講演情報
[G-O-5]泥岩の物性とスレーキング特性がのり面安定性に及ぼす影響
*関口 将司1、小林 俊一2、熊 曦2 (1. 中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋株式会社、2. 金沢大学)
キーワード:
泥岩、スレーキング、斜面災害
北陸自動車道 加賀IC~片山津IC間の129KP付近(上下線)に位置する調査地は,建設工事中に4度,供用後に3度の大規模な地すべりや変状が発生している斜面崩壊履歴のある切土のり面である.
調査地周辺の地形は,江沼丘陵に位置している標高20~100mの丘陵で,丘陵地には多くのため池が存在しており,当該地域の山地と丘陵の間を通る福井平野東縁断層帯の影響(豊富な地下水供給)によるものと考えられる.また,地質は新第三紀(中新世)細坪泥岩層で,貝化石や生痕化石を多く産出する1)2).
近年ののり面変位量は,最大2mm/年未満と大きな崩壊や変状に繋がるようなものではないが,供用開始から50年以上が経過し,地すべりの再活動や新たな崩壊等に繋がる豪雨や豪雪は,激甚化・頻発化していることから,のり面の安定性に影響を及ぼす泥岩の特性(物性とスレーキングの影響)を把握するため,各種試験を実施した.
含水比試験(自然含水比w0)は、サンプリングコアを乱した試料(以下,「乱した試料」という.)について,自然含水比w0を求めた.自然含水比w0は,19.2~33.7%と若干のばらつきがあり,平均値は24.7%であった.これは,グリーンタフ地域に分布する他の新第三紀泥岩と比べて高く,一般的な泥岩類の中でも高い値である3)〜6).自然含水比が20%以上の場合,間隙水圧発生や斜面安定に問題があるとされている6).
乱した試料について,土粒子の密度試験ρs,沈降分析による粒度試験及び液性・塑性限界試験を実施した.乱した試料は,細粒分(粒径0.075mm未満)含有量が50%を超えることから,細粒土Fmに分類され、塑性図におけるA線より上位,B線より右側に位置することから,CH(高液性限界の粘土)に分類される.さらに,塑性指数はかなり高い値(Ip=66.37(%))を示すため,膨潤性粘土鉱物(Na型スメクタイト)含有率が高いことが推測される.泥岩の膨張性は含水比と相関が高いこと3),液性限界は膨潤性吸水量増加率と高い相関があることから,含水比や液性限界は膨張性評価指標に有効と考えられる7).
スレーキング特性を把握するため,2通りの履歴(方法A:JGS 2124-2020,方法B:炉乾燥による履歴を省き,風乾1日・2日・3日・5日・7日間)を与えるスレーキング試験を実施した.全ての供試体は水浸0.5時間後から泥状化の進行が始まり,水浸2時間後にはsl.2-1day′を除く全ての供試体が完全に泥状化した.方法A,方法B(風乾2日以上)のいずれの試料も水浸30分経過後で既に泥状化したため,乱した試料は,加温履歴の有無によらず非常にスレーキングを生じやすく,また短時間の風乾燥のみで十分にスレーキングが発生することが分かった.
調査地を構成する泥岩の高い含水比とスレーキング特性は,過去に発生した大規模な地すべりや変状の原因の1つと考えられ,のり面の安定性に大きな影響を及ぼすことが分かった.また,スレーキング特性(泥状化)から,膨潤性粘土鉱物はNa型スメクタイトを多く含んでいると推測される7)が,スメクタイト含有量とスレーキングの程度(特性)は必ずしも一致しないこと8)から,膠結物や構成鉱物の溶出による影響も考慮する必要がある.
調査地は、様々な対策工が施工されているが,施工時の掘削や降雨・融雪による地表水の流入出,地下水排除工に伴う地下水位の変動などにより,常に乾燥-湿潤サイクルを受け,スレーキングによる影響と考えられる表層部のクリープ変位やすべり面付近のせん断変位が観測されている.このため,今後の対策工の検討をはじめ,施工や維持管理においても,調査地における泥岩の物性やスレーキング特性による影響を十分に考慮する必要がある.
参考文献
1)石川県教育センター(1984):『石川の自然第8集 地学編(4)』
2)藤 則雄(1979):『加賀南部地域の地質』
3)稲葉 力ら(1987):『膨張性泥岩の物理・力学特性についての考察』
4)平野 勇ら(2004):『粘土岩からなる掘削面のスレーキング抑制法に関する検討』
5)磯 杏奈ら(2004):『乾湿繰り返し作用を受ける泥岩の強度特性』
6)新城 俊也(1980):『土質材料としての泥質堆積岩の力学特性に関する研究』
7)神山 裕幸ら(2013):『スメクタイトを含む堆積軟岩の性状と膨張性地山の分布の推定』
8)小暮 哲也ら(2013):『日本海側地域の地すべり土塊に含まれる粘土鉱物とスレーキング特性の対応の解明』
調査地周辺の地形は,江沼丘陵に位置している標高20~100mの丘陵で,丘陵地には多くのため池が存在しており,当該地域の山地と丘陵の間を通る福井平野東縁断層帯の影響(豊富な地下水供給)によるものと考えられる.また,地質は新第三紀(中新世)細坪泥岩層で,貝化石や生痕化石を多く産出する1)2).
近年ののり面変位量は,最大2mm/年未満と大きな崩壊や変状に繋がるようなものではないが,供用開始から50年以上が経過し,地すべりの再活動や新たな崩壊等に繋がる豪雨や豪雪は,激甚化・頻発化していることから,のり面の安定性に影響を及ぼす泥岩の特性(物性とスレーキングの影響)を把握するため,各種試験を実施した.
含水比試験(自然含水比w0)は、サンプリングコアを乱した試料(以下,「乱した試料」という.)について,自然含水比w0を求めた.自然含水比w0は,19.2~33.7%と若干のばらつきがあり,平均値は24.7%であった.これは,グリーンタフ地域に分布する他の新第三紀泥岩と比べて高く,一般的な泥岩類の中でも高い値である3)〜6).自然含水比が20%以上の場合,間隙水圧発生や斜面安定に問題があるとされている6).
乱した試料について,土粒子の密度試験ρs,沈降分析による粒度試験及び液性・塑性限界試験を実施した.乱した試料は,細粒分(粒径0.075mm未満)含有量が50%を超えることから,細粒土Fmに分類され、塑性図におけるA線より上位,B線より右側に位置することから,CH(高液性限界の粘土)に分類される.さらに,塑性指数はかなり高い値(Ip=66.37(%))を示すため,膨潤性粘土鉱物(Na型スメクタイト)含有率が高いことが推測される.泥岩の膨張性は含水比と相関が高いこと3),液性限界は膨潤性吸水量増加率と高い相関があることから,含水比や液性限界は膨張性評価指標に有効と考えられる7).
スレーキング特性を把握するため,2通りの履歴(方法A:JGS 2124-2020,方法B:炉乾燥による履歴を省き,風乾1日・2日・3日・5日・7日間)を与えるスレーキング試験を実施した.全ての供試体は水浸0.5時間後から泥状化の進行が始まり,水浸2時間後にはsl.2-1day′を除く全ての供試体が完全に泥状化した.方法A,方法B(風乾2日以上)のいずれの試料も水浸30分経過後で既に泥状化したため,乱した試料は,加温履歴の有無によらず非常にスレーキングを生じやすく,また短時間の風乾燥のみで十分にスレーキングが発生することが分かった.
調査地を構成する泥岩の高い含水比とスレーキング特性は,過去に発生した大規模な地すべりや変状の原因の1つと考えられ,のり面の安定性に大きな影響を及ぼすことが分かった.また,スレーキング特性(泥状化)から,膨潤性粘土鉱物はNa型スメクタイトを多く含んでいると推測される7)が,スメクタイト含有量とスレーキングの程度(特性)は必ずしも一致しないこと8)から,膠結物や構成鉱物の溶出による影響も考慮する必要がある.
調査地は、様々な対策工が施工されているが,施工時の掘削や降雨・融雪による地表水の流入出,地下水排除工に伴う地下水位の変動などにより,常に乾燥-湿潤サイクルを受け,スレーキングによる影響と考えられる表層部のクリープ変位やすべり面付近のせん断変位が観測されている.このため,今後の対策工の検討をはじめ,施工や維持管理においても,調査地における泥岩の物性やスレーキング特性による影響を十分に考慮する必要がある.
参考文献
1)石川県教育センター(1984):『石川の自然第8集 地学編(4)』
2)藤 則雄(1979):『加賀南部地域の地質』
3)稲葉 力ら(1987):『膨張性泥岩の物理・力学特性についての考察』
4)平野 勇ら(2004):『粘土岩からなる掘削面のスレーキング抑制法に関する検討』
5)磯 杏奈ら(2004):『乾湿繰り返し作用を受ける泥岩の強度特性』
6)新城 俊也(1980):『土質材料としての泥質堆積岩の力学特性に関する研究』
7)神山 裕幸ら(2013):『スメクタイトを含む堆積軟岩の性状と膨張性地山の分布の推定』
8)小暮 哲也ら(2013):『日本海側地域の地すべり土塊に含まれる粘土鉱物とスレーキング特性の対応の解明』

