講演情報
[T12-P-4]房総半島南端における浮遊性有孔虫化石群集に基づく鮮新-更新世寒冷化イベント時の古環境復元
*山本 秀忠1,2、林 広樹4、岡田 誠3、長谷川 大輔5,2 (1. 大日本ダイヤコンサルタント株式会社、2. 茨城大学大学院理工学研究科、3. 茨城大学、4. 島根大学、5. 株式会社キタック)
キーワード:
浮遊性有孔虫、後期鮮新世、前期更新世、房総半島、古水温
前期中新世以降,地球規模で寒冷化が進む中で,特に後期鮮新世の3Ma付近を境に北半球において大陸氷床が形成・発達したことが知られている(北半球氷河化作用:NHG).またこの時期は,酸素同位体記録中に卓越する氷期―間氷期サイクルの変動周期が2.3万年から4.1万年へと変化し,氷期―間氷期サイクルが気候システムを支配する更新世への過渡期に相当する.したがって,この時期に起こった古海洋学的事象を詳細に復元することは,NHGの成因や,氷期―間氷期サイクルがどのようにして地球の気候システムを支配するようになったかを理解する上で極めて重要である.
本研究対象は,房総半島南端に分布する上部鮮新統~下部更新統の千倉層群布良層である.布良層では岡田ほか(2012)において酸素同位体と古地磁気の複合層序が編まれ,3.1~2.3Maまでの年代モデルが構築されている.また房総半島は黒潮―親潮会合域に面していることから,千倉層群では当時の古海洋学的変動が感度良く記録された可能性が高い.そこで本研究では,浮遊性有孔虫化石の群集解析を行い,変換関数法や現生アナログ法 (Modern Analog Technique: MAT法) を用いて,NHG開始期当時の房総半島沖の古海洋環境の復元を行った.
本研究において,57層準で計13属61種の浮遊性有孔虫化石が得られた.得られた種は産出頻度の高い順にGlobigerinita glutinata, Globigerina bulloides, Neogloboquadrina incompta, Globigerina falconensis, Neogloboquadrina pachyderma (右巻き個体), Globoconella puncticulata, Globigerinoides ruber, Globoconella inflata等であり,これら上位8種で産出全体の約76%を占める.
同定された浮遊性有孔虫化石の群集組成データに対し,変換関数PFJ-125 (Takemoto and Oda, 1997) による古水温(表層水温)の復元と,MAT法(林ほか2015など)を用いた古水温の復元を行った.
MAT法は,化石群集と最も類似した現生群集を示す地点の環境特性に基づき古環境を推定する. Takemoto and Oda (1997)では日本近海の現生群集81試料の因子負荷量が公表されている.現在の水温は日本海洋データセンターから公表されている表層~水深300mまでの統計水温を補間,リサンプリングして用いた.変換関数PFJ125で算出した本研究試料の因子負荷量から,現生群集との類似度(平方弦距離:SCD)を求め,同一水塊内の基準となるSCD<0.25(Dowsett and Robinson, 1997)かつ類似度上位5地点内の加重平均により古水温を復元した.ただし,上位5地点の水温の標準偏差が1.35℃(PFJ125の年平均式(新村ほか2006)の標準誤差)を超過する試料については複数の最適解の存在が考えられるため,その試料を含む1.15~2.05万年のタイムウィンドウ(堆積時の氷期-間氷期サイクルの半周期内)の古水温値に対して最も近い値を加重平均値および5地点の水温の中から選択し,適用することとした.
変換関数法,MAT法により復元された古水温は,MIS G6, G4(2.7Ma前後)やMIS 86(約2.24Ma)の氷期での水温低下(MAT法での表層水温で-2℃程度)を捉えた.これらの層準ではN. incomptaやN. pachyderma(右巻き個体)などの混合水域種が増加しており,黒潮前線の南下で房総沖に混合水の影響が強まったものと考えられる.またMAT法では,MIS 89(約2.29Ma)の間氷期でも顕著な水温低下が見られた.この層準では混合水域種が減少する一方,G. glutinataやG. bulloidesなどの湧昇流種が相対的に増加していることから,房総沖では湧昇流が生じて冷水渦の影響が強まった可能性が示唆される.
引用文献
岡田ほか,2012,地質学雑誌,118,97-108.
Takemoto and Oda, 1997, Paleontological Research, 1, 4, 291-310.
林ほか,2015,Japan Geoscience Union Meeting 2015講演要旨
Dowsett and Robinson, 1997, Palaeontologia Electronica, 1.1.3A, 1-22.
新村ほか,2006,化石,79,4-17
本研究対象は,房総半島南端に分布する上部鮮新統~下部更新統の千倉層群布良層である.布良層では岡田ほか(2012)において酸素同位体と古地磁気の複合層序が編まれ,3.1~2.3Maまでの年代モデルが構築されている.また房総半島は黒潮―親潮会合域に面していることから,千倉層群では当時の古海洋学的変動が感度良く記録された可能性が高い.そこで本研究では,浮遊性有孔虫化石の群集解析を行い,変換関数法や現生アナログ法 (Modern Analog Technique: MAT法) を用いて,NHG開始期当時の房総半島沖の古海洋環境の復元を行った.
本研究において,57層準で計13属61種の浮遊性有孔虫化石が得られた.得られた種は産出頻度の高い順にGlobigerinita glutinata, Globigerina bulloides, Neogloboquadrina incompta, Globigerina falconensis, Neogloboquadrina pachyderma (右巻き個体), Globoconella puncticulata, Globigerinoides ruber, Globoconella inflata等であり,これら上位8種で産出全体の約76%を占める.
同定された浮遊性有孔虫化石の群集組成データに対し,変換関数PFJ-125 (Takemoto and Oda, 1997) による古水温(表層水温)の復元と,MAT法(林ほか2015など)を用いた古水温の復元を行った.
MAT法は,化石群集と最も類似した現生群集を示す地点の環境特性に基づき古環境を推定する. Takemoto and Oda (1997)では日本近海の現生群集81試料の因子負荷量が公表されている.現在の水温は日本海洋データセンターから公表されている表層~水深300mまでの統計水温を補間,リサンプリングして用いた.変換関数PFJ125で算出した本研究試料の因子負荷量から,現生群集との類似度(平方弦距離:SCD)を求め,同一水塊内の基準となるSCD<0.25(Dowsett and Robinson, 1997)かつ類似度上位5地点内の加重平均により古水温を復元した.ただし,上位5地点の水温の標準偏差が1.35℃(PFJ125の年平均式(新村ほか2006)の標準誤差)を超過する試料については複数の最適解の存在が考えられるため,その試料を含む1.15~2.05万年のタイムウィンドウ(堆積時の氷期-間氷期サイクルの半周期内)の古水温値に対して最も近い値を加重平均値および5地点の水温の中から選択し,適用することとした.
変換関数法,MAT法により復元された古水温は,MIS G6, G4(2.7Ma前後)やMIS 86(約2.24Ma)の氷期での水温低下(MAT法での表層水温で-2℃程度)を捉えた.これらの層準ではN. incomptaやN. pachyderma(右巻き個体)などの混合水域種が増加しており,黒潮前線の南下で房総沖に混合水の影響が強まったものと考えられる.またMAT法では,MIS 89(約2.29Ma)の間氷期でも顕著な水温低下が見られた.この層準では混合水域種が減少する一方,G. glutinataやG. bulloidesなどの湧昇流種が相対的に増加していることから,房総沖では湧昇流が生じて冷水渦の影響が強まった可能性が示唆される.
引用文献
岡田ほか,2012,地質学雑誌,118,97-108.
Takemoto and Oda, 1997, Paleontological Research, 1, 4, 291-310.
林ほか,2015,Japan Geoscience Union Meeting 2015講演要旨
Dowsett and Robinson, 1997, Palaeontologia Electronica, 1.1.3A, 1-22.
新村ほか,2006,化石,79,4-17
