講演情報

[T1-P-5]東南極リュツォ・ホルム岩体,西オングル島のミグマタイトの年代論

*加々島 慎一1、馬場 壮太郎2、中野 伸彦3、谷 健一郎4 (1. 山形大学、2. 琉球大学、3. 九州大学、4. 国立科学博物館)
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キーワード:

南極、ミグマタイト、原岩年代、火成年代、ジルコンU-Pb年代

 東南極リュツォ・ホルム岩体(LHC)には,新原生代〜カンブリア紀に活動した多様な変成岩・深成岩が分布する.東部のプリンスオラフ海岸から西部のリュツォ・ホルム湾に面する宗谷海岸に向かって,角閃岩相からグラニュライト相へと累進的に変成度が上がるとされている(Hiroi et al., 1991,Shiraishi et al., 1994, 2003など).Shiraishi et al. (2008)は, 550〜520 Maに高度変成作用を被っており,ゴンドワナ超大陸集合の最終ステージと解釈している.近年,LHCから多くのジルコンU-Pb年代が報告されており, Dunkley et al. (2020)は,それらを正片麻岩,準片麻岩,および変動期〜後期の火成岩の3つに分類し,原岩・変成・貫入年代を整理した.原岩年代に基づいて,LHC南西部から北東へ向かって,Inhovde suite (1070-1040 Ma),Rundvågshetta suite (2520-2470 Ma),Skallevikshalsen suite (1830-1790 Ma),Langhovde suite (LHV, 1100-1050 Ma),East Ongul suite (EOG, 630 Ma),およびAkarui suite (970-800 Ma)と,LHCを細分化したユニット区分を提示している.西オングル島はLHVに,隣接する昭和基地のある東オングル島は異なるスイート(EOG)に区分されており,地質および年代の精査が求められている.西オングル島のジルコンU-Pb年代は,正片麻岩から1096-1060 Maの原岩年代,552-520 Maの変成年代が報告されている.非変形の後期火成岩(花崗岩質ペグマタイトなど)ジルコン年代は不明であるが,川野(2018)によってpost metamorphic graniteのRb-Srアイソクロン年代として525±28 Maが報告されている.本研究で用いるミグマタイトは,1つの試料の中で,黒雲母片麻岩,片麻状構造に調和的な花崗岩,およびこれらに貫入する花崗岩質ペグマタイトを観察することができる.これらからそれぞれジルコンを分離し,原岩・変成・後期火成岩の活動年代を明らかにすることを目的とする. ミグマタイトは母岩である黒雲母片麻岩と,片麻状構造に調和的に花崗岩質部が脈状にあり,さらにこれらの構造を切って非変形の花崗岩質ペグマタイトが存在する.2cm厚のスラブを作製し,片麻岩主部,混在部,花崗岩部の3つのタイプに分割するよう切断した.ジルコンの抽出から年代測定までは国立科学博物館の装置を使用した.結果概要を以下に示す. ジルコンは自形性が強く,コアからリムにかけてoscillatory zoningが認められる.リムに薄く輝度の高い部分があるほか,ジルコン内部にも高い輝度を持つものもある.また一方で,輝度が低くoscillatory zoningが不明瞭なものや,わずかであるがfir-tree zoningのものも存在する.輝度が低いものはディスコーダントとなり年代値は得られていない.何れの試料も年代の範囲がほぼ重複しており,ジルコン内部組織等の詳細な検証が必要であるが,原岩年代として 1094-1004 Maが得られた.また,片麻岩のジルコンのうち特にTh/U比が0.1以下のものは明らかに若い年代値を示す.これらだけで加重平均を求めると540 Maとなり,変成年代を示すと考える.混在部および花崗岩部も同様にTh/U比が0.1以下のものは若い年代値を示し,これらの年代範囲は527-517 Maとなる.これは変成作用の後期または終了後間もなく花崗岩類が貫入していたことを示している. <引用文献>Hiroi et al. (1991) Geological Evolution of Antarctica, 83-87. Shiraishi et al. (1994) Journal of Geology, 102, 47–65. Shiraishi et al. (2003) Polar Geosci., 16, 76-99. Shiraishi et al. (2008)Geol. Soc. London, special publication,308,21-67. Dunkley et al. (2020) Polar Sci., 26, 100606. 川野(2018)地球環境研究, 20, 69-79.