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[T2-P-7]東南極リュツォ・ホルム岩体,ベストホブデ東岩に分布する片麻岩類の変成温度圧力条件

*馬場 壮太郎1、中野 伸彦2、加々島 慎一3、亀井 淳志4、外田 智千5 (1. 琉球大学、2. 九州大学、3. 山形大学、4. 島根大学、5. 極地研究所)
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キーワード:

南極、変成作用、高温変成岩

東南極のドロンイングモードランド東部(35°E) からエンダビーランド西部(45°E)にかけての地域には,エディアカラ〜カンブリア紀の変動帯であるリュツォ・ホルム岩体が分布する(Hiroi et al., 1991; Shiraishi et al., 1994; 2003). 近年,U-Pbジルコン年代や岩相に基づき,ユニット区分(Takahashi et al., 2018; Takamura et al., 2018; Dunkley et al., 2020)が提案されている.しかしこれらは宗谷海岸周辺の露岩を対象にしたものであり,リュツォ・ホルム湾西部地域については未踏査露岩,年代未測定露岩もあり,不明な点が多い.
 ベストホブデは,リュツォ・ホルム湾の西方に位置するフレッタ湾の東に点在する小露岩群で,西岩,中岩,北岩,東岩に区分されている.アウストホブデの西,約17 kmに位置し,Dunkley et al. (2020)の区分ではルンドボークスヘッタスーツの延長に相当する.しかしこの地域の片麻岩類について変成年代および変成作用についての報告は無いため,その連続については明らかでない.第63次日本南極地域観測隊地質グループは,比較的広い露岩の東岩について調査を実施した.露岩は主に茶褐色の斜方輝石黒雲母片麻岩から構成され,ザクロ石黒雲母片麻岩,優白質片麻岩,塩基性グラニュライト,カルクシリケート,ペグマタイトを伴う.既存の地質図ではザクロ石黒雲母片麻岩が卓越するとされているが,異なっていた.片理は東北−南西のトレンドを示し,南東に中程度傾斜する.斜方輝石黒雲母片麻岩は稀にザクロ石を含むことがある.ザクロ石黒雲母片麻岩は,優白質片麻岩に隣接して層状に産するが,ところにより珪線石,ヘルシナイトに富む片麻岩が認められる.
 ザクロ石−ヘルシナイト−珪線石片麻岩およびザクロ石−斜方輝石−黒雲母片麻岩について,シュードセクションモデルを作成したところ,約780–830 ℃,6.0±0.5 kbar、約800±10 ℃,6.0–5.5 kbarの条件がそれぞれ見積もられた.これまでリュツォ・ホルム岩体のルンドボークスヘッタの北部やスカレビークハルセンなどから,高温高圧条件(12kbar以上,850~1000°C)から減圧する温度圧力経路が報告されており (Motoyoshi and Ishikawa, 1997; Kawasaki et al., 2011; Yoshimura et al., 2008; Kawakami et al., 2016; Hiroi et al., 2019),リュツォ・ホルム岩体では同一の経路を辿ったと考えられている.ベストホブデ東岩から採取した岩石には減圧過程を示す鉱物組織は認められず,加えて推定された変成ピーク時の圧力条件は低い. この結果はリュツォ・ホルム岩体最南の孤立露岩(ボツンヌーテン)から得られた条件に一致する(Baba et al., in press). リュツォ・ホルム岩体において,変成作用に関する研究が行われた露岩には偏りがあり,未知の場所も多い.岩体全域を網羅し変成作用の相違に基づく地殻形成過程の構築が望まれる.
 引用文献:Baba et al. (2024) Mineral. Petrol., in press. Dunkley et al. (2020) Polar Sci., 26, 100606. Hiroi et al. (1991) Geological Evolution of Antarctica, 83-87. Hiroi et al. (2019) J. Mineral. Petrol. Sci., 114, 60-78. Kawakami et al. (2016) J. Mineral. Petrol. Sci., 111, 129–143. Kawasaki et al. (2011) Gondwana Res., 19, 430–445. Motoyoshi & Ishikawa (1997) The Antarctic Region: Geological Evolution and Processes, 65–72. Shiraishi et al. (1994) J. Geol., 102, 47–65. Shiraishi et al. (2003) Polar Geosci., 16, 76-99. Takahashi et al. (2018) J. Asian Earth Sci, 157, 245–265. Takamura et al. (2018) Geosci. Front., 9, 355–375. Yoshimura et al. (2008) Geol. Soc. London Spec. Publ., 308, 377–390

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