講演情報
[T12-O-6]多指標分析に基づく前期更新世の北西太平洋の高時間解像度古環境復元
*石井 義弘1、宇都宮 正志2、羽田 裕貴2、乾 睦子3、泉 賢太郎1 (1. 千葉大学、2. 産業技術総合研究所、3. 国士舘大学)
キーワード:
前期更新世、スーパー間氷期、上総層群、古環境
現在の房総半島沖には全球的な気候変動に鋭敏に反応する黒潮-親潮混合域が位置する. 房総半島中央部に分布する上総層群は堆積速度が非常に速い海成層で,第四紀の黒潮や親潮の変動を高時間分解能で復元する上で良好な条件がある.このうち大田代層はスーパー間氷期として知られる海洋酸素同位体ステージ(MIS)31を含み,先行研究によって酸素同位体-古地磁気層序(辻ほか,2005)やアルケノン古水温変動(Kajita et al., 2021)などが明らかにされている.このように大田代層はスーパー間氷期における黒潮-親潮混合域の環境変動を極めて高い時間分解能で復元できるポテンシャルを有するが,気候変動に伴う堆積物の特性や元素組成の時系列変化を検討した研究はほとんどない.本研究の目的は,下部更新統上総層群大田代層のMIS 31を含む層序区間を対象に,スーパー間氷期における黒潮-親潮混合域の古環境変動を数百年の時間分解能で復元することである. 研究対象地である千葉県いすみ市の正立寺川には大田代層中部が連続的に露出する.辻ほか(2005)が酸素同位体層序を構築した大多喜町紙敷のボーリングコアTR-3とは,火山灰鍵層O11とO7によって層序対比が可能である.試料採取はMIS 31〜30の層序区間のシルト岩を対象に時間分解能が数百年間隔となるように実施した.採取した計100サンプルを対象に,レーザ回折/散乱式粒⼦径分布測定装置を⽤いた粒度分析,卓上電気炉を用いた強熱減量(LOI)分析,ハンドヘルド蛍光X線分析装置を用いた元素分析を行った. その結果,K/AlやCa/Alなどの指標は酸素同位体比曲線と類似する層位変化パターンを示し,酸素同位体比が高い時に低い値を示したが, D50などの粒径指標は氷期-間氷期スケールよりも細かい変動が見られた.さらに,有機炭素含有量の指標として用いたLOIは,MIS 31では比較的高い値を示していたが,MIS 31末期になると値が低下し,MIS 30では再びMIS 31と同水準の値になっていた.また,粒子径分布分析の結果と元素分析に基づく粒径代替指標は,おおまかには整合的であった.これらのことから,氷期-間氷期サイクル変動とは異なる時間スケールでの環境変動がスーパー間氷期末期にも存在する可能性がある.氷期-間氷期サイクルスケールの変動は日射量増大に伴う表層海流と表層生物生産の変化に由来すると考えられ,国本層で報告された現象(Itaki et al.,2022)と類似するメカニズムが示唆される.短周期変動の原因には別の外部強制力が考えられるが,今後の課題である.
