講演情報

[T2-P-5]第四紀黒部川花崗岩のジルコン中メルト包有物記載

*田口 湧一1、齊藤 哲2 (1. 愛媛大学理学部理学科地学コース、2. 愛媛大学大学院理工学研究科)
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キーワード:

メルト包有物、ジルコン、黒部川花崗岩

 はじめに メルト包有物はマグマ溜まりで成長する鉱物中に周囲のメルトが取り込まれたものであり、メルトの化学組成や含水量といった情報を保持している。ジルコンに含まれるメルト包有物は、物理化学的に安定な鉱物であるジルコンがメルト包有物の変質を妨げるため、メルトの組成情報を復元するために適した研究対象である(Thomas et al., 2003 Rev Mineral Geochem)。また近年はメルト包有物の解析からジルコンがマグマから結晶化する際の物理条件を制約する研究が行われている(例えば、Taniwaki et al., 2023 Lithos; Kawashima et al., 2024 JMPS; Taniwaki et al., 2025 Lithos)。本研究では、露出した花崗岩体としては世界で最も若い年代が得られている第四紀黒部川花崗岩を対象に、ジルコン中メルト包有物についての記載研究を行った。 研究試料・研究手法 本研究には、北アルプス北部に分布する第四紀黒部川花崗岩体から採取された花崗岩試料を使用した。この試料はSuzuki et al. (2022 Island Arc)により0.735 ± 0.042 MaのU-Pb年代が報告されている。主成分鉱物として石英、斜長石、アルカリ長石、黒雲母、普通角閃石を、副成分鉱物としてジルコン、燐灰石を含む。ジルコン内部には微細な燐灰石が含まれるほか、円形〜不定形の包有物が認められる。本試料から分離・抽出したジルコンを、1粒子ごとにエポキシ樹脂でマウント後、偏光顕微顕微鏡の透過光および反射光で観察しながら円形〜不定形の包有物が露出するように鏡面研磨を行った。炭素蒸着した後、SEM-EDSでの観察・元素組成マッピングを行った。 結果と考察  マウント作業および鏡面研磨作業を行なった16粒のジルコン試料のうち、5粒のジルコン試料について、円形〜不定形の包有物を観察することができた(Fig. 1)。円形〜不定形の包有物は7つ観察でき、そのうちの3つは微細な石英、アルカリ長石、斜長石からなる多相包有物であり、残りの4つはガラス質包有物であった。これらはジルコンの結晶成長時に取り込んだメルトが固結したメルト包有物であると考えられる。両者のメルト包有物とも、微細な空隙を伴っている。多相包有物とガラス質包有物のそれぞれについて元素組成マッピングをおこなった(Fig. 2, Fig. 3)。ガラス質包有物は組成がおおむね均質である(Fig. 3)。本研究で記載した多相包有物とガラス質包有物は、それぞれ黒部川花崗岩マグマの冷却過程において、ジルコンに取り込まれたメルトが結晶化したもの(多相包有物)と結晶化しなかったもの(ガラス質包有物)に相当すると考えられるが、深成岩である花崗岩中で、どのようにして両者が形成したのか、また両者の組成に違いがあるのか、等については、今後の検討課題である。 謝辞 本研究で用いた試料は、日本原子力開発機構の末岡茂博士、京都大学の河上哲生博士、富山大学の中嶋徹博士よりご提供頂きました。厚く御礼申し上げます。
Fig. 1(a)ジルコンの反射電子像。多相包有物とガラス質包有物を含む。
Fig. 1(b)多相包有物の組成マップ。微細な石英、アルカリ長石、斜長石からなる。
Fig. 1(c)ガラス包有物の組成マップ。ほぼ均質なガラスと空隙が認められる。