講演情報
[G-O-12]介形虫群から過去の洪水履歴を復元する-2020九州豪雨を例に-
*田中 源吾1 (1. 熊本大学)
キーワード:
第四紀、介形虫、古環境、古生物学、洪水
介形虫は微化石の一種であり,浮遊幼生期を欠くことから,分散能力が低い.その分布は,水質や地理的障壁によって容易に遮断されるため,地域固有性が高い.これらの点から,現(古)環境の指標として重要である.日本列島は,海に囲まれたプレートの収束域であることから,地震やそれによって引き起こされる津波の被害に悩まされてきた.そのため,介形虫を用いた過去の災害履歴に関する研究は,津波の履歴を復元した例が数多く発表されている.一方で,日本列島は台風の通過する場所に位置し,河川が急こう配であることから,大量の降雨によって,洪水が引き起こされる場所でもある.近年では,豪雨災害が多発し,特に沿岸部では被害が甚大である.しかしながら,洪水が沿岸の介形虫群に与える影響や,その履歴についての研究はなされていない.演者の研究室では,2020年九州豪雨中~豪雨後の有明海および八代海における介形虫群の変動について,調査を行っている. 八代海最奥部の砂川に定点を設け,2020年の豪雨災害発生時から2ヶ月おきに,介形虫群の変動と水質・底質の観測を実施した. その結果,豪雨後には,特定の水質や底質に依存しない種が優占し,その後,4ヶ月で,豪雨前の種構成に戻ることが確認された.2023年に,定点付近でトレンチ調査を実施し,豪雨時のものと考えられる木片を多く含む層準と,その上位および下位の層準から,介形虫群を抽出した.その結果,木片を多く含む層準では,その上位・下位の層準と比較して,汽水性の種が多く,海生の種が少ないこと,淡水性の種が含まれることが分かった. 白川沖約8㎞の水深15mの地点から,2024年6月,不攪乱柱状採泥器を用いて,長さ14.5cmのコアを採集した. 堆積物のコンパクションも考慮したU-Pb放射年代によって,このコアは,過去7年分の堆積イベントを記録していることが分かった.表層から1cmおきに介形虫用試料を採集し,介形虫群を検討した.その結果,2020年に介形虫群が,前後の層準と大きくことなり,より浅海の種群が卓越することが分かった.このことから,2020年の九州豪雨は,有明海および八代海の堆積物中に,記録されていることが分かった.一方で,2020年から現在まで,発生した小規模な洪水は,今回の方法では,検出できなかった.今後は,有明海・八代海およびその周辺海域において,数百年~数千年スケールでの洪水の履歴を,長尺コアを用いて復元する予定である.また,介形虫群をもちいて,洪水の規模を復元できる方法についても模索してゆきたいと考えている.
