講演情報

[G-O-9]阿蘇火砕流台地に分布するテフラ層にみられるノンテクトニック構造

*西山 賢一1、山崎 新太郎2、星住 英夫3、川畑 大作3、横田 修一郎 (1. 徳島大学、2. 京都大学、3. 産業技術総合研究所)
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キーワード:

ノンテクトニック構造、テフラ、阿蘇火砕流台地

 近年,テクトニックな運動以外の要因で形成された非構造性の断層=ノンテクトニック断層の識別と,その成因に関する検討が進められつつある(横田ほか,2015).そのうち,主に重力を主因として形成されるノンテクトニック断層は,テフラ層などの軟質な第四系においてよく観察されている.今回筆者らは,阿蘇カルデラ東方の火砕流台地側部ののり面において,テフラ群を切断する小断層群とそれに伴う土塊のドミノ倒し状の回転構造を見出したので,以下に報告する.
  阿蘇カルデラ縁の東方約10 kmの大分県竹田市久住町三本松周辺では,約9万年前に噴出した阿蘇4火砕流堆積物が厚く堆積し,河川による下刻をうけて平坦な火砕流台地となっている.台地の上面は,阿蘇4噴火以降の降下テフラ層と火山灰土壌層が10〜20 m程度累重している.観察される主なテフラ層は,上位から山崎第15スコリア(YmS15),AT火山灰,草千里ヶ浜降下軽石(Kpfa),阿蘇中央火口丘第4軽石(ACP4)などである(Miyabuchi, 2009).これらのテフラ層は風化が進行し,特に軽石層は粘土化している場合が多い.
 露頭は道路ののり面であり,高さ5m弱,道路に沿った延長方向は20m以上ある.露頭には,横方向で1~5m程度の間隔をおいて,傾斜70度を超える高角な小断層群が15本ほど確認できる.断層面はおおむね高角だが,一部では湾曲ないし分岐しており,V字状またはY字状をなす部分も認められる.これらの小断層群によって,ACP4ならびにKpfaと土層が切断されており,切断の上端はATより上位にあるYmS15?のさらに上位にまで達している.高角の小断層によってブロック化した土塊は,いずれも全体として露頭右側(谷側)に向かって傾斜しており,見かけ上.谷側へ転倒傾斜したトップリング状,ないしドミノ倒し状の形状をなす.また,鍵層として含まれるKpfaとACP4は,これらの小断層群によって切断されており,ずれの量はおおむね数10cm程度である.さらに,小断層に沿って,これらの指標テフラ群は,流動変形したような構造が認められ,テフラの厚みが見かけ上,倍程度に厚みを増した部分が認められたり,上位の土層中にテフラ層が高角度でめり込んだように見えるなど,衝突による乱れた構造が観察できる場所もある.
 厚さが少なくとも5m以上のテフラ層が,テフラ降下後に新たに生じた高角の断層群によって複数のブロックに分かれるとともに,それらが一体となって,解放面である谷側に向かって,ドミノ倒し的に変形したと推定される.その形態的特徴は,Cruden and Vanes (1996)の分類の「マルチプルトップル」に類似している.ただし,その模式図では,岩盤中の高角な節理面に沿った回転が描かれているが,本露頭では,テフラ降下後に新たに生じた高角な小断層群による回転という点が異なる.今回記載した露頭の変状に類似した小断層に伴う変形構造として,唐澤ほか(2025)の例がある.それによると,御岳第1降下軽石以降のテフラ層が,テフラ降下後に生じた小断層群による変形を受けており,全体としてドミノ倒し状の構造をなすことが報告されている.また,小断層群に伴う変形は,テフラ層を切断する高角の断層面の生成にとどまらず,テフラの流動変形を伴うことも特筆される.これに関して,2016年熊本地震の際に地すべりが発生した南阿蘇村・高野尾羽根火山の斜面では,Kpfaが液状化細脈を伴い,引き延ばされたように変形している構造が確認されている(西山ほか,2017).なお,本露頭では,変形構造の下限はのり面で観察できないため不明ながら,ACP4の下位にも,何枚か粘土化した降下軽石などがあるため,これらを基部とした回転が生じた可能性がある.

文献  M.Cruden and D.J.Vanes (1996)Landslide types and processes. Landslides, pp.36-75.唐澤 茂ほか(2025)伊那市中央清掃センター跡地に見られる火山灰層と断層について.http://www.kamiina.jp/naturegraphy/wp-content/uploads/2025/03/696da52d1935bae23ff28419e5862e1c.pdfMiyabuchi, Y. (2009) A 90,000-year tephrostratigraphic framework of Aso Volcano, Japan. Sediment. Geol., 220, pp. 169-189.西山賢一ほか(2017)阿蘇火山研究所周辺で発生した地すべり.日本応用地質学会熊本・大分地震災害調査団調査報告書, pp. 120-127, 横田修一郎ほか(2015)ノンテクトニック断層.近未来社,248p.