講演情報
[T1-O-1]地球化学モデリングによる飛騨帯ジュラ紀深成岩類の成因の再検討
*三上 航大1、水上 知行1 (1. 金沢大学)
キーワード:
飛騨帯、熱力学モデリング、深成岩
飛騨帯は大陸地殻の断片と考えられている地質帯で、化学的に多様な変成岩とペルム紀―三畳紀およびジュラ紀に貫入した深成岩からなる。本研究で取り扱うジュラ紀深成岩類は、海洋沈み込み帯への移行期の地殻深部プロセスを記録していると考えられる(例えば、Takahashi et al., 2018 IslArc)。ジュラ紀深成岩類について、主に同位体データに基づく分類と成因の提案がある(Arakawa, 1990. ChemGeol; Tanaka, 1992 J Sci Hiroshima Univ, C)。Arakawa(1990 ChemGeol)やArakawa & Shinmura (1995 ChemGeol)は87Sr/86Sr初生値(ジュラ紀)が低く、多様性のないものをType1岩体(打保、下之本、神岡複合(船津)、大熊山、毛勝岳)、87Sr/86Sr初生値が高く、多様性を持つものをType2岩体(庄川、八尾、宝達山、流葉山、早月川)に分類した。岩相分布はType1岩体が正累帯、Type2岩体は逆累帯を示す。これら同位体的特徴と岩体構造を説明できるモデルとして、Type1は苦鉄質マグマからの分別結晶作用、Type2は苦鉄質マグマと地殻物質の混合とその後の分別結晶作用を成因として提案した。この成因の議論には2つの問題点がある。まず、全岩化学組成変化の定量的評価が十分とは言えない。また、始原マグマについて、島弧下マントルに由来するマフィックマグマ(Arakawa & Shinmura, 1995 ChemGeol; Arakawa et al., 2000 Tectonophys)と下部地殻の溶融マグマ(田中・大坪, 1987 地球科学)の2つの提案がある。そこで本研究では、熱力学計算と元素分配モデルを組み合わせて、ジュラ紀深成岩体のRb、Srとその同位体比組成、主要元素の変化を定量的に評価し、先行研究で提案された成因モデルの検証を試みる。始めに、近年のジルコンU-Pb年代学の知見(Ishizaka & Yamaguchi, 1969 EPSL; Zhao et al., 2013 IslArc; Takehara & Horie, 2019 IslArc; 竹内ほか, 2019 地質雑; Yamada et al., 2021 JMPS)を加味して、各岩体の形成時期を整理する。ジュラ紀のジルコンU-Pb年代が得られているType1岩体は、打保、下之本、大熊山、毛勝岳、Type2岩体は、庄川、八尾、宝達山、早月川である。かつてType1深成岩体に分類された神岡複合(船津)岩体(加納・渡邊, 1995 地質雑)では、眼球状花こう岩(242.6±1.8MaのジルコンU-Pb年代)を除き、Rb-Sr同位体がジュラ紀のアイソクロンに乗る岩石群(柴田・野沢, 1984 岩石鉱物鉱床学会誌)を解析に含めた。分別結晶の計算には熱力学ソフトウェアのMAGEMin(Riel et al., 2022 G-cubed)を使用した。モデリングの各ステップで分別される鉱物相にRb、Srの分配係数を設定し(斜長石以外:Rollinson, 1993 In using geochemical data (text book) ; 斜長石: Dohmen & Blundy, 2014 AmJSci; Icenhower & London, 1996 AmMin)、マグマの微量元素組成を計算した。含水量は1wt%と5wt%で計算した。Type1の出発物質として、海洋弧玄武岩(Ge et al., 2016 SciAdv)、打保岩体閃緑岩(Arakawa & Shinmura, 1995 ChemGeol)、下之本岩体閃緑岩(Tanaka, 1992 J Sci Hiroshima Univ, C)の3種を検討した。Type2の化学的多様性については、DePaolo (1981 EPSL)のAFCモデルと、MAGEMinを用いて大陸地殻物質の寄与を検討した。同化する地殻物質として飛騨帯の変成岩を想定した。出発物質は海洋弧玄武岩を用いた。今回のType1岩体の分別結晶作用モデリングでは、主要・微量元素組成を同時に説明することが難しいことが分かった。Type1岩体のSrのSiO2に対する減少傾向は斜長石の分別を必要とするが、一方でそのような組成の斜長石の分別はAl2O3を急激に減らすため、岩石の組成分布を説明することができない。高Na2O/CaOでRbに富むメルトを出発物質とすれば実際の岩石組成により適合する。そのような特徴は大陸地殻岩石に見られる。飛騨変成岩を同化させるDePaolo (1981 EPSL)のAFCモデルでは、Type2だけでなくType1のRb-Sr同位体組成分布にも適合する条件が見つかる。MAGEMinによるAFCモデルで得られる全岩組成も同様である。以上から、マフィックマグマへの地殻の同化と結晶作用が単純かつ包括的な説明と言える。
