講演情報

[T2-O-5]愛媛県芸予諸島伯方島に産するエピ閃長岩:高温熱水流体による花崗岩類の変質と元素の移動・濃集

*福井 堂子1、下岡 和也2、高橋 俊郎3、齊藤 哲1 (1. 愛媛大学、2. 関西学院大学、3. 新潟大学)
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キーワード:

エピ閃長岩、エピ閃長岩化作用、岩石ー水相互作用、花崗岩、アルカリ交代作用、高温熱水流体

 【はじめに】
 エピ閃長岩は,花崗岩類とアルカリ成分に富む流体との相互作用により形成される,石英に乏しく,アルカリ長石に富む岩石である (Suikkanen and Ramo, 2019).その形成時には,原岩に含まれる石英の溶脱とそれに伴う空隙の形成が主たる反応として進行する.エピ閃長岩の形成過程を解明することは,大陸地殻の成熟過程,特に熱水変質に伴う化学成分の移動や,流体の循環を理解する上で重要である.本研究では,愛媛県伯方島に産する閃長岩質岩石について,野外産状・岩石記載,全岩化学組成分析,希土類元素(以下, REE)組成分析をおこない,その特徴を明らかにするとともに,当地域の閃長岩質岩石が石英の溶脱を経て形成したエピ閃長岩であること,また高温熱水流体が関与したことを議論する.さらに,当地域にみられる2種類のエピ閃長岩の成因関係についても議論する.

【野外産状・岩石記載】
 当地域の閃長岩質岩石は,色調の違いにより真珠色閃長岩と牡蠣色閃長岩に区分される.これら2種類の閃長岩質岩石は,伯方島最北端のトウビョウ鼻に産する角閃石・黒雲母を含む花崗岩に伴って局所的に産出し,いずれも花崗岩類から岩相が数cm スケールで漸移的に変化する.また,いずれも石英に乏しく,顕著なパーサイト組織やメソパーサイト組織を呈するアルカリ長石に富む.真珠色閃長岩は露頭中に空隙が顕著に認められることで特徴づけられる.主な構成鉱物はアルカリ長石および柘榴石であり,そのほか少量の単斜輝石,チタン石および二次的な石英が認められる.有色鉱物が少なく,色指数が0.8–6.0の優白質な岩石であり,有色鉱物は空隙を埋めるように晶出している.一方,牡蠣色閃長岩は露頭中に空隙が認められないが,鏡下では粒状集合組織を示す有色鉱物の集合体中に微細な空隙が認められる.構成鉱物はアルカリ長石および単斜輝石であり,そのほか少量の柘榴石,チタン石,ジルコン,燐灰石,褐簾石,磁鉄鉱および二次的な石英が認められる.色指数は8.0–16.3と真珠色閃長岩より高い.単斜輝石と柘榴石は粒状集合組織を呈し,一部では,単斜輝石,磁鉄鉱およびチタン石に伴う,角閃石および黒雲母の残存結晶が認められる.

【Isocon解析】
 花崗岩が閃長岩化する際の元素の移動を検討するために,当地域の閃長岩質岩石および母岩の花崗岩の全岩化学組成とREE組成データを用いて,Isocon解析(Grant, 1986)を行った.解析時の不動元素には,花崗岩に多く含有され,閃長岩化後も長石の結晶構造に保持されるAlを設定した.その結果,両閃長岩質岩石のいずれも母岩からのSiの減少と,Li,Na,Kといったアルカリ元素の増加が認められた.一方,他の元素に着目すると,花崗岩中の苦鉄質鉱物に含まれるTi, Fe, Caや, ジルコンなど副成分鉱物に含まれるZr, REEなど, 多くの元素が母岩の花崗岩に比べて真珠色閃長岩では減少し,牡蠣色閃長岩では増加する, という対照的な結果が得られた.

【議論】
 真珠色閃長岩の露頭中に認められる空隙や空隙充填鉱物の産状,牡蠣色閃長岩の鏡下で見られる粒状集合組織中の微細な空隙は,エピ閃長岩中にみられる「原岩中の石英の溶脱により形成された空隙を,有色鉱物が充填する組織(例えば, Suikkanen and Ramo, 2019)」と類似している.このことから,当地域に産する2種類の閃長岩質岩石はともに石英の溶脱を経験したエピ閃長岩であると考えられる.また,Suikkanen and Ramo (2019)では,エピ閃長岩のうち輝石を含むものを比較的高温条件(> 450 ℃)で形成したエピ閃長岩としている.当地域のエピ閃長岩も輝石を含むことから,450℃を超える高温の熱水流体の活動により形成したものと考えられる.一方で,当地域の2種類のエピ閃長岩はその特徴が大きく異なり,真珠色閃長岩は色指数が低く,原岩からの有色鉱物の溶脱が顕著であるのに対し,牡蠣色閃長岩は色指数が高く,有色鉱物の交代や二次鉱物の晶出がより進行しているという,対照的な記載岩石学的特徴を示す.またIsocon解析結果においても, 真珠色閃長岩で減少したTi, Fe, Ca, Zr, REEなどの元素が, 牡蠣色閃長岩では増加するという対照的な元素挙動を示している.これらのことから,真珠色閃長岩形成時に母岩から溶脱した元素が,牡蠣色閃長岩形成時に濃集したという両者の成因関係が示唆される.したがって,当地域のエピ閃長岩は,高温熱水流体による花崗岩類の変質と元素の移動・濃集を記録した岩石と考えられる.

引用文献:Grant, J. A. (1986). Economic Geology., 81, 1976–1982; Suikkanen and Ramo (2019) Min. Metall. Explor., 36, 861–878.