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[G-O-11]輝石および鉄酸化鉱物のSEM-EDXによる自動分析に基づく砂の法地質学的識別

*杉田 律子1 (1. 科学警察研究所)
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キーワード:

法地質学、SEM-EDX分析、砂の異同識別

 事件や事故の証拠資料として,土や砂の鑑定が行われることがある.これまでに確立されてきた系統的な土試料の法科学的検査法は,粘土・シルトの色や鉱物種の同定を中心として組み立てられており,砂は偏光および実体顕微鏡観察が主要な検査法となっている.海岸や河川にはシルト以下の粒子をほとんど含まない砂のみから構成されている堆積物も多くあり,このような試料では土に比べて情報量が少ないために鑑定が難しいことがある.そのため,砂の客観的かつ迅速な検査方法の開発が必要とされている.

砂を構成する粒子は河川や火山噴出物の降下などによって供給され,その重鉱物組成は堆積物の後背地推定や(例えばGarzanti and Andó, 2007),法科学的に利用されている(例えばPalenik, 2007).日本では,火山噴出物の影響が大きい地域においては輝石類ではシソ輝石と普通輝石が多く,不透明鉱物も多く含まれている.不透明鉱物は顕微鏡での検査では鉱物種の同定に至らないことも多いため,元素分析やX線回折が有効である.しかし,X線回折は試料が微量である場合,感度が不足する可能性がある.エネルギー分散型X線分析装置付き走査型電子顕微鏡(SEM-EDX)は鉱物種の同定はできないものの,小さな粒子でも元素分析により分類が可能である.

昨年までに,火山噴出物の影響が大きい地域の海岸から採取した重鉱物のSEM-EDXによる主成分元素分析が,異同識別や地域推定への活用が可能であるとの結果を得ている(杉田,2024など).これまでの方法では,実験者がSEMの画像を見ながら分析点を選択するため,分析点が偏ったり実験者の違いによる差が出る可能性や,試料の数が多い場合は測定に要する時間が膨大になることが考えられ,これらは客観性や迅速性が求められる法科学的な検査には欠点となりうる.そこで,自動分析による識別の可能性について検討を行った.

実験に用いた試料は0.2~1 mmの砂で,水洗した後,ポリタングステン酸ナトリウム(d≈2.85)により重鉱物画分と軽鉱物画分に分離した.得られた重鉱物画分をエポキシ系樹脂でスライドガラスに接着し,研磨薄片として炭素蒸着後,真空下でSEM-EDX(日立ハイテクSU8230/オックスフォードインストゥルメンツULTIM MAX)による観察および分析を実施した.分析は杉田(2025)による方法で実施し,鉱物の量比は面積の割合で示した.

その結果,昨年までに得られたSEM-EDXを用いたポイント分析による結果(杉田,2024)と同様に,鉄酸化鉱物と含チタン鉄酸化鉱物の含有比から試料間の識別が可能であることが確認された.ポイント分析の場合に比べて輝石類に対する鉄酸化鉱物の比率が小さくなっているが,これは,多くの微小な鉄酸化鉱物が他の鉱物の包有物として存在していることが原因である.また,輝石類についても単斜輝石と直方輝石の含有比を試料間で比較したところ,識別に利用可能であることが示唆された.直方輝石はカルシウム含有量によって,さらに二つに分類することができ,これらの情報は砂の法科学的な異同識別に利用可能であると考えられる.

文献
Garzanti, E. and Andó, S., 2007, Dev. Sedimentol., 58, 741-763.
Palenik, S., 2007, Dev. Sedimentol., 58, 937-961.
杉田律子, 2024, 日本地質学会第131年学術大会講演要旨, G6-O-7.
杉田律子, 2025, 日本地質学会第132年学術大会講演要旨.