講演情報

[T1-P-4]関東山地,金峰山花崗岩の周囲に発達する接触変成帯の熱構造

*山岡 健1、村上 大知2、中澤 明子2、延原 香穂2、森 宏2 (1. 産業技術総合研究所、2. 信州大学)
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キーワード:

接触変成帯、花崗岩、熱モデル、炭質物ラマン温度計

 接触変成帯はマグマが地殻中で移動あるいは定置する際に周囲に残される熱的痕跡であり,基本的には熱拡散による最高温度到達時の包絡温度の分布を示す.マグマ貫入による熱影響のモデル化は,接触変成岩の温度―時間履歴や貫入前の母岩の背景温度の推定などに利用することができる.しかし,しばしば接触変成作用の説明に用いられる熱モデルでは変成温度や加熱時間を過大評価あるいは過小評価している可能性がある.これは,前者についてはマグマ貫入の時間スケールの過小評価(Annen, 2017),後者については系からのマグマ流出を考慮していないこと(Yamaoka et al., 2023)に起因する可能性がある.したがって,接触変成帯の適切な熱モデルは深成岩の形成史と整合するように慎重に構築する必要がある.

関東山地西部に位置する中新世の金峰山花崗岩は,化学組成が互いに似通う厚さ20–200 mのシート状マグマが下方付加しながら漸増的に成長した記録を残している浅所貫入岩体である(Yamaoka et al., 2025).金峰山花崗岩は砂岩・泥岩を主体とする四万十帯白亜紀付加体を貫いて顕著な接触変成作用を与えている.本研究では,接触変成岩に対して炭質物ラマン温度計を適用することによって接触変成帯の熱構造を決定し,野外観察や貫入熱モデルと比較することで,熱構造に影響を与えた深成岩形成プロセスや熱輸送プロセスを検討した.

炭質物ラマン温度計を用いて得られた接触変成帯の熱構造は,岩体の側壁において貫入境界に向かう約250℃から約600℃までの連続的な温度上昇を記録しており,野外観察との組み合わせから,泥質岩において約310℃で黒雲母が,約500℃で菫青石が出現したことが分かる.これら変成鉱物の出現温度はギブス自由エネルギー最小化プログラムであるMAGEMin(Riel et al., 2022)を用いたモデル計算と低圧条件(≤ 1 kbar)でよく合致する.貫入時のマグマ温度を推定するため,rhyolite-MELTSを用いて結晶化モデリングを行なった結果,金峰山花崗岩の典型的な晶出率を説明するためには約760℃でマグマが貫入する必要があることが明らかになった.結晶化モデリングの際の含水率(飽和)は花崗岩中の多数のmiarolitic cavityの存在と,石基石英へのTi-in-quartz地質温度計の適用によるマグマ温度の制約からも支持される.このマグマ温度の制約を用いて,球体状のマグマが瞬間的に貫入する仮定のもと,解析解を用いた一次元熱伝導モデリングを行なった.その結果,現実的な母岩初期温度の範囲では,炭質物ラマン温度に対して貫入境界付近で少なくとも50–80℃低温の熱構造が形成されることが明らかとなった.このモデルと観測のギャップは,貫入境界付近で追加の熱源が必要であることを示しており,熱水循環あるいはマグマの対流による貫入境界の効果的な加熱が必要になる.また,金峰山花崗岩の定置履歴を考慮すると,接触変成帯において貫入期間中に任意の時間で利用可能な熱は貫入マグマフラックスが低くなるほど減少するため,モデルと観測のギャップを小さくするには高いマグマフラックスが必要である.今後,貫入時の対流やマグマフラックスと熱流体による移流の効果の寄与の程度はより詳細な数値モデルにより検討する必要がある.

引用文献Annen (2017), doi:10.3389/feart.2017.00082, Riel et al. (2022), doi:10.1029/2022GC010427, Yamaoka et al. (2023), doi:10.1130/G51563.1, Yamaoka et al. (2025), doi:10.1111/iar.70014.