講演情報
[G-O-16]島尻層群および知念層中の浮遊性有孔虫化石群集に基づく後期中新世から前期更新世にかけての中琉球弧付近の黒潮変動
長間 祐介4、有元 純2、西田 尚央3、*藤田 和彦1 (1. 琉球大学理学部、2. 産業技術総合研究所地質情報研究部門、3. 東京学芸大学、4. 琉球大学大学院理工学研究科)
キーワード:
琉球弧、黒潮、浮遊性有孔虫、島尻層群、知念層
黒潮は北太平洋亜熱帯循環の西岸境界流であり,低緯度の高温・高塩分・貧栄養な海水を高緯度へ輸送し,北西太平洋の気候を調節する.過去の黒潮に関する研究では,約5 Maには当時の日本列島の太平洋側に到達しており,約3 Maに西太平洋や当時の日本列島付近で黒潮が強化されたことが示唆されている.しかし,当時の琉球弧付近での黒潮の影響の変化に関する研究はほとんどない.そこで本研究では中琉球弧に分布する島尻層群および知念層中の浮遊性有孔虫化石群集の変化に基づいて,後期中新世から前期更新世にかけての中琉球弧付近における表層水塊および黒潮の影響の変化を明らかにすることを目的とする.
本研究では沖縄本島中南部,久米島,沖縄トラフ東側斜面(以下,沖縄トラフ)で採取された計58試料の泥岩および砂岩を使用した.泥岩および砂岩試料を泥化・細粒化させ,残渣試料から実体顕微鏡下で150 μm以上の浮遊性有孔虫化石を200個体以上を目安に抽出・同定した.各試料の示準化石種の産出からUjiié (1985) による浮遊性有孔虫化石帯の定義に基づくN17~N22帯までの化石帯を確認した.また産出した浮遊性有孔虫化石を,1) Ujiié and Ujiié (2000) による琉球弧付近の現世浮遊性有孔虫群集と表層水塊との関係,2) 現存種の地理的分布および深度分布,3) 現存種および絶滅種の殻の酸素・炭素同位体比,4) 各分類群の系統関係の4つの情報に基づいて,現存種と絶滅種を温暖混合層生息種(以下,混合層グループ),温暖温度躍層以深生息種(以下,温度躍層グループ),寒冷域生息種(以下,寒冷種グループ),沿岸・湧昇流海域生息種(以下,沿岸・湧昇流グループ)の4つの表層水塊グループに分類し,それぞれの相対頻度を算出した.
合計58試料から17属92種の浮遊性有孔虫化石を同定した.4つの表層水塊グループの組成は,全ての地域において混合層グループの相対頻度が最も高く,次に温度躍層グループの相対頻度が高い.このことから,後期中新世から前期更新世にかけての中琉球弧付近は北太平洋亜熱帯循環の内側の暖水塊に覆われており,現在の琉球弧よりも西方に黒潮の流軸があったことが推測される.また,全地域の表層水塊グループの相対頻度変化を化石帯間で10%の変化を示すことを目安に,第1段階(N17帯;7.5~5.0 Ma),第2段階(PL1帯~PL3帯;5.0~3.0 Ma),第3段階(PL4帯;3.0~2.7 Ma),第4段階(PL5帯;2.7~2.3 Ma),第5段階(N22帯;2.3 Ma~)の5段階に区分した.第1段階の沖縄本島付近では黒潮の影響が小さく,寒冷な表層水塊の影響も受けていたことが示唆される.第2~3段階の中琉球弧付近では,中央アメリカ海峡の収縮・閉鎖やルソン弧の古台湾への衝突と古台湾の隆起,インドネシア海路の収縮,中期鮮新世の温暖期に関連して徐々に黒潮の影響が大きくなったことが示唆される.その後,世界的な寒冷化により第4段階で黒潮の影響が小さくなったが,第5段階で沖縄トラフの伸長・沈降の活発化により水深が深くなったことで黒潮の流量が増加した(黒潮の影響が大きくなった)ことが示唆される.
Ujiié, H. (1985) Bull Nat Sci Mus, Ser C (Geol & Paleontol), v. 11, p. 103–115.
Ujiié, Y. and Ujiié, H. (2000) Jour Foraminiferal Res, v. 30, p. 336–360.
本研究では沖縄本島中南部,久米島,沖縄トラフ東側斜面(以下,沖縄トラフ)で採取された計58試料の泥岩および砂岩を使用した.泥岩および砂岩試料を泥化・細粒化させ,残渣試料から実体顕微鏡下で150 μm以上の浮遊性有孔虫化石を200個体以上を目安に抽出・同定した.各試料の示準化石種の産出からUjiié (1985) による浮遊性有孔虫化石帯の定義に基づくN17~N22帯までの化石帯を確認した.また産出した浮遊性有孔虫化石を,1) Ujiié and Ujiié (2000) による琉球弧付近の現世浮遊性有孔虫群集と表層水塊との関係,2) 現存種の地理的分布および深度分布,3) 現存種および絶滅種の殻の酸素・炭素同位体比,4) 各分類群の系統関係の4つの情報に基づいて,現存種と絶滅種を温暖混合層生息種(以下,混合層グループ),温暖温度躍層以深生息種(以下,温度躍層グループ),寒冷域生息種(以下,寒冷種グループ),沿岸・湧昇流海域生息種(以下,沿岸・湧昇流グループ)の4つの表層水塊グループに分類し,それぞれの相対頻度を算出した.
合計58試料から17属92種の浮遊性有孔虫化石を同定した.4つの表層水塊グループの組成は,全ての地域において混合層グループの相対頻度が最も高く,次に温度躍層グループの相対頻度が高い.このことから,後期中新世から前期更新世にかけての中琉球弧付近は北太平洋亜熱帯循環の内側の暖水塊に覆われており,現在の琉球弧よりも西方に黒潮の流軸があったことが推測される.また,全地域の表層水塊グループの相対頻度変化を化石帯間で10%の変化を示すことを目安に,第1段階(N17帯;7.5~5.0 Ma),第2段階(PL1帯~PL3帯;5.0~3.0 Ma),第3段階(PL4帯;3.0~2.7 Ma),第4段階(PL5帯;2.7~2.3 Ma),第5段階(N22帯;2.3 Ma~)の5段階に区分した.第1段階の沖縄本島付近では黒潮の影響が小さく,寒冷な表層水塊の影響も受けていたことが示唆される.第2~3段階の中琉球弧付近では,中央アメリカ海峡の収縮・閉鎖やルソン弧の古台湾への衝突と古台湾の隆起,インドネシア海路の収縮,中期鮮新世の温暖期に関連して徐々に黒潮の影響が大きくなったことが示唆される.その後,世界的な寒冷化により第4段階で黒潮の影響が小さくなったが,第5段階で沖縄トラフの伸長・沈降の活発化により水深が深くなったことで黒潮の流量が増加した(黒潮の影響が大きくなった)ことが示唆される.
Ujiié, H. (1985) Bull Nat Sci Mus, Ser C (Geol & Paleontol), v. 11, p. 103–115.
Ujiié, Y. and Ujiié, H. (2000) Jour Foraminiferal Res, v. 30, p. 336–360.
