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[G-O-14]北海道藻琴湖における砕屑性年縞堆積物分析による過去100年の炭素フラックスの変化

*瀬戸 浩二1、香月 興太1、園田 武2、安藤 卓人3、仲村 康秀1 (1. 島根大学エスチュアリー研究センター、2. 東京農業大学、3. 秋田大学)
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キーワード:

藻琴湖、後期完新世、砕屑性年縞堆積物、炭素フラックス

 生物擾乱の乏しい堆積環境では,ラミナを伴う堆積物が見られる.その中でも1年に1セット形成されるものは年縞堆積物と呼ばれている.年縞は季節的に堆積物の性質が異なることによって形成され,日本では降水量の季節性に起因するものが多く見られている.降水量が多い時期は,周囲から運搬される無機砕屑物が多く堆積し,降水量の少ない時期はプランクトンなどの有機質砕屑物が多く堆積する傾向にある.この違いは堆積物の密度に反映され,軟X線写真などで比較的容易に判定することができる.北海道東部の降水量のピークは,台風期であり,年によって異なるが概ね夏季に高降水量を示し,秋季〜冬季に低降水量を示す傾向にある.したがって,夏季に高密度の堆積物が,冬季に低密度の堆積物が堆積し,そのセットによって年を判別することができる.ただし,堆積速度と年間の降水パターンによっては1年に複数のラミナが形成されることもあり,特徴的な降水イベントによって補正をする必要がある.このような年縞堆積物があれば,多少のずれがあるものの年間の堆積量の傾向を明らかにすることができる.本発表では北海道藻琴湖の年縞堆積物の有機炭素量から過去100年の炭素フラックス変化を検討する.
 亜寒帯気候に属する北海道東部オホーツク海沿岸には,多くの汽水湖が分布する.藻琴湖は,網走市東部に位置する面積約1.1㎢,最大水深5.8mの小さな富栄養汽水湖である.この湖沼は流域からの汚濁負荷が相対的に高く,富栄養化の原因となっている.また,湖水には密度成層が認められ,夏季には底層に無酸素水塊が形成されている.そのため,藻琴湖では.有機質の砕屑性年縞堆積物で構成されている.このような年縞堆積物の存在する湖沼では,年レベルの古環境解析が可能であり,フラックスに換算するのが容易である.それを解明するために,藻琴湖の湖心において2m級の押し込み式コアラーによるコア(18Mk-8Cコア,24Mk-9Cコア),リミノスコアラーによるコア(24Mk-1Lコア)採取した.
 18Mk-8Cコアと24Mk-9Cコアは,ラミナレベルで対比可能で,年縞をカウントした結果,西暦1930年程度まで遡ることができた.2010年頃と1990年頃に,5-8cmの塊状の層が見られた.この層は含水率が低いにもかかわらず,粒度が相対的に細かく,全イオウ濃度も低い特徴がある。しかし,全有機炭素濃度は2010年頃の層は4%と高く,1990年頃の層は2%程度と低い傾向にあった.これらは通常の年縞堆積物の特徴とも異なることから,人為的な堆積作用に起因していると推定し,議論から除外して考察することにした.
 1995年以降,全有機炭素(TOC)濃度は3-4%を示し,1970-1995年の間は2-3%と低い値を示している.1970年以前は,古くなる方向に増加する傾向にあり,1930年代は6-7%に達している.堆積物フラックスは,1960年代までは0.3 g/cm2/yr前後と低いものの,それ以降は0.7 g/cm2/yr前後と高いフラックスを示している.炭素フラックスは,1980年代までは,20 mg/cm2/yr前後と低い値を示しているが,それ以降は30-40 mg/cm2/yr程度と増加傾向にある.これらの値は,他の湖沼や海洋に比べてかなり高く,炭素の埋積により空気中の炭素の除去に貢献していると思われる.しかし,堆積する面積が小さいため,炭素の埋積量はそれほど大きくないだろう.