講演情報
[T12-P-2]銚子地域に分布する犬吠層群の酸素同位体層序に基づく北西太平洋海域の下部-中部更新統年代モデル
*桑野 太輔1、小杉 裕樹2、原井 優里2、羽田 裕貴3、久保田 好美4、Saeidi Ortakand Mahsa4、亀尾 浩司2、岡田 誠5 (1. 京都大学、2. 千葉大学、3. 産業技術総合研究所、4. 国立科学博物館、5. 茨城大学)
キーワード:
更新世、年代モデル、酸素同位体層序、北西太平洋海域、底生有孔虫
千葉県銚子地域に分布する犬吠層群は,前期–中期更新世に堆積した海成堆積物であり,堆積速度が大きく,保存状態が良好な微化石や多数のテフラ鍵層を含むことから,層序学的な研究において重要な地層群である(Matoba,1967;酒井,1990など).犬吠層群では,1998年に東京大学海洋研究所によって,銚子市森戸町にて全長250 mに及ぶ銚子コア(CHOSHI-1)が掘削され,このコアを対象とした層序学的研究が進められてきた.特に,Kameo et al. (2006) は,古地磁気,石灰質ナノ化石,浮遊性有孔虫化石の酸素同位体分析に基づいて年代モデルを構築し,このコアがmarine isotope stage (MIS) 24から11に相当することを明らかにした.さらに,中里ほか(2003)などにより,本コアに含まれる多数のテフラ鍵層が上総層群のテフラや広域テフラと対比されるなど,詳細なテフラ層序も構築されている.したがって,銚子コアは,北西太平洋海域における前期-中期更新世の標準年代層序の基盤として活用できるポテンシャルを有していると考えられる.しかし,Kameo et al. (2006) による年代モデルの構築で用いられた浮遊性有孔虫化石Globorotalia inflataは海洋表層環境の変動の影響を受けることから,より全球的な酸素同位体比の変動を記録する底生有孔虫化石に基づいて,高解像度かつ信頼性の高い年代モデルを構築することが望まれる.そこで,本研究では,銚子コアの深度250-100 mの区間を対象として,底生有孔虫化石の酸素同位体分析を行うことで,新たな下部-中部更新統の年代モデルを構築することを目的として研究を行った.本研究では,約20–40 cmの層位間隔で泥岩試料から底生有孔虫化石を抽出し,Uvigerina spp., Bulimina aculeata, Bolivinita quadrilateraの3つの分類群の酸素同位体比を測定した.分析には国立科学博物館筑波研究施設が所有するKiel IV carbonate deviceおよびMAT253を使用した.また,一部のデータには,小杉ほか(2023),Harai et al. (2025) ,Haneda et al. (in prep.) で得られた分析結果を使用した.深度250–100 mで得られた酸素同位体比のプロファイルは約2.5–4.3‰の範囲で変動し,MIS 26からMIS 14に相当する氷期・間氷期サイクルが認められた.これにより,従来の年代モデル(Kameo et al., 2006)でMIS 24とされていたコア最下部は,本研究によりMIS 26に修正され,より正確な年代対比が可能となった.さらに,本研究で構築された年代モデルに基づくと,コアに挟在するいくつかの主要な広域テフラ鍵層の天文年代が明らかとなり,これらは地層の広域対比やその年代制約において重要な層序学的な基盤になり得ると考えられる.
