講演情報

[T6-O-6]中琉球, 徳之島帯の高度変成帯の起源と形成テクトニクス

*磯崎 行雄1、山本 啓司2、堤 之恭3、谷 健一郎3 (1. 東京大学 大学院総合文化研究科 宇宙地球科学教室、2. 鹿児島大学 大学院理工学研究科、3. 国立科学博物館 理学研究部地学研究グループ)
PDFダウンロードPDFダウンロード

キーワード:

徳之島帯、古第三紀、片麻岩/片岩、角閃岩相、四万十帯、ジルコンU-Pb年代

 中琉球の徳之島の先中新世基盤岩類は, 東隣の奄美大島と同様, 基本的に四万十帯付加体と古第三紀花崗岩類から構成されるとみなされてきた(中川, 1967; 斎藤ほか, 2009など). 最近になって徳之島中央部に角閃岩相に達する高度変成帯が新たに識別された(Ueda et al., 2017; Yamamoto et al., 2022). それらは苦鉄質片麻岩を含む砂質・泥質片岩/片麻岩から構成され, 一部に塊状蛇紋岩を伴う. 東西および南北方向に各々9kmの広がりを持ち, 厚さは少なくとも800 mに達することから, 局所的な接触変成帯ではなく広域変成帯の一部とみなされる. 山本ほか(2024)はこれを「井之川岳変成複合岩体」(Imc)と呼び, 非変成の四万十帯付加体の上にクリッペとして累重する産状を明らかにした. ほぼ非・弱変成付加体のみからなる四万十帯の中で高度変成岩がクリッペとして産することは極めて稀であり, その起源と形成プロセスは琉球弧の中生代末から新生代前半テクトニクスの理解に重要である.

徳之島南半に産するImcおよび四万十帯の非変成付加体について追加の野外調査を実施し, また変成岩および堆積岩中のジルコンのU-Pb年代の測定を行った結果, 以下の事柄を明らかにした. 1)徳之島北半の非変成付加体(天城岳ユニット)砂岩の砕屑性ジルコン年代スペクトルは奄美大島の付加体のもの(Tsutsumi & Tani, 2024)と共通で, 四万十帯北帯の後期白亜紀付加体に対比される. 一方, 徳之島南半の尾母ユニットの砂岩はより若いジルコン年代スペクトルを持ち, 四万十帯北帯/南帯境界の白亜紀最末期-古第三紀付加体に対比される. 2)Imcは泥質片岩を主とし苦鉄質片岩/片麻岩や蛇紋岩を伴う井之川ユニットと, その上位に累重する砂質片岩からなる犬田布岳ユニットから構成される. 両者の原岩(砂岩および閃緑岩)は共に約60 Ma(暁新世)の火成起源ジルコンを含む. 3)犬田布ユニットの砂質片岩の砕屑性ジルコンの年代スペクトルは2パタンからなり, 各々白亜紀後期付加体(天城岳ユニット)とそれを覆う古第三系斜面被覆層(四国南西部の百笑層相当;中野ほか, 2021)が原岩であることを示唆する. 4)Imcの全ては小規模な中新世の珪長質岩脈に貫入されている. 5)非変成付加体の尾母ユニットとImcとの間の変成度ギャップは明瞭で, 両者間の境界は露頭では未確認ながら, ほぼ等高線に沿った低角度(変成岩ナップ下底)逆断層と推定される. 6)Imcは白亜紀付加体と被覆層の一部が古第三紀始新世ないし漸新世に地殻内高温部で変成された地質体で, 中新世までにナップとして地表へ上昇し, 非変成付加体上へ累重したと推定される. 7)Imc/尾母ユニット間の低角度断層(中琉球スラスト;新称)は, 大局的に四万十帯の北帯・南帯境界にあたり, 九州南東部の延岡構造線(今井ほか, 1971; 奥村ほか, 2010など)や四国の中筋地溝帯/安芸構造線へと連続する. この境界周辺の変成岩類の中ではImcが最高温度部( > 650 ℃;宇野ほか, 未公表)を記録しており, 中琉球スラストは地殻深部でできた角閃岩相変成岩類が地表へナップとして上昇した際の主要経路の痕跡とみなされる.

古第三紀の琉球弧で白亜紀付加体を60 Ma以降に角閃岩相まで変成させた高温熱源の候補として, アジア東縁での海嶺や火山弧の沈み込みが考えられる. Imcよりも若い中新世丹沢変成帯以外で, 四万十帯での火山弧衝突は未検出である一方, イザナギ・太平洋海嶺の東アジアへの沈み込みが始新世前半に想定されている(Seton et al., 2015; Wu & Wu, 2019) . Imcの発見を契機に, 古第三紀日本の前弧での高温イベントおよび高度変成岩ナップの非変成付加体上への定置テクトニクスの起源・プロセスについて, 陸上の地質学から様々に検証されることが期待される.

文献:今井ほか(1971)地質雑, 77, 207-220; 中川(1967)東北大・理地質古生物研報, 63, 1-39; 中野ほか (2021)地学雑誌, 130, 707-718; 奥村ほか(2010) 1/5万 地質図「延岡」産総研地質センター;斎藤ほか(2009) 1/20万 地質図「徳之島」. 産総研地質センター; Seton et al. (2015) Geophys. Res. Lett., 42, 1732-1740; Tsutsumi & Tani (2024) Bull. Natl. Mus. Nat. Sci., C50, 7; Ueda et al. (2017) IsArc, 26, e12199; Wu & Wu (2019) Geology, 47, 953-957; Yamamoto et al. (2022) Int. Geol. Rev., 64, 425-440; 山本ほか(2024)地学雑誌, 133, 447-464.