講演情報

[T9-O-3]博物館特別展「ナウマン博士とひも解く日本の地質学の原点と未来」開催報告

*郡山 鈴夏1、香取 拓馬1、小河原 孝彦1、茨木 洋介1、竹之内 耕1 (1. フォッサマグナミュージアム)
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 1 はじめに
 新潟県糸魚川市は、日本列島を東西に分断する糸魚川‐静岡構造線や国石ヒスイなど地質資源に恵まれた地域である。2009年には日本初のジオパークに認定され、地質遺産を生かした地域づくりに取り組んできた。
 拠点施設であるフォッサマグナミュージアムは、「ヒスイと化石 日本列島の成り立ちがわかる博物館」をテーマに、糸魚川の地質やヒスイ、日本列島の形成をわかりやすく紹介している。地域に根差した市営の博物館として、資料の収集・研究・普及を行っている。
 本館名の由来「フォッサマグナ」を提唱したナウマン博士が、今年で来日150年を迎えることから、その功績を紹介する特別展を開催した。以下に報告する。

2 ナウマン博士来日150周年
 ハインリッヒ・エドムント・ナウマン(Heinrich Edmund Naumann, 1854年~1927年)はドイツ出身の地質学者であり、「日本地質学の父」と称される。1875(明治8)年に20歳で来日し、以降10年間にわたり日本各地で地質調査を行い、日本初の本格的な地質図(北海道を除く)を完成させた。また、地質調査所の設立や地質学者の育成にも尽力するなど、日本近代地質学の基礎を築いた。
 2025年は博士の来日から150年の節目にあたり、当館ではその功績を振り返る特別展を開催した。特別展は博士の業績を紹介するとともにそれが現在の研究や生活とどのようにつながっているかを示す内容とした。

3 特別展開催報告
 特別展の概要は以下の通り。地質の日と合わせて5月10日からの開催した(Fig1:特別展ポスター)。
会期:2025年5月10日(土)~7月6日(日)
場所:糸魚川フォッサマグナミュージアム(新潟県糸魚川市一の宮1313)
来場者数:11,879人

 メイン展示は、会場全体の床面を使ったすごろく形式で、ナウマン博士の日本での10年間の歩みをたどる構成とした。歴史展示は年表形式が一般的だが単調になりやすく、来館者の興味を引きにくい。そこで当館では、体を使って楽しみながら学べるよう、床面を使ったすごろく形式の展示を試みた。結果として、子どもたちがマスを追って展示を楽しむ様子が見られ、体感型展示の効果が確認された(郡山,2024)。
 床面の展示は、博士の研究と現代の地質学の発展へとつなぐ4つの分岐で構成した。
 分岐①:フォッサマグナの発見(Naumann,1893:山下,1996)と糸魚川静岡構造線
 分岐②:火山研究(Naumann,1877:山下,1996)と現代の活火山の観測体制
 分岐③:日本最古の化石の発見(Naumann,1881:山下,1996)と最古更新の歴史
 分岐④:地磁気の発見(Naumann,1883;山田・矢島,2014)とチバニアンの認定
 博士の業績を過去の事実に留めずに、それらが現在の研究や私たちの暮らしとどう結びついているかを、展示とパネルで示した。
 ゴール地点では、日本列島の地質図の完成と発表、そして博士が設立に尽力した地質調査所(現・産業技術総合研究所地質調査総合研究センター)による、現在の地質図作成の取り組みを紹介した。

 本特別展に合わせて2回の講演会を開催した。初日は「地質の日」に合わせて、日本地質学会主催の「ナウマン来日150年 その功績と足跡を辿る」と連動し、オンライン配信も実施。講師は、日本でのナウマン博士研究の第一人者、矢島道子氏(東京都立大学)。博士の人柄や業績についてご講演いただいた。
 また、学術講演として片山郁夫氏(広島大学)による「水の惑星『地球』の未来のすがた」も実施。片山氏は日本地質学会が設けた「H.Eナウマン賞」の初代受賞者であり、本特別展の講演会にふさわしい講師であった。
 初日のオープニングセレモニーには多くの来館者が訪れ、講演会には80名を超える現地参加があった。ナウマン博士の知名度とその功績への関心の高さを実感する機会となった。博士が築いた日本地質学の礎は、現在の地質研究につながっている。本特別展を通じて、多くの来館者と共有することができた。

引用文献
郡山鈴夏(2024)糸魚川フォッサマグナミュージアムにおける体感型展示物作成.第32回全国科学博物館協議会研究発表大会要旨,199‐204.
Naumann, E.(1893)日本の地質と地理への新貢献‐フォッサマグナ‐**
Naumann, E.(1877)火山島大島とその最新の噴火.*
Naumann, E.(1881)北部日本における三畳紀層の産出について.
*邦訳:山下昇.(1996)「日本地質の探求‐ナウマン論文集‐」,東京大学出版会,東京,403p.
Naumann, E.(1883)日本における地磁気偏角の永年変化に関する覚書.邦訳:山田直利・矢島道子(2014)GSJ地質ニュース,3,334–345.