講演情報

[T2-P-16]愛媛県芸予諸島大島に分布する白亜紀花崗岩類の酸化還元状態の推定

*下岡 和也1、齊藤 哲2、壷井 基裕1 (1. 関西学院大学、2. 愛媛大学)
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キーワード:

白亜紀花崗岩類、大島石、2価鉄の定量分析、吸光光度法

 花崗岩の酸化還元状態は,マグマの発生から固結に至るプロセスにおける起源物質や地殻物質の同化の程度を検討するために極めて重要な指標である。花崗岩の酸化還元状態の推定にはこれまで磁鉄鉱-チタン鉄鉱酸素分圧計や過マンガン酸カリウム滴定法などが用いられてきた。しかしながら,これらの方法は,磁鉄鉱とチタン鉄鉱がメルト中で共存する限られた花崗岩にのみ適用可能であることや,試薬調製や滴定時の技術的な側面から,全ての花崗岩体に対して簡便に使用できるものではない。そこで本研究では,愛媛県芸予諸島大島に分布する花崗岩類(大島Ⅰ型・大島Ⅱ型)について,全岩化学組成分析および吸光光度法を用いた鉄(Ⅱ)の定量分析(野上ほか, 1996, 火山)を実施し,花崗岩形成時のマグマの酸化還元状態の推定をおこなった。
 愛媛県芸予諸島大島には,白亜紀フレアアップ期に形成された花崗岩類が広く分布する。特に北部に分布する花崗岩類は,その記載岩石学的特徴から大島Ⅰ型と大島Ⅱ型に区分できる。これらは,大島Ⅱ型が大島Ⅰ型を胚胎するような累帯深成岩体様の分布域を示し,両者の境界は漸移的である。大島Ⅰ型は優白質塊状で部分的にペグマタイトを伴う。一方で,大島Ⅱ型は大島Ⅰ型と比較するとわずかに優黒質であり,岩体周縁部では閃緑岩質なMMEや黒雲母からなるクロットが特徴的に含まれる。全岩化学組成分析の結果,主要元素含有量(TiO2, MnO, MgO, CaO, Na2O, P2O5)およびMgO/(Total-Fe2O3 + MgO),CaO/(CaO + Na₂O)において両者は有意な差を示し,多くの元素において,ハーカー図上での異なる組成トレンドが認められる。また,Total-Fe2O3は大島Ⅰ型で2.1−2.8 wt%,大島Ⅱ型で2.1−2.9 wt%の組成範囲を示し,どちらもSiO2の増加とともに減少する傾向を示すが,組成トレンドの違いは認められない。燐灰石飽和温度計(Harrison and Watson, 1984, Geochim. Cosmochim. Acta)による温度推定では,大島Ⅱ型が大島Ⅰ型に比べより高い飽和温度を示す。吸光光度法を用いたFeOの含有量測定では,大島Ⅰ型が0.5−1.4 wt%,大島Ⅱ型が0.6−1.3 wt%の組成範囲を示す。また,大島Ⅱ型においてSiO2の増加とともにFeO/Fe2O3比の増加傾向が認められるものの,大島Ⅰ型では系統的なFeO/Fe2O3比の変化は認められない。
 大島Ⅰ型および大島Ⅱ型の示すこれらの岩石学的特徴は,閃緑岩質マグマからの結晶分化による連続的な岩相変化を支持せず,むしろ,閃緑岩質マグマによる花崗岩質マグマの加熱およびマグマ混合による大島Ⅱ型の形成とその際のメルトの絞り出しによる大島Ⅰ型の形成を示唆する。また,大島Ⅱ型においてSiO2の増加とともにFeO/Fe2O3比が増加する傾向は,マグマ混合によって大島Ⅱ型のマグマが高温時の酸化的環境から還元的環境に変化したことを示唆する。