講演情報
[T6-O-1]中琉球で新たに発見された角閃岩相変成帯(徳之島帯)の岩石構成と地質構造
*山本 啓司1、磯﨑 行雄2、堤 之恭3 (1. 鹿児島大学大学院理工学研究科、2. 東京大学大学院総合文化研究科、3. 国立科学博物館地学研究部)
キーワード:
琉球弧、徳之島、地質構造、変成帯
中琉球のやや北東寄りに位置する徳之島(南北約26 km, 東西約14 km)の南部には、広域変成岩類(泥質片岩、砂質片岩、角閃岩、閃緑岩質片麻岩、蛇紋岩)が分布する(Ueda et al., 2017)。最近、山本ほか(2024)は徳之島の既存の地質情報(中川, 1967、川野・加藤, 1989、斎藤ほか, 2009、Ueda et al., 2017、及びYamamoto et al., 2022など)を整理し、広域変成岩類を一括して「井之川岳変成複合体」(IMC)と呼び、その分布域を「徳之島帯」と定義した。その後の調査で明らかにされた新知見を報告する。
山本ほか(2024)は、IMCが井之川岳(標高645 m)を中心とする山岳部および西海岸の秋利神川河口周辺の二つの領域に分布し、その総面積は約 27 km2 以上、厚さは500 m 程度と推定した。2025年春の追加調査によって、IMCが井之川岳北東の沿岸部、井之川岳の北西、及び犬田布岳周辺にも分布することが判明した。IMCの分布域は、第四紀被覆層の下に伏在する部分を含めて、約9 km 四方の領域内の約55 km2 に及び、その厚さは800 mに達すると推定される。
IMCは、二つの構造ユニット、すなわち泥質片岩と角閃岩を主体とし、閃緑岩質片麻岩、蛇紋岩、砂質片岩を含む「井之川ユニット(新称)」と、砂質・泥質片岩からなる「犬田布岳ユニット(新称)」からなる。井之川ユニットは北東沿岸部から井之川岳東方の井之川地区、そして犬田布岳の山麓部などに分布し、それらの厚さは600 m 程度である。井之川ユニットの角閃岩は角閃石と斜長石を主体とし、ざくろ石を含まない。同ユニットの蛇紋岩は、アンチゴライトを主体とし、局所的にかんらん石の残晶が認められ、トレモライトまたはアンソフィライトを含むことがある。角閃岩と蛇紋岩の鉱物組み合わせは、角閃岩相の低圧領域に相当する変成条件を示唆している。犬田布岳ユニットの岩石は、井之川岳山頂付近とその西方、犬田布岳山頂周辺、美名田山南東方などの標高が比較的高い地域、及び秋利神川河口周辺に分布し、厚さは200 m以上である。犬田布岳ユニットの砂質片岩及び泥質片岩は、黒雲母、白雲母、斜長石、カリ長石、石英、稀に角閃石を含んでいて、角閃岩相に達しているとみなされる。
砂質片岩および変閃緑岩中のジルコンの最若U-Pb年代は共に約60 Ma (古第三紀暁新世)であり(Yamamoto et al., 2022)、変成作用は古第三紀に起きたと推定される。両ユニットの内部は低角度の地質構造に支配され、犬田布岳ユニットは井之川ユニットに対して構造上位に累重する。そしてIMC全体は、非・弱変成の四万十帯付加体(砂岩・泥岩および玄武岩質緑色岩)の上位にクリッペとして累重する。
IMCが九州・中国地方の既知の変成岩ユニットに対比可能なのか、あるいは徳之島に固有なのかは現時点では判断できないが、非・弱変成の四万十帯付加体分布域の中にこのような特異な広域変成帯がクリッペとして産することは、琉球弧の地体構造を考察する上で極めて重要である。現在、変成作用の圧力温度条件と履歴の解明と、IMC構成岩のジルコン年代測定を進めており、新たな拘束条件の入手が期待される。
文献::中川(1967)東北大地質古生物邦報, 63, 1-39; 川野・加藤(1989)岩鉱, 84, 177-191; 斎藤ほか(2009) 1/20万地質図「徳之島」地質調査所, 産総研; Ueda et al. (2017) Island Arc 26. e12199; Yamamoto et al. (2022) Int. Geol. Review 64, 1-16. 山本ほか, 2024. 地学雑, 63, 1-16.
地名:井之川岳(いのかわだけ)、秋利神川(あきりがみがわ)、犬田布岳(いぬたぶだけ)、美名田山(みなだやま)
山本ほか(2024)は、IMCが井之川岳(標高645 m)を中心とする山岳部および西海岸の秋利神川河口周辺の二つの領域に分布し、その総面積は約 27 km2 以上、厚さは500 m 程度と推定した。2025年春の追加調査によって、IMCが井之川岳北東の沿岸部、井之川岳の北西、及び犬田布岳周辺にも分布することが判明した。IMCの分布域は、第四紀被覆層の下に伏在する部分を含めて、約9 km 四方の領域内の約55 km2 に及び、その厚さは800 mに達すると推定される。
IMCは、二つの構造ユニット、すなわち泥質片岩と角閃岩を主体とし、閃緑岩質片麻岩、蛇紋岩、砂質片岩を含む「井之川ユニット(新称)」と、砂質・泥質片岩からなる「犬田布岳ユニット(新称)」からなる。井之川ユニットは北東沿岸部から井之川岳東方の井之川地区、そして犬田布岳の山麓部などに分布し、それらの厚さは600 m 程度である。井之川ユニットの角閃岩は角閃石と斜長石を主体とし、ざくろ石を含まない。同ユニットの蛇紋岩は、アンチゴライトを主体とし、局所的にかんらん石の残晶が認められ、トレモライトまたはアンソフィライトを含むことがある。角閃岩と蛇紋岩の鉱物組み合わせは、角閃岩相の低圧領域に相当する変成条件を示唆している。犬田布岳ユニットの岩石は、井之川岳山頂付近とその西方、犬田布岳山頂周辺、美名田山南東方などの標高が比較的高い地域、及び秋利神川河口周辺に分布し、厚さは200 m以上である。犬田布岳ユニットの砂質片岩及び泥質片岩は、黒雲母、白雲母、斜長石、カリ長石、石英、稀に角閃石を含んでいて、角閃岩相に達しているとみなされる。
砂質片岩および変閃緑岩中のジルコンの最若U-Pb年代は共に約60 Ma (古第三紀暁新世)であり(Yamamoto et al., 2022)、変成作用は古第三紀に起きたと推定される。両ユニットの内部は低角度の地質構造に支配され、犬田布岳ユニットは井之川ユニットに対して構造上位に累重する。そしてIMC全体は、非・弱変成の四万十帯付加体(砂岩・泥岩および玄武岩質緑色岩)の上位にクリッペとして累重する。
IMCが九州・中国地方の既知の変成岩ユニットに対比可能なのか、あるいは徳之島に固有なのかは現時点では判断できないが、非・弱変成の四万十帯付加体分布域の中にこのような特異な広域変成帯がクリッペとして産することは、琉球弧の地体構造を考察する上で極めて重要である。現在、変成作用の圧力温度条件と履歴の解明と、IMC構成岩のジルコン年代測定を進めており、新たな拘束条件の入手が期待される。
文献::中川(1967)東北大地質古生物邦報, 63, 1-39; 川野・加藤(1989)岩鉱, 84, 177-191; 斎藤ほか(2009) 1/20万地質図「徳之島」地質調査所, 産総研; Ueda et al. (2017) Island Arc 26. e12199; Yamamoto et al. (2022) Int. Geol. Review 64, 1-16. 山本ほか, 2024. 地学雑, 63, 1-16.
地名:井之川岳(いのかわだけ)、秋利神川(あきりがみがわ)、犬田布岳(いぬたぶだけ)、美名田山(みなだやま)
