルコンのCL像には明瞭なオシラトリー累帯とセクター累帯が見られ,520 Ma前後のU-Pb年代が得られた.また,局所的にみられる薄いリムからは470 Ma前後と若めのU-Pb年代が得られた.ジルコンの組織から,当該岩石はジルコンを伴う約520 Maの火成岩を原岩とし,470 Ma以降にジルコン周縁部の鉛ロスや二次成長を伴う改変がおこったことが示唆される.仮に原岩が花崗岩や閃緑岩のようなジルコンを含む珪長質火成岩だとすると,曹長石+ひすい輝石が安定な中圧条件において,シリカに不飽和な周囲の超苦鉄質岩へ向かって原岩からシリカが拡散する際の反応(例えば,曹長石+水→ひすい輝石+シリカ溶液; シリカ溶液+かんらん石→蛇紋石,滑石)によって説明できるかもしれない.【島弧沈み込み仮説】沈み込み帯において変成や交代作用でひすい輝石岩が形成されるためには,曹長石成分に富みマフィック成分に乏しい珪長質な岩石が沈み込む必要がある.ジルコンU-Pb年代から,神居古潭帯のひすい輝石岩は海洋プレート上の島弧火成岩が沈み込む際に形成された可能性が示唆された.現在のフィリピン海プレート上にある残存島弧の各所にトーナル岩が産出することから考えて,このような海洋性島弧-背弧系の沈み込みは,ウェッジマントルに珪長質火成岩を搬入しうる普遍的なイベントであることを指摘できる.青海-蓮華帯形成時に島弧の沈み込みがあったかは不明であるが,仮に同様のプロセスで珪長質火成岩がマントルまで沈み込んだ際には,たとえ圧力が不十分でも,周囲の超苦鉄質岩との化学組成差が著しいために,元素拡散によって曹長石からひすい輝石が生じうると考えられる.このような仮説が成立しうるか,今後検討していきたい.
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