講演情報
[T2-P-6]ジルコン中メルト包有物を用いた山陽帯土生花崗岩質岩体のマグマ固結深度見積もり
*熊谷 汐莉1、齊藤 哲1 (1. 愛媛大・院理)
キーワード:
メルト包有物、花崗岩、ジルコン
はじめに 西南日本内帯には低変成度から高変成度の高温低圧型変成岩や花崗岩類が大規模に露出しており、これらは地殻深部プロセスを読み解くために重要な地質体と考えられている(例えば、赤崎ほか, 2013;中島, 2018)。本研究対象である土生岩体を含む岩国〜柳井地域では、花崗岩類の露頭が断続的に分布し、北部から南部にかけての定置深度が増加すると考えられている。本研究では、岩国〜柳井地域北部に位置し、地殻浅部に定置したとされる土生岩体のジルコン中メルト包有物について、ジルコンの結晶化圧力を検討した。さらに、同地域南部に位置し、地殻深部に定置したとされる蒲野花崗閃緑岩についてのジルコン結晶化圧力見積もりの先行研究(Kawashima et al., 2024)との比較をおこなった。
地質概説 土生岩体は後期白亜紀に活動した花崗岩類が産出する山陽帯に属しており、玖珂層群南部のチャート層および泥質岩中に貫入、接触変成作用を与えている(大和田ほか, 1995)。実験試料として用いた岩体の周縁相は中粒の角閃石黒雲母トーナル岩~花崗閃緑岩からなる。
実験試料 実験試料は主成分鉱物として石英、斜長石、アルカリ長石、黒雲母、角閃石、副成分鉱物としてジルコン、燐灰石を含む。鏡下観察からジルコンは黒雲母や角閃石の縁部に包有されるか、斜長石など主成分鉱物の粒間に認められた。SEM-EDSによるジルコン観察から、ジルコンが石英、アルカリ長石、斜長石からなる多相包有物を含むことを確認した。
実験 Taniwaki et al. (2023)およびKawashima et al. (2024)の手法に従い、試料から分離したジルコンをNaClとともにカプセルに封入し、ピストン−シリンダー型高温高圧発生装置でメルト包有物の均質化実験を行った。
結果 実験後のEDS分析結果から、メルト包有物は花崗岩質な組成を持っている。メルト包有物のSiO2含有量は76.0~78.1 wt%であり、これらはジルコン分離試料の全岩SiO2含有量(63.5 wt%)より有意に高い。また、メルト包有物のアルミナ飽和度は1.06〜1.21であり、パーアルミナスな組成を持つ。
考察 メルト包有物組成は岩体の全岩化学組成トレンドのSiO₂含有量の高いところに位置し、ジルコンは主要鉱物の縁部や粒間に認められた。これらのことから、ジルコンはマグマ中の鉱物粒間の分化したメルトを包有したものと考えられる。さらにジルコンの結晶化圧力制約のため、パーアルミナス組成を持つ珪長質メルトに対して考案されたYang et al. (2022)の地質圧力計を適用したところ、433~176 MPaの圧力が見積もられた。見積もられたジルコン結晶化圧力のうち、最も低圧な圧力(176±120 MPa)を岩体の最終的な固結圧力として深度に換算すると、6.8 (±4.6) kmに相当する。この結果は、土生岩体が母岩の玖珂層群の岩石と明瞭な貫入境界を示している産状、および岩国〜柳井地域北部の変成岩に記録されている接触変成作用の圧力(約100 ~ 300 MPa) (Ikeda, 2004; Skrzpek et al., 2016)と調和的である。一方、Kawashima et al. (2024) は、同地域南部に分布する蒲野花崗閃緑岩に含まれるジルコン中メルト包有物の主要元素組成に対して、機械学習の手法に基づくメルト地質圧力計(MagMaTaB地質温度圧力計, Weber and Blundy, 2024)を用い、563~266 MPaのジルコン結晶化圧力を見積もった。本研究で得られた土生岩体のメルト包有物について同地質圧力計を用いたところ、549~248 MPaの圧力が見積もられ、蒲野花崗閃緑岩(563〜266 MPa)と有意な差は認められない。従来、同地域の花崗岩類の定置深度は北から南にかけて増加すると考えられているが、新たに検討した結果からは、両岩体ともにマグマ上昇過程での広い圧力範囲にわたるジルコンの結晶化と、より地殻浅部での最終的なマグマの固結が示唆される。
引用文献 大和田ほか(1995) 岩鉱 90, 358–364; 赤崎ほか(2013) 岩石鉱物科学 42, 159–173; Ikeda (2004) Contrib. Mineral. Petrol.146, 577–589; 中島 (2018) 地質雑124, 603–625; Yang et al. (2022) Contrib. Mineral. Petrol.117, 78; Taniwaki et al. (2023) Lithos 454–455, 107260; Kawashima et al. (2024) Jour. Mineral. Petrol. Sci.119, 018 Weber and Blundy (2024) Jour. Petrol. 65, 020., Skrzypek et al. (2016) Lithos 260, 9-27
地質概説 土生岩体は後期白亜紀に活動した花崗岩類が産出する山陽帯に属しており、玖珂層群南部のチャート層および泥質岩中に貫入、接触変成作用を与えている(大和田ほか, 1995)。実験試料として用いた岩体の周縁相は中粒の角閃石黒雲母トーナル岩~花崗閃緑岩からなる。
実験試料 実験試料は主成分鉱物として石英、斜長石、アルカリ長石、黒雲母、角閃石、副成分鉱物としてジルコン、燐灰石を含む。鏡下観察からジルコンは黒雲母や角閃石の縁部に包有されるか、斜長石など主成分鉱物の粒間に認められた。SEM-EDSによるジルコン観察から、ジルコンが石英、アルカリ長石、斜長石からなる多相包有物を含むことを確認した。
実験 Taniwaki et al. (2023)およびKawashima et al. (2024)の手法に従い、試料から分離したジルコンをNaClとともにカプセルに封入し、ピストン−シリンダー型高温高圧発生装置でメルト包有物の均質化実験を行った。
結果 実験後のEDS分析結果から、メルト包有物は花崗岩質な組成を持っている。メルト包有物のSiO2含有量は76.0~78.1 wt%であり、これらはジルコン分離試料の全岩SiO2含有量(63.5 wt%)より有意に高い。また、メルト包有物のアルミナ飽和度は1.06〜1.21であり、パーアルミナスな組成を持つ。
考察 メルト包有物組成は岩体の全岩化学組成トレンドのSiO₂含有量の高いところに位置し、ジルコンは主要鉱物の縁部や粒間に認められた。これらのことから、ジルコンはマグマ中の鉱物粒間の分化したメルトを包有したものと考えられる。さらにジルコンの結晶化圧力制約のため、パーアルミナス組成を持つ珪長質メルトに対して考案されたYang et al. (2022)の地質圧力計を適用したところ、433~176 MPaの圧力が見積もられた。見積もられたジルコン結晶化圧力のうち、最も低圧な圧力(176±120 MPa)を岩体の最終的な固結圧力として深度に換算すると、6.8 (±4.6) kmに相当する。この結果は、土生岩体が母岩の玖珂層群の岩石と明瞭な貫入境界を示している産状、および岩国〜柳井地域北部の変成岩に記録されている接触変成作用の圧力(約100 ~ 300 MPa) (Ikeda, 2004; Skrzpek et al., 2016)と調和的である。一方、Kawashima et al. (2024) は、同地域南部に分布する蒲野花崗閃緑岩に含まれるジルコン中メルト包有物の主要元素組成に対して、機械学習の手法に基づくメルト地質圧力計(MagMaTaB地質温度圧力計, Weber and Blundy, 2024)を用い、563~266 MPaのジルコン結晶化圧力を見積もった。本研究で得られた土生岩体のメルト包有物について同地質圧力計を用いたところ、549~248 MPaの圧力が見積もられ、蒲野花崗閃緑岩(563〜266 MPa)と有意な差は認められない。従来、同地域の花崗岩類の定置深度は北から南にかけて増加すると考えられているが、新たに検討した結果からは、両岩体ともにマグマ上昇過程での広い圧力範囲にわたるジルコンの結晶化と、より地殻浅部での最終的なマグマの固結が示唆される。
引用文献 大和田ほか(1995) 岩鉱 90, 358–364; 赤崎ほか(2013) 岩石鉱物科学 42, 159–173; Ikeda (2004) Contrib. Mineral. Petrol.146, 577–589; 中島 (2018) 地質雑124, 603–625; Yang et al. (2022) Contrib. Mineral. Petrol.117, 78; Taniwaki et al. (2023) Lithos 454–455, 107260; Kawashima et al. (2024) Jour. Mineral. Petrol. Sci.119, 018 Weber and Blundy (2024) Jour. Petrol. 65, 020., Skrzypek et al. (2016) Lithos 260, 9-27
