講演情報
[T1-O-6]ボヘミア地塊東部に産するザクロ石かんらん岩の変成温度圧力条件
*中村 大輔1、吉田 現1 (1. 岡山大学)
キーワード:
ボヘミア地塊、ザクロ石かんらん岩、温度圧力推定、地質温度計、地質圧力計
ヴァリスカン造山帯の東端に位置するボヘミア地塊には様々な造山帯かんらん岩が産し、そうしたかんらん岩の中には3 GPa以上の超高圧条件を記録しているザクロ石かんらん岩がある。特にボヘミア地塊の東部に位置するNové Dvoryに産するザクロ石かんらん岩は1000℃, 4 GPa以上の超高温超高圧条件を示すことが確認されている(Medaris et al., 1990: Lithos 25, 189–202; Muriuki et al., 2020: JMPS 115, 1–20)。また、Nové Dvoryの近傍にあるHorní Bory採石場にもザクロ石かんらん岩が産し、ザクロ石-かんらん石温度計とAl-in-Opx圧力計を用いた推定で、レールゾライトに対して約900℃, 3.8 GPa(Ackerman et al., 2009: Chemical Geology 259, 152–167)、ザクロ石-直方輝石温度計やAl-in-Opx圧力計などを用いた推定で、ザクロ石輝岩に対して870–1030℃, 3.9–4.8 GPaといった温度圧力条件が得られている(Naemura et al., 2009: JMPS 104, 168–175)。このように、上記の2地域の変成温度圧力条件を比較すると、Nové Dvoryに産するザクロ石かんらん岩のほうが著しく高い温度条件を与えており、両者の変成温度圧力条件に明瞭な差がある。そこで、本研究ではHorní Bory採石場で採取されたザクロ石かんらん岩の分析とその変成温度圧力推定を行い、既存のデータとの比較を行った。
観察と分析を行った試料は直径1 m程度の小さなかんらん岩の岩塊から採取したザクロ石かんらん岩であるが、すべてのザクロ石粒子(直径数mm)は完全にケリファイト化しており、ザクロ石は残存していなかった。しかし、もともとザクロ石が包有していたと思われるスピネル[Cr/(Al+Cr)=0.5–0.7; 100 Mg/(Fe+Mg)=Mg#=46–56]がケリファイト中に包有されるように残存している。これらのスピネルはMuriuki et al. (2020)がNové Dvoryで記載したザクロ石中のスピネル包有物とほぼ同じ組成[Cr/(Al+Cr)=0.57–0.67; Mg#=49–54]をしている。また、マトリクスにはスピネルは無く、直径0.2–1.0 mm程度のかんらん石(Mg#=0.90–0.91)および単斜輝石[Mg#=0.93–0.95; Na/(Ca+Na)=0.07–0.13; Si=1.95–1.99 apfu (O=6)]、直方輝石[Mg#=0.91–0.92; Si=1.93–1.97 apfu (O=6)]が主なマトリクスの構成鉱物となっている。
本研究試料にはザクロ石が残存していないので、Cr-in-Cpx圧力計(Nimis & Taylor, 2000: CMP 139, 541–554)と両輝石温度計(Brey & Kohler, 1990: J. Petrol. 31, 1353–1378)を用いて、その変成温度圧力条件を算出した。輝石の組成には最もSiに富むデータを使用したところ、約830℃, 4.0 GPaとなった。この温度圧力は先行研究(Ackerman et al., 2009; Naemura et al., 2009)で見積もられている温度圧力よりやや低温であるものの圧力は同程度となった。このように、Horní Boryに産するザクロ石かんらん岩はNové Dvoryに産するものよりはるかに低い温度での変成作用しか受けていないようである。
ただし、Nové Dvoryに産するザクロ石かんらん岩の温度圧力推定については一つ問題が残っている。それはFe-Mg交換型の温度計では1000℃を遥かに超える温度が出ているのに対して、両輝石温度計を使用すると800–900℃程度の温度しか算出されないという点である。Fe-Mg交換型温度計の場合、三価の鉄の推定に問題が残る。全鉄を二価として計算した場合より三価の鉄の量を推計した場合の方が、温度が低く算出される。そこで、ザクロ石-単斜輝石温度計、ザクロ石-直方輝石温度計、両輝石温度計の3種類の温度計が近い温度を与える三価の鉄の量を計算したところ、単斜輝石は全鉄の内4割が三価、直方輝石は全鉄の内3割が三価となると上記の3種類の温度計が示す温度が900–950℃となり一致する結果となった。しかし、ザクロ石-かんらん石Fe-Mg交換型温度計も考慮すると問題が生じる。全鉄が二価とすると、この温度計は1000℃以上の温度を与えるが、かんらん石は化学量論的に計算しても三価の鉄をほとんど含んでいない。よって、化学量論的に考えて過剰な量の三価の鉄がかんらん石に含まれていない限り、ザクロ石-かんらん石温度計と両輝石温度計が与える温度のズレは解消されないという問題が残る。
観察と分析を行った試料は直径1 m程度の小さなかんらん岩の岩塊から採取したザクロ石かんらん岩であるが、すべてのザクロ石粒子(直径数mm)は完全にケリファイト化しており、ザクロ石は残存していなかった。しかし、もともとザクロ石が包有していたと思われるスピネル[Cr/(Al+Cr)=0.5–0.7; 100 Mg/(Fe+Mg)=Mg#=46–56]がケリファイト中に包有されるように残存している。これらのスピネルはMuriuki et al. (2020)がNové Dvoryで記載したザクロ石中のスピネル包有物とほぼ同じ組成[Cr/(Al+Cr)=0.57–0.67; Mg#=49–54]をしている。また、マトリクスにはスピネルは無く、直径0.2–1.0 mm程度のかんらん石(Mg#=0.90–0.91)および単斜輝石[Mg#=0.93–0.95; Na/(Ca+Na)=0.07–0.13; Si=1.95–1.99 apfu (O=6)]、直方輝石[Mg#=0.91–0.92; Si=1.93–1.97 apfu (O=6)]が主なマトリクスの構成鉱物となっている。
本研究試料にはザクロ石が残存していないので、Cr-in-Cpx圧力計(Nimis & Taylor, 2000: CMP 139, 541–554)と両輝石温度計(Brey & Kohler, 1990: J. Petrol. 31, 1353–1378)を用いて、その変成温度圧力条件を算出した。輝石の組成には最もSiに富むデータを使用したところ、約830℃, 4.0 GPaとなった。この温度圧力は先行研究(Ackerman et al., 2009; Naemura et al., 2009)で見積もられている温度圧力よりやや低温であるものの圧力は同程度となった。このように、Horní Boryに産するザクロ石かんらん岩はNové Dvoryに産するものよりはるかに低い温度での変成作用しか受けていないようである。
ただし、Nové Dvoryに産するザクロ石かんらん岩の温度圧力推定については一つ問題が残っている。それはFe-Mg交換型の温度計では1000℃を遥かに超える温度が出ているのに対して、両輝石温度計を使用すると800–900℃程度の温度しか算出されないという点である。Fe-Mg交換型温度計の場合、三価の鉄の推定に問題が残る。全鉄を二価として計算した場合より三価の鉄の量を推計した場合の方が、温度が低く算出される。そこで、ザクロ石-単斜輝石温度計、ザクロ石-直方輝石温度計、両輝石温度計の3種類の温度計が近い温度を与える三価の鉄の量を計算したところ、単斜輝石は全鉄の内4割が三価、直方輝石は全鉄の内3割が三価となると上記の3種類の温度計が示す温度が900–950℃となり一致する結果となった。しかし、ザクロ石-かんらん石Fe-Mg交換型温度計も考慮すると問題が生じる。全鉄が二価とすると、この温度計は1000℃以上の温度を与えるが、かんらん石は化学量論的に計算しても三価の鉄をほとんど含んでいない。よって、化学量論的に考えて過剰な量の三価の鉄がかんらん石に含まれていない限り、ザクロ石-かんらん石温度計と両輝石温度計が与える温度のズレは解消されないという問題が残る。
