講演情報
[T1-O-3]鳥取県大山に産する変成花崗岩ゼノリスから示唆される山陰地域の地下岩石構造
*高橋 瑞季1、遠藤 俊祐1、中野 伸彦2、足立 達朗2 (1. 島根大学、2. 九州大学)
キーワード:
ゼノリス、パイロ変成作用、深成ー変成コンプレックス
【はじめに】 地下深くにおいて発生したマグマの上昇に伴いトラップされ,地表付近まで運ばれてきたゼノリスは,その地域の地殻~上部マントルの岩石構造に関する重要な情報源である.鳥取県西部に位置する大山は,主にデイサイトから構成される第四紀火山であり, 周辺の基盤岩として,白亜紀末から古第三紀にかけて形成された山陰花崗岩類が分布する.また大山西麓ではトリアス紀およびジュラ紀の花崗岩類(一部は片麻状構造が顕著)が産し,その火成年代や組織から古期・新期飛騨花崗岩類の分布が示唆されている(堤ほか, 2018; Kawaguchi et al., 2023).大山北壁直下の元谷ではデイサイト河床礫中に片麻状花崗岩ゼノリスが含まれることが知られている(三浦, 1989).三浦はこれらの花崗岩ゼノリス中に輝石が含まれることや,飛騨帯構成岩類との関連を述べているが,詳細な研究は行われていない.中国地方では大山の他にも複数の安山岩~デイサイト質火山に伴ったゼノリスの報告があるものの(e.g. 濡木, 1989),それらに関する年代学的検討は行われておらず,地表の基盤岩類との成因的関係も不明である. 本研究では,大山で産する片麻状花崗岩ゼノリスの詳細な記載岩石学的検討および年代学的検討を行った.なお,本研究における試料は国立公園特別保護地域内の土石の採取許可を受け採集した.
【岩石記載】片麻状花崗岩ゼノリスは,アルカリ長石を含まない石英閃緑岩~トーナル岩質の鉱物組成を有し,基質部は斜長石によるグラノブラスティック組織を示す.融食形を示す石英は,板状のトリディマイト,針状の長石類(オリゴクレース~アノーソクレース,サニディン)からなる微晶質部に取り囲まれている.肉眼で観察可能な片麻状構造は単斜輝石(オージャイト)と直方輝石からなる集合体や黒雲母集合体の形態定向配列による.基質の斜長石に比べて,輝石集合体周辺の斜長石はCaに富む.黒雲母集合体周囲の斜長石はKに富むほか,黒雲母の結晶縁部はカリ長石+直方輝石+磁鉄鉱に部分的に置き換えられている.黒雲母はフッ素を含み(F = 3.4-5.2 wt%),特に結晶周縁部ではF > OHとなる.
【ジルコンU-Pb年代】2試料の片麻状花崗岩ゼノリスからジルコンを分離しLA-ICP-MSによるU-Pb年代測定を行った.コンコーダントな238U-206Pb年代の加重平均(2σ)として,77.6 ± 1.7 Maと78.3 ± 1.4 Maが得られた.いずれの測定点もTh/U比が高く(0.28–0.70),波動累帯を示すことから火成年代と判断される.
【議論】記載岩石学的特徴から,片麻状花崗岩ゼノリスは大山のマグマ供給系に取り込まれた際のパイロ変成作用を受けている.トリディマイトを含む微晶質部はパイロ変成作用時に生じたメルトの急冷組織と考えられる.メルトを生じる反応として,ホルンブレンドと黒雲母の局所的な脱水溶融反応が考えられる.特に輝石集合体とそれに伴うCaに富む斜長石はホルンブレンドの脱水溶融反応が完全に進行した組織と考えられ,メタアルミナス花崗岩の低圧溶融実験(Patino Douce, 1997)とも整合的である.両輝石温度計や三長石温度計からパイロ変成作用の温度は1000℃に達すると推定される.一方,黒雲母の脱水溶融反応の進行は限定的で,黒雲母は残存している.これは反応残留物の黒雲母にフッ素が濃集したことで,1000℃付近でも黒雲母が安定化した可能性が考えられる.片麻状花崗岩ゼノリスの片麻状構造と,基質のグラノブラスティック組織はパイロ変成作用以前の特徴であり,ゼノリスの起源が片麻状組織を示す変成花崗岩類であることを明確に示している.また2試料の片麻状花崗岩ゼノリスがともに約78 Maの後期白亜紀の火成年代を示したことから,これらゼノリスの起源は飛騨花崗岩類ではなく,山陰花崗岩類との成因的関連が明らかとなった.しかし,片麻状花崗岩ゼノリスは,浅所貫入型の塊状岩相を主とする山陰花崗岩類の特徴とは大きく異なっている.このような岩石がゼノリスとしてのみ産することは,山陰花崗岩類の深部相として,後期白亜紀深成-変成コンプレックスが山陰地域の地下に伏在することを示唆している.
参考文献:
Kawaguchi et al. (2023) Gondwana Research, 117, 56–85.
三浦 (1989) 島根大学教育学部紀要(自然科学), 23, 25–34.
濡木 (1989) 地質学論集, 33, 277–292.
Patino Douce (1997) Geology, 25, 743-746.
堤ほか (2018) 日本地質学会第125年学術大会講演要旨.
【岩石記載】片麻状花崗岩ゼノリスは,アルカリ長石を含まない石英閃緑岩~トーナル岩質の鉱物組成を有し,基質部は斜長石によるグラノブラスティック組織を示す.融食形を示す石英は,板状のトリディマイト,針状の長石類(オリゴクレース~アノーソクレース,サニディン)からなる微晶質部に取り囲まれている.肉眼で観察可能な片麻状構造は単斜輝石(オージャイト)と直方輝石からなる集合体や黒雲母集合体の形態定向配列による.基質の斜長石に比べて,輝石集合体周辺の斜長石はCaに富む.黒雲母集合体周囲の斜長石はKに富むほか,黒雲母の結晶縁部はカリ長石+直方輝石+磁鉄鉱に部分的に置き換えられている.黒雲母はフッ素を含み(F = 3.4-5.2 wt%),特に結晶周縁部ではF > OHとなる.
【ジルコンU-Pb年代】2試料の片麻状花崗岩ゼノリスからジルコンを分離しLA-ICP-MSによるU-Pb年代測定を行った.コンコーダントな238U-206Pb年代の加重平均(2σ)として,77.6 ± 1.7 Maと78.3 ± 1.4 Maが得られた.いずれの測定点もTh/U比が高く(0.28–0.70),波動累帯を示すことから火成年代と判断される.
【議論】記載岩石学的特徴から,片麻状花崗岩ゼノリスは大山のマグマ供給系に取り込まれた際のパイロ変成作用を受けている.トリディマイトを含む微晶質部はパイロ変成作用時に生じたメルトの急冷組織と考えられる.メルトを生じる反応として,ホルンブレンドと黒雲母の局所的な脱水溶融反応が考えられる.特に輝石集合体とそれに伴うCaに富む斜長石はホルンブレンドの脱水溶融反応が完全に進行した組織と考えられ,メタアルミナス花崗岩の低圧溶融実験(Patino Douce, 1997)とも整合的である.両輝石温度計や三長石温度計からパイロ変成作用の温度は1000℃に達すると推定される.一方,黒雲母の脱水溶融反応の進行は限定的で,黒雲母は残存している.これは反応残留物の黒雲母にフッ素が濃集したことで,1000℃付近でも黒雲母が安定化した可能性が考えられる.片麻状花崗岩ゼノリスの片麻状構造と,基質のグラノブラスティック組織はパイロ変成作用以前の特徴であり,ゼノリスの起源が片麻状組織を示す変成花崗岩類であることを明確に示している.また2試料の片麻状花崗岩ゼノリスがともに約78 Maの後期白亜紀の火成年代を示したことから,これらゼノリスの起源は飛騨花崗岩類ではなく,山陰花崗岩類との成因的関連が明らかとなった.しかし,片麻状花崗岩ゼノリスは,浅所貫入型の塊状岩相を主とする山陰花崗岩類の特徴とは大きく異なっている.このような岩石がゼノリスとしてのみ産することは,山陰花崗岩類の深部相として,後期白亜紀深成-変成コンプレックスが山陰地域の地下に伏在することを示唆している.
参考文献:
Kawaguchi et al. (2023) Gondwana Research, 117, 56–85.
三浦 (1989) 島根大学教育学部紀要(自然科学), 23, 25–34.
濡木 (1989) 地質学論集, 33, 277–292.
Patino Douce (1997) Geology, 25, 743-746.
堤ほか (2018) 日本地質学会第125年学術大会講演要旨.
