講演情報
[T1-P-18]紀伊半島中央部の白亜紀四万十付加体に含まれる蛇紋岩の起源と交代作用
*志村 侑亮1、遠藤 俊祐2、淺原 良浩3 (1. 産総研地質調査総合センター、2. 島根大学、3. 名古屋大学)
キーワード:
蛇紋岩、交代作用、四万十付加体、白亜紀
【はじめに】沈み込み帯プレート境界で形成される地質体(付加体や高圧変成岩類)には,蛇紋岩やかんらん岩などマントル由来の岩石が含まれることがあり,これらの岩石は,大きくマントルウェッジを起源とするものと海洋リソスフェアを起源とするものがある.代表的な例として,白亜紀の東アジア東縁部沈み込み帯で形成された三波川高圧変成岩類が挙げられる.Aoya et al. (2013)1は,三波川高圧変成岩類には数m~数kmサイズの蛇紋岩ブロックがザクロ石帯よりも高変成部に産することに着目し,これらの蛇紋岩はマントルウェッジ起源のものであると結論付けた.他の例として,ヨーロッパアルプスの高圧変成岩類に含まれる蛇紋岩(アルプス西部のリグロ・ピエモンテオフィオライトなど)は,海洋地殻が定常的に形成されない低速拡大海嶺部に露出したマントル,すなわち海洋リソスフェアを起源とすることが知られている2.一方,上記の起源では説明できないものもいくつか存在する.紀伊半島中央部に分布する白亜紀四万十付加体の麦谷ユニットには,一部で蛇紋岩が分布することが知られている3.本ユニットはザクロ石帯よりも低変成度(パンペリー石-アクチノ閃石相)の弱変成付加体であり,この蛇紋岩がマントルウェッジ起源とは考えにくい.また,本ユニットを形成した海洋プレート(イザナギプレート)は,高速拡大海嶺で形成したため海底に蛇紋岩が露出していたとも考えにくい.そこで本研究では,麦谷ユニットに含まれる蛇紋岩とその周辺において野外調査を実施し蛇紋岩の産状を把握するとともに,蛇紋岩の鉱物化学組成を検討することで蛇紋岩の起源や成因を推定した.また,蛇紋岩との接触面には交代作用による反応帯が確認されている3.近年,プレート境界の蛇紋岩と交代作用で形成された岩石は,深部スロー地震の発生と関連していることが明らかになり4,プレート境界の地質体と蛇紋岩との間の加水-脱水反応・元素移動など交代作用の実態を解明することが重要になりつつある.本研究では,蛇紋岩と接触する玄武岩の全岩化学組成を検討し,麦谷ユニット中の玄武岩と蛇紋岩の間の交代作用についても検討した.
【結果と考察】蛇紋岩は,幅数m~十数mで,麦谷ユニット中のメランジュ(泥質基質中に砂岩・珪長質凝灰岩・チャート・玄武岩の岩塊を伴う)の岩相境界面を切って分布しており,境界部には交代作用により幅数mのタルク岩が挟在する.境界周辺のメランジュも交代作用を受けており,特に玄武岩では著しい淡緑色化が確認される.蛇紋岩はメッシュ組織を示すリザダイト,Crスピネル,不透明鉱物からなり,北北西-南南東および北北東-南南西方向のタルク脈およびドロマイト-マグネサイト脈を伴う.一部の蛇紋岩は,東西走向で北に中角で傾斜する面構造を有しており,その方位は麦谷ユニットの片理面とほぼ平行である.メランジュとタルク岩の境界面はシャープであるのに対し,蛇紋岩とタルク岩の境界面は漸移的であり,タルク岩から蛇紋岩にかけて蛇紋岩中に含まれるタルク脈およびドロマイト-マグネサイト脈の密度が少なくなる傾向がある.蛇紋岩中のCrスピネルの化学組成を検討した結果,Cr/(Cr + Al)比が0.3–0.6程度,Mg/(Mg + Fe2+)比が0.5–0.7程度であり,この蛇紋岩は海洋リソスフェアを起源とする可能性が高い.また,この蛇紋岩がメランジュの構造を切っていること,麦谷ユニットの後退変成作用時に形成された片理面によってオーバープリントされている野外産状を考慮すると,蛇紋岩は,麦谷ユニットがプレート境界でメランジュ構造を形成した後,プレート境界から離れ上昇へと転換した時期より前に取り込まれたことを示唆する.交代作用を受けた淡緑色玄武岩とその影響がない濃緑色玄武岩溶岩を対象に全岩化学組成を検討した結果,淡緑色玄武岩は濃緑色玄武岩溶岩よりもMgに富んでいることがわかった.これは,蛇紋岩との接触に伴う交代作用でMgが付加されたことで説明できる.一方,Si濃度には変化がない.蛇紋岩とメランジュの境界部に挟在するタルク岩は,Crスピネルを含むこと,蛇紋岩と漸移関係であることから蛇紋岩のSi交代作用で形成されたといえ,タルク岩形成の上でメランジュ中のSiもしくは外部Si流体からの供給が必要である.今回の全岩化学組成の結果を考慮すると,タルク形成に関連した蛇紋岩のSi交代作用は外部Si流体によるものと推察される.[文献:1Aoya et al., 2013, Geology, 41, 451–454. 2Agard, 2021, Earth-Sci. Rev., 214, 103517. 3志村ほか, 2020, 地質雑, 126, 383–399. 4Tarling et al., 2019, Nat. Geosci., 12, 1034–1042.]
【結果と考察】蛇紋岩は,幅数m~十数mで,麦谷ユニット中のメランジュ(泥質基質中に砂岩・珪長質凝灰岩・チャート・玄武岩の岩塊を伴う)の岩相境界面を切って分布しており,境界部には交代作用により幅数mのタルク岩が挟在する.境界周辺のメランジュも交代作用を受けており,特に玄武岩では著しい淡緑色化が確認される.蛇紋岩はメッシュ組織を示すリザダイト,Crスピネル,不透明鉱物からなり,北北西-南南東および北北東-南南西方向のタルク脈およびドロマイト-マグネサイト脈を伴う.一部の蛇紋岩は,東西走向で北に中角で傾斜する面構造を有しており,その方位は麦谷ユニットの片理面とほぼ平行である.メランジュとタルク岩の境界面はシャープであるのに対し,蛇紋岩とタルク岩の境界面は漸移的であり,タルク岩から蛇紋岩にかけて蛇紋岩中に含まれるタルク脈およびドロマイト-マグネサイト脈の密度が少なくなる傾向がある.蛇紋岩中のCrスピネルの化学組成を検討した結果,Cr/(Cr + Al)比が0.3–0.6程度,Mg/(Mg + Fe2+)比が0.5–0.7程度であり,この蛇紋岩は海洋リソスフェアを起源とする可能性が高い.また,この蛇紋岩がメランジュの構造を切っていること,麦谷ユニットの後退変成作用時に形成された片理面によってオーバープリントされている野外産状を考慮すると,蛇紋岩は,麦谷ユニットがプレート境界でメランジュ構造を形成した後,プレート境界から離れ上昇へと転換した時期より前に取り込まれたことを示唆する.交代作用を受けた淡緑色玄武岩とその影響がない濃緑色玄武岩溶岩を対象に全岩化学組成を検討した結果,淡緑色玄武岩は濃緑色玄武岩溶岩よりもMgに富んでいることがわかった.これは,蛇紋岩との接触に伴う交代作用でMgが付加されたことで説明できる.一方,Si濃度には変化がない.蛇紋岩とメランジュの境界部に挟在するタルク岩は,Crスピネルを含むこと,蛇紋岩と漸移関係であることから蛇紋岩のSi交代作用で形成されたといえ,タルク岩形成の上でメランジュ中のSiもしくは外部Si流体からの供給が必要である.今回の全岩化学組成の結果を考慮すると,タルク形成に関連した蛇紋岩のSi交代作用は外部Si流体によるものと推察される.[文献:1Aoya et al., 2013, Geology, 41, 451–454. 2Agard, 2021, Earth-Sci. Rev., 214, 103517. 3志村ほか, 2020, 地質雑, 126, 383–399. 4Tarling et al., 2019, Nat. Geosci., 12, 1034–1042.]
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