講演情報
[T9-O-1]秋田県八峰町,泊海岸の上部中新統~鮮新統「素波里安山岩」にみられる枕状溶岩と偽枕状溶岩の共存の意義
*橋本 純1、安井 光大2,3、相澤 正隆4、井村 匠5、星出 隆志6、畠山 富昌2、秋元 裕子3、勝長 あかね3、勝長 嘉3、菊地 真由美3、斉藤 誠悦3、鈴木 和人3、鈴木 悟3、瀧本 孝子3、西出 静3、花下 哲3、藤枝 忠靖3、米森 咲3、澤藤 凌太2、林 信太郎7 (1. ジオわーくサイエンス、2. 株式会社創研コンサルタント、3. 八峰白神ジオパークガイドの会、4. 北海道教育大学札幌校、5. 山形大学、6. 秋田大学、7. 秋田大学名誉教授)
キーワード:
八峰白神ジオパーク、素波里安山岩、枕状溶岩、偽枕状溶岩
はじめに
水中火山岩において,低粘性マグマに由来する枕状溶岩は古くからよく知られている[1][2] 。一方,水中を前進中の粘性の高い溶岩に湾曲した割れ目が発達し,これに沿って侵入した水で急冷され,分離したことで形成される偽枕状溶岩は阿蘇カルデラ内において初めて記載された[3]。これに類似した岩相(pseudo-pillow fracture)は,最近,岩手火山群網張火山の玄武洞溶岩流からも報告されている[4]。今回,演者らは秋田県八峰町の泊海岸における野外調査の段階で,上記に関連した興味深い産状を確認したので報告する。
泊海岸にみられる素波里安山岩
秋田県の北西部に分布する「素波里安山岩」は,藤里町~八峰町の東西約30kmに及んで点在し,最東部岩体,東部岩体,西部岩体に区分される。本岩体の全岩K-Ar年代は,岩体ごとにそれぞれ4.7Ma,6.6~3.9Ma,9.7~3.7Maであり,比較的長期にわたる火山活動の産物と考えられる[5][6]。八峰町に分布する西部岩体は,柱状節理が発達したマッシブ溶岩や自破砕溶岩,枕状溶岩,凝灰角礫岩と多様な野外産状が報告されているが [7],今回さらに,泊海岸の水中火山岩相を①北東部エリアの火山性再堆積物,②南部エリアのハイアロクラスタイト,③西部エリアの枕状溶岩に大別した。
泊海岸の①北東部エリアは,下部が角礫支持の火山性再堆積物で,しばしば赤色酸化した角礫が混在する。一方,上部へ移るにつれ,葉理構造の発達した礫層へリズミックに漸移し,その傾斜は概ね西落ちである。なお下部には隣接する椿海岸のものと同様の流理構造を伴う柱状節理からなる安山岩片がごくまれに含まれることから,椿海岸の溶岩が先行して噴出したことが示唆される。②南部エリアのハイアロクラスタイトでは,しばしば多面体をなす偽枕状溶岩が認められ,北東部エリアの火山性再堆積物から漸移しているように見え,これらは同時異相の可能性がある。偽枕状溶岩は内部が明るい灰色を呈する安山岩で,薄い急冷周縁相(rind)を伴い,外形に垂直な内部割れ目が発達しているものの放射状を呈しない。③西部エリアの枕状溶岩は内部が黒色を呈する玄武岩で,北東部エリアの火山性再堆積物最上部の火山礫凝灰岩相の上位にN54W30Wの走向傾斜で接して分布する。この枕状溶岩は、親枕(1st pillow)から小さな娘枕(2nd pillow)が派生している様子や,厚い急冷周縁相(crust)が確認できる。内部断面には放射状割れ目が発達しているほか,しばしばhollowも確認できる。また全長3メートルを優に超える pillow lobe も認められ,内部には放射状割れ目が一部みられる。
以上から,泊海岸では枕状溶岩と偽枕状溶岩が接していることが明らかになったが,水中火山岩の噴出モデル図でも,前者が玄武岩質~安山岩質,後者が安山岩質~流紋岩質マグマに由来するとされており[8],両者が共存すること自体が極めて珍しい。
考察
泊海岸では枕状溶岩と偽枕状溶岩が接して産するが,これまで枕状溶岩と偽枕状溶岩が相伴って産する類例は報告されていない。枕状溶岩と偽枕状溶岩は,ともに水中に定置した溶岩として定義される。前者はpillow単体で冷却されるのに対して,後者はより大きな溶岩塊から急冷・分離したと考えられている。また,下位に分布する偽枕状溶岩は安山岩質,上位に分布する枕状溶岩は玄武岩質であり,性質の異なるマグマに由来する地質体が一箇所で共存している。産状と分布からみて,泊海岸一帯では,より東方の(少なくとも)二つの噴出源からの粘性の異なるマグマ同士が,ほぼ同時期に浅海域に流入した結果,枕状溶岩および偽枕状溶岩として一箇所に定置したと考えられる。
引用文献
[1]Rittmann, A.(1962)Volcanoes and their activities. Interscience Publisher, New York.
[2]山岸宏光(1973)火山, 18.
[3]Watanabe, K. and Katsui, Y.(1976)Jour. Min. Petr. Econ. Geol. 71.
[4]Hoshide, T., Ishibashi, N. and Iwahashi, K.(2024)Bull. Volcanol., 86.
[5]中嶋聖子・周藤賢治・加々美寛雄・大木淳一・板谷徹丸(1995)地質学論集, 44.
[6]土谷信之(1999)地調月報, 50.
[7]相澤正隆・安井光大・畠山富昌・井村 匠・鈴木和人・鈴木 悟・西出 静・林信太郎(2024)日本地質学会第131年学術大会講演要旨集.
[8]Yamagishi, H.(1987)Rep. Geol. Surv. Hokkaido, 59.
水中火山岩において,低粘性マグマに由来する枕状溶岩は古くからよく知られている[1][2] 。一方,水中を前進中の粘性の高い溶岩に湾曲した割れ目が発達し,これに沿って侵入した水で急冷され,分離したことで形成される偽枕状溶岩は阿蘇カルデラ内において初めて記載された[3]。これに類似した岩相(pseudo-pillow fracture)は,最近,岩手火山群網張火山の玄武洞溶岩流からも報告されている[4]。今回,演者らは秋田県八峰町の泊海岸における野外調査の段階で,上記に関連した興味深い産状を確認したので報告する。
泊海岸にみられる素波里安山岩
秋田県の北西部に分布する「素波里安山岩」は,藤里町~八峰町の東西約30kmに及んで点在し,最東部岩体,東部岩体,西部岩体に区分される。本岩体の全岩K-Ar年代は,岩体ごとにそれぞれ4.7Ma,6.6~3.9Ma,9.7~3.7Maであり,比較的長期にわたる火山活動の産物と考えられる[5][6]。八峰町に分布する西部岩体は,柱状節理が発達したマッシブ溶岩や自破砕溶岩,枕状溶岩,凝灰角礫岩と多様な野外産状が報告されているが [7],今回さらに,泊海岸の水中火山岩相を①北東部エリアの火山性再堆積物,②南部エリアのハイアロクラスタイト,③西部エリアの枕状溶岩に大別した。
泊海岸の①北東部エリアは,下部が角礫支持の火山性再堆積物で,しばしば赤色酸化した角礫が混在する。一方,上部へ移るにつれ,葉理構造の発達した礫層へリズミックに漸移し,その傾斜は概ね西落ちである。なお下部には隣接する椿海岸のものと同様の流理構造を伴う柱状節理からなる安山岩片がごくまれに含まれることから,椿海岸の溶岩が先行して噴出したことが示唆される。②南部エリアのハイアロクラスタイトでは,しばしば多面体をなす偽枕状溶岩が認められ,北東部エリアの火山性再堆積物から漸移しているように見え,これらは同時異相の可能性がある。偽枕状溶岩は内部が明るい灰色を呈する安山岩で,薄い急冷周縁相(rind)を伴い,外形に垂直な内部割れ目が発達しているものの放射状を呈しない。③西部エリアの枕状溶岩は内部が黒色を呈する玄武岩で,北東部エリアの火山性再堆積物最上部の火山礫凝灰岩相の上位にN54W30Wの走向傾斜で接して分布する。この枕状溶岩は、親枕(1st pillow)から小さな娘枕(2nd pillow)が派生している様子や,厚い急冷周縁相(crust)が確認できる。内部断面には放射状割れ目が発達しているほか,しばしばhollowも確認できる。また全長3メートルを優に超える pillow lobe も認められ,内部には放射状割れ目が一部みられる。
以上から,泊海岸では枕状溶岩と偽枕状溶岩が接していることが明らかになったが,水中火山岩の噴出モデル図でも,前者が玄武岩質~安山岩質,後者が安山岩質~流紋岩質マグマに由来するとされており[8],両者が共存すること自体が極めて珍しい。
考察
泊海岸では枕状溶岩と偽枕状溶岩が接して産するが,これまで枕状溶岩と偽枕状溶岩が相伴って産する類例は報告されていない。枕状溶岩と偽枕状溶岩は,ともに水中に定置した溶岩として定義される。前者はpillow単体で冷却されるのに対して,後者はより大きな溶岩塊から急冷・分離したと考えられている。また,下位に分布する偽枕状溶岩は安山岩質,上位に分布する枕状溶岩は玄武岩質であり,性質の異なるマグマに由来する地質体が一箇所で共存している。産状と分布からみて,泊海岸一帯では,より東方の(少なくとも)二つの噴出源からの粘性の異なるマグマ同士が,ほぼ同時期に浅海域に流入した結果,枕状溶岩および偽枕状溶岩として一箇所に定置したと考えられる。
引用文献
[1]Rittmann, A.(1962)Volcanoes and their activities. Interscience Publisher, New York.
[2]山岸宏光(1973)火山, 18.
[3]Watanabe, K. and Katsui, Y.(1976)Jour. Min. Petr. Econ. Geol. 71.
[4]Hoshide, T., Ishibashi, N. and Iwahashi, K.(2024)Bull. Volcanol., 86.
[5]中嶋聖子・周藤賢治・加々美寛雄・大木淳一・板谷徹丸(1995)地質学論集, 44.
[6]土谷信之(1999)地調月報, 50.
[7]相澤正隆・安井光大・畠山富昌・井村 匠・鈴木和人・鈴木 悟・西出 静・林信太郎(2024)日本地質学会第131年学術大会講演要旨集.
[8]Yamagishi, H.(1987)Rep. Geol. Surv. Hokkaido, 59.
