講演情報

[G-O-8]力学的な断層の活動性評価であるスリップテンデンシー(ST)を用いた地質断層の現世応力場における潜在的な活動性の評価~中国地方の断層を例に~

*島田 昌弥1、向吉 秀樹1 (1. 島根大学)
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キーワード:

断層活動性、スリップテンデンシシー、現世応力場

 ・はじめに
 西南日本に位置する中国地方では活断層の分布や地震活動等の特徴から,北部・東部・西部の3つの区域に分けられる(地震本部,2016).北部は鳥取県から島根県北東部で構成される区域であり,活断層の存在が少ない一方で,2000年の鳥取県西部地震(M7.3)を含むM5.5以上の地震が多い.東部は岡山県と広島県東部で構成される地域で,活断層の数・地震活動はともに少ない.西部は島根県・広島県の一部と山口県で構成される地域で,活断層の数は最多であり,地震活動も中程度である.そこで,本研究では中国地方における断層と地震活動の関係性や特徴について考察することを目的とし,中国地方に存在する断層に対して「力学的な断層活動性評価手法」であるSlip-Tendency(以下ST)(Morris et al.,1996)を用いて,活動性の評価を行った.

・力学的な活断層評価手法STについて
STは断層に作用する応力下において断層の姿勢に対する動きやすさを表す.断層面に働く剪断応力τと垂直応力σの比で計算され,主応力軸の方向と応力比から計算することができる(図1).値は0≦ST<1で規格化される(大坪,2016).

・結果
北部115条・東部363条・西部488条・中国地方全体1006条を対象に計算を行った.計算の結果,全ての区域で半数以上の断層がST値0.7以上の高い値を示し,中国地方全体で高いST値を示す地質断層が多く存在するという傾向が見られた.また活断層のST値は鳥取県を除き,概ね高い値を示す.

・考察
Miyakawa and Otsubo(2017)は,高いST値を示す非活断層を潜在的な活断層とし,それらは時間の経過とともにST値の高いものから順に再活動を始め,活断層へと発展していくとした.中国地方におけるST値の計算結果はMiyakawa and Otsubo(2017)による東北地域とは対象的で,高いST値を示す地質断層が多く存在し,潜在的な活断層が多く存在している可能性を示唆している.特に北部地域では2000年の鳥取県西部地震(M7.3)など,従来活断層の存在が報告されていない場所で地震が発生している.北部地域・西部地域では,微小地震の震源分布に山口–出雲地震帯(金折・遠田, 2007)で報告されるようなNE-SWやENE-WSW,またNW-SE方向へと延びる地震の帯が見られ,これらは高いST値を示す断層の走向と調和的であり,これはST値による地質断層の活動性評価を補完するものと考えられる.一方で,東部地域では地震の分布に顕著な特徴は見られず,またST値の計算結果は他地域と同様の傾向を示すが,他地域と比較して短い断層が多いため,震源の深度が深いことを考慮すると他地域ほどST値と地震活動に特徴がみられない.

・まとめ
中国地方に存在する断層に対して,ST値による活動性の評価を行った.計算の結果,中国地方全体で活断層のみならず,地質断層においても高いST値を示すものが多く存在することが明らかになった.この結果は,潜在的に活動性の高い地質断層が多く存在する可能性を示唆している.特に,北部・西部の微小地震の震源分布は高いST値を示す断層の走向と調和的であり,ST値による断層の活動性評価の結果を支持しているものと考えられる.

引用文献
金折裕司・遠田晋次, 2007, 中国地方西部に認められるプレート内山 口–出雲地震帯の成因と地震活動.自然災害科学, 25, 507‒523.

Miyakawa A, Otsubo M., 2017, Evolution of crustal deformation in the northeast–central Japanese island arc: Insights from fault activity. Island Arc,26(2), e12179

Morris, A., Ferrill, D. A., & Henderson, D. B., 1996,Slip-tendency analysis and fault reactivation, Geology, 24, 275–278.

大坪誠,2016,長期の断層活動性を評価する手法の開発を目指して:手法の紹介とその適用事例,GSJ 地質ニュース,5- ,235-239

地震調査研究推進本部地震調査委員,2016, 中国地域の活断層の長期評価(第一版)