講演情報

[T1-P-9]東南極リュツォ・ホルム岩体スカーレンのざくろ石片麻岩中のナノ花崗岩包有物

*松本 祐門1、池田 剛1 (1. 九州大学)
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キーワード:

ナノ花崗岩包有物、リュツォ・ホルム岩体、ざくろ石

 ナノ花崗岩包有物は,岩石の部分融解により生じたメルトが変成鉱物中に取り込まれ結晶化することで形成される.ナノ花崗岩包有物は世界各地の高温の変成帯で見つかっており,東南極リュツォ・ホルム岩体のグラニュライト相の地域でも報告されている(Hiroi et al., 2023).今回,多量のナノ花崗岩包有物がスカーレン地域のざくろ石片麻岩のざくろ石中に産することを発見した. 本研究では,ナノ花崗岩包有物の化学組成を推定し,ざくろ石の成長中に存在したメルトの特徴を明らかにした.
試料のざくろ石は粒径10 mm程度の斑状変晶であり,凹凸に富む形状を示す.ナノ花崗岩包有物の粒径は15-80 µmであり,外形は球状から不定形まで様々な形状を示す.一部はホストのざくろ石のクラックと接続している.ナノ花崗岩包有物の構成鉱物は現時点で確認できているもので,石英, 斜長石, カリ長石, 黒雲母であり,各粒子が10 µm未満の非等粒状組織・granopyllic組織を示す.
ナノ花崗岩包有物のバルク組成を推定するために,包有物全体を網羅する範囲を測定し,分析値からホストざくろ石の組成をFe含有量がゼロになるまで差し引いて,推定値の上限と定めた.下限はザクロ石と包有物を共に含む実測の値とした.定量精度を維持するためには分析値を直径40 µm未満にする必要があるため,粒径20 µm未満の包有物を分析した.今回はクラックを伴わない包有物を検討した.
ホストのざくろ石のXCa(=Ca/(Fe+Mg+Mn+Ca))は0.03-0.11の範囲で変動し, コアで低くマントルで上昇しリムで減少する.ざくろ石の#Mg (=Mg/ (Fe+Mg))やXMn (=Mn/ (Fe+Mg+Mn+Ca))は一定である.ほとんどのナノ花崗岩包有物がざくろ石中心部のXCa=0.04-0.06の範囲に集中して分布する. ナノ花崗岩包有物の推定されるバルク組成は,AKF図上で下限から上限に向かってAが増加する包有物と減少する包有物の2種類に分かれる.前者は泥岩の部分融解実験で生じるメルト(Vielzeuf and Holloway, 1988)の範囲と重複する.組成は包有物の粒径や包有場所と相関を持たない.
ナノ花崗岩包有物がざくろ石のXCaのほぼ等しい領域に分布することは, ほぼ同時期にざくろ石に取り込まれたことを示唆する. にもかかわらず,ナノ花崗岩包有物の組成が異なるのは,包有される前に粒界に存在していたメルトの組成が不均質だったことを意味する.上限に向かってAが増加する包有物は,泥岩の部分融解メルトであったと解釈できる.

文献
Veelzeuf and J. R. Holloway (1988) Experimental determination of the fluid-absent melting relations in the pelitic system. Consequences for crustal differentiation. Contributions to Mineralogy and Petrology, 98, 257-276.
Hiroi, T. Hokada, T. Adachi, K. Shiraishi, Y. Motoyoshi, and E. S. Grew (2023) Nanogranitoid inclusions with grandidierite in mafic granulite from Austhovde, Lützow-Holm Complex, East Antarctica. Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 118, antarctica.