講演情報

[T2-P-13]オマーン・オフィオライト南部, 新期拡大セグメント地殻セクションの地球化学的特徴とその意義

*荒岡 柊二郎1、錦蛇 真理1 (1. 北海道大学)
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キーワード:

オマーン・オフィオライト、スプラ・サブダクション帯、海洋地殻、含水量

 アラビア半島北東部に位置するオマーン・オフィオライトは、北部岩体が島弧的特徴を示す一方、南部岩体は中央海嶺的特徴を示し、その形成環境が長い間議論されてきたが、伊豆・小笠原・マリアナ弧との比較を含む近年の研究により、オマーン・オフィオライト全体が沈み込みに関連して形成されたというコンセンサスが得られつつある [e.g., 1-3]。南部から中央部にかけての岩体には、岩脈の走向およびマントル流動構造に基づき、相対的に古いリソスフェアに対して後から拡大した北東-南東方向の「新期拡大セグメント」が推定されている[4, 5]。このセグメントの内外では、海洋リソスフェアの構造や形成プロセスの解明を目的とした数多くの研究が個別の地点でなされてきたが、新期拡大セグメントを包括的に扱った研究はほとんど行われていない。そこで本研究では、新期拡大セグメント内外の地殻セクションの地球化学データをまとめ、議論を行った。
 地球化学データは、南部岩体(Nakhl-Rustaq, Maqsad (Sumail), Wadi Tayin)の新規分析データおよびICDP オマーン掘削プロジェクトの成果を含む先行研究で得られた既存データを統合し、新期拡大セグメント内外から下部地殻のはんれい岩類約400試料、上部地殻の層状岩脈群、溶岩層の火山岩類約200試料のデータをコンパイルした。これらのデータを分析した結果、新期拡大セグメント内部は外部に比べ、(1)はんれい岩類の鉱物化学組成において、特定の単斜輝石Mg#に対して斜長石An値が低く、(2)火山岩類の全岩化学組成において、SiO2含有量が低く、MgO含有量が高い、また特定のMgO含有量に対してTiO2含有量が高く、Al2O3含有量が低い、特定のZr含有量に対してCr含有量が高い傾向を示すことが明らかになった。
 実験的研究により、斜長石はメルトの含水量変化に敏感で、含水量が高いほど斜長石の結晶化が抑制され、結晶化の際にはAn値が高くなることが知られている[e.g., 6]。また、それに伴い液相降下線(LLD)も変化する。このことから、新期拡大セグメント内外での地球化学的差異を含水量の違いによって説明することができ、内部は外部に比べ形成時の含水量が低かったと示唆される。MELTSアルゴリズム [7]を用いたモデリング結果との比較からも、新期拡大セグメント内部は、はんれい岩類、火山岩類いずれも外部に比べより含水量の低い分化トレンドに乗る。この結果は、V1/Phase1/Geotimesマグマ活動期中に含水量変化があったことを意味するが、単純な沈み込みの進行に伴う含水量の増加とは対照的な変化である。これは、例えば相対的に拡大軸が沈み込むスラブから遠ざかったなど、沈み込むスラブとの位置関係の変化として解釈可能であり、新たなセグメントの拡大やマントルダイアピルといった構造的証拠とあわせて、オマーン・オフィオライト形成時に推定されているスラブのロールバック[8, 9]に関連付けられる可能性がある。
 新期拡大セグメントを特徴づける岩脈の走向の違いは従来、中央海嶺でのマイクロプレートの回転と関連付けられてきたが[10]、セグメント内外で年代に差が認められないこと[11]、古地磁気データからオフィオライト全体が同様の回転を受けていたことが示唆されており[8]、沈み込み環境での形成という点も含めて再解釈が必要であると考える。今後は、この点も含め新期拡大セグメントの形成プロセスについて議論していく予定である。

引用文献:[1]Ishizuka et al. (2014) Elements 10, 115–120. [2]MacLeod et al. (2013) Geology 41, 459–462. [3]Rioux et al. (2021) JGR Solid Earth 126, e2020JB020758. [4]Nicolas and Boudier (1995) J. Geophys. Res. 100, 6179–6197. [5]Nicolas et al. (2000) Mar. Geophys. Res. 21, 147–179. [6]Feig et al. (2006) Contrib. Mineral. Petrol. 152, 611–638. [7]Ghiorso and Sack (1995) Contrib. Mineral. Petrol. 119, 197–212. [8]Morris et al. (2016) Geology 44, 1055–1058. [9]van Hinsbergen et al. (2021) Nat. Geosci. 14, 626–630. [10] Boudier et al. (1997) Terra Nova 9, 79–82. [11] Rioux et al. (2013) JGR Solid Earth 118, 2085–2101.