講演情報
[G-P-7]後背地地質が微小砕屑物の組成に与える影響に関する法地質学的検討
~ハイパースペクトルカメラによる客観性・定量性の確保~
*渡邉 美紀1、秋葉 教充2、角田 英俊2、杉田 律子2、組坂 健人2、竹内 真司3 (1. 日本大学大学院 総合基礎科学研究科、2. 科学警察研究所、3. 日本大学 文理学部)
キーワード:
法地質学、後背地、微小砕屑物、鉱物の色、ハイパースペクトルカメラ
【はじめに】
犯罪捜査において遺留物や凶器などに残された「土砂」が犯行現場や犯人を特定する手助けとなることがある.しかし,そのような捜査に用いられる証拠資料は微細かつ微量なものが大半を占め,非破壊や全量を消費しない方法での検査が求められるため,鉱物種等の種類の判別は困難である.これまでの筆者らの研究では,河川砕屑物(以下,鉱物粒子等)の種類は河川の後背地の地質を反映しており,さらに試料中の鉱物粒子等の種類の構成割合と,肉眼で判別した鉱物粒子等の色の組み合わせの割合には相関性があることが示唆された(渡邉ほか,2023).しかしながら,色の判断は客観性に問題があった.そこで本研究ではハイパースペクトルカメラ(以下,HSIカメラ)を用いて,鉱物粒子等の色と後背地の地質の相関性の定量化を試みた.
【試料・使用機材】
山梨県韮崎市の大武川,尾白川,釜無川,小武川,塩川,須玉川,御勅使川流域においてスコップで1 kg程度の河川堆積物を採取し,湿式ふるいわけにて得られた径1~2 mmの砂,19試料を分析した.本研究で用いたHSIカメラは,測定波長が397.32~1003.58 nm(本解析では450~950 nmを使用),波長分解能が3.0 nmである(バンド数約200).RGBカメラが3種類の光の波長帯(バンド)を取得できるのに対してHSIカメラは100~200バンド以上の波長情報を取得でき,より細かな色の情報を取得可能である.また,光源は白熱電球を机から約65 cmの高さで3方向から当てた.試料は高さ20 cmの台座に乗せ,カメラは試料から約13 cmの高さに設置した.
【昨年度までのHSIを用いた研究】
採取した試料から肉眼で黄色,黒色,緑色,赤色,白色,透明,金色の粒子を取り出して基準色とし,全19サンプルについて相関分析を行った.そのうち特にスペクトル形状の異なる黄色,緑色,赤色の粒子の中央付近から5×5ピクセルの範囲を選択し,それぞれにR(赤),G(緑),B(青)の疑似カラーを持たせ,これに似たスペクトルを持つサンプル中のピクセルがそれぞれR,G,Bに着色されるよう,疑似カラー画像を作成した.その結果,たとえば御勅使川から採取したサンプルの大部分が疑似カラーGに着色され,塩川から採取したサンプルの大半が疑似カラーRに着色された.この結果は,これまでの筆者らの研究における鉱物粒子等の色の組み合わせが同一河川内で同様であることと整合的であり,HSIカメラを用いた定量化が可能であることを示唆している(渡邉ほか,2024).この手法は,定量化の観点からは改善の余地があるため,今回新たに相関分析を用いて評価する方法を検討した.
【測定方法】
相関分析を行い得られたピクセル毎の相関係数を,浮動小数点形式で画像に輝度値として与え,32 bitのグレースケール画像を作成し,画像解析ソフトImageJにて設定する閾値以上の輝度をもつピクセルの数をカウントすることで,各基準点と相関性のある面積を算出した.閾値は基準点同士の相関分析を行うことでお互いに干渉しない,0.97が最適と判断した.また試料の代表性は各試料から3回すくい直し,測定結果の平均値をとることで確保した.
【結果と考察】
図に異なる後背地を持つ3地点(23-2,23-6,23-7)の結果を示す.相関係数が0.97以上のピクセル数を円グラフにまとめたところ,3地点の結果は大きく分かれ,それぞれの後背地の特徴が現れた.とくに23-7については,渡邉ほか2023において肉眼でも多く認められた赤色の粒子が結果に良く現れており,後背地の特徴を示していると言える.しかし23-6に良く見られた緑色の粒子はあまり検出されなかった.これは閾値を設定する際に黒色と緑色が干渉しない値を設定しており,23-6には黒色に近い緑色が多くあることから閾値の見直しが必要であることが示唆される.
【今後の展望】
今回考案した手法は,閾値を変数とすることで地域性やサンプルの多様性に応じて設定できる点,また基準点を地域特有の鉱物に見られる色に置き換えることで対応可能な点が,地域による後背地の違いに応用できると考える.また地質学の専門家が見たときの感覚的な色の違いを定量化したことにより,地質学を専門としていない者にも利用しやすい手法と考えられる.しかし肉眼で捉えることのできる色の違いとスペクトルの差とはまだ一致しない部分が多くあり,今後も検討を重ねていく必要がある.
【引用文献】
渡邉美紀ほか,2023,社会地質学シンポジウム論文・要旨集,51-52
渡邉美紀ほか,2024,社会地質学シンポジウム論文・要旨集,9-10
犯罪捜査において遺留物や凶器などに残された「土砂」が犯行現場や犯人を特定する手助けとなることがある.しかし,そのような捜査に用いられる証拠資料は微細かつ微量なものが大半を占め,非破壊や全量を消費しない方法での検査が求められるため,鉱物種等の種類の判別は困難である.これまでの筆者らの研究では,河川砕屑物(以下,鉱物粒子等)の種類は河川の後背地の地質を反映しており,さらに試料中の鉱物粒子等の種類の構成割合と,肉眼で判別した鉱物粒子等の色の組み合わせの割合には相関性があることが示唆された(渡邉ほか,2023).しかしながら,色の判断は客観性に問題があった.そこで本研究ではハイパースペクトルカメラ(以下,HSIカメラ)を用いて,鉱物粒子等の色と後背地の地質の相関性の定量化を試みた.
【試料・使用機材】
山梨県韮崎市の大武川,尾白川,釜無川,小武川,塩川,須玉川,御勅使川流域においてスコップで1 kg程度の河川堆積物を採取し,湿式ふるいわけにて得られた径1~2 mmの砂,19試料を分析した.本研究で用いたHSIカメラは,測定波長が397.32~1003.58 nm(本解析では450~950 nmを使用),波長分解能が3.0 nmである(バンド数約200).RGBカメラが3種類の光の波長帯(バンド)を取得できるのに対してHSIカメラは100~200バンド以上の波長情報を取得でき,より細かな色の情報を取得可能である.また,光源は白熱電球を机から約65 cmの高さで3方向から当てた.試料は高さ20 cmの台座に乗せ,カメラは試料から約13 cmの高さに設置した.
【昨年度までのHSIを用いた研究】
採取した試料から肉眼で黄色,黒色,緑色,赤色,白色,透明,金色の粒子を取り出して基準色とし,全19サンプルについて相関分析を行った.そのうち特にスペクトル形状の異なる黄色,緑色,赤色の粒子の中央付近から5×5ピクセルの範囲を選択し,それぞれにR(赤),G(緑),B(青)の疑似カラーを持たせ,これに似たスペクトルを持つサンプル中のピクセルがそれぞれR,G,Bに着色されるよう,疑似カラー画像を作成した.その結果,たとえば御勅使川から採取したサンプルの大部分が疑似カラーGに着色され,塩川から採取したサンプルの大半が疑似カラーRに着色された.この結果は,これまでの筆者らの研究における鉱物粒子等の色の組み合わせが同一河川内で同様であることと整合的であり,HSIカメラを用いた定量化が可能であることを示唆している(渡邉ほか,2024).この手法は,定量化の観点からは改善の余地があるため,今回新たに相関分析を用いて評価する方法を検討した.
【測定方法】
相関分析を行い得られたピクセル毎の相関係数を,浮動小数点形式で画像に輝度値として与え,32 bitのグレースケール画像を作成し,画像解析ソフトImageJにて設定する閾値以上の輝度をもつピクセルの数をカウントすることで,各基準点と相関性のある面積を算出した.閾値は基準点同士の相関分析を行うことでお互いに干渉しない,0.97が最適と判断した.また試料の代表性は各試料から3回すくい直し,測定結果の平均値をとることで確保した.
【結果と考察】
図に異なる後背地を持つ3地点(23-2,23-6,23-7)の結果を示す.相関係数が0.97以上のピクセル数を円グラフにまとめたところ,3地点の結果は大きく分かれ,それぞれの後背地の特徴が現れた.とくに23-7については,渡邉ほか2023において肉眼でも多く認められた赤色の粒子が結果に良く現れており,後背地の特徴を示していると言える.しかし23-6に良く見られた緑色の粒子はあまり検出されなかった.これは閾値を設定する際に黒色と緑色が干渉しない値を設定しており,23-6には黒色に近い緑色が多くあることから閾値の見直しが必要であることが示唆される.
【今後の展望】
今回考案した手法は,閾値を変数とすることで地域性やサンプルの多様性に応じて設定できる点,また基準点を地域特有の鉱物に見られる色に置き換えることで対応可能な点が,地域による後背地の違いに応用できると考える.また地質学の専門家が見たときの感覚的な色の違いを定量化したことにより,地質学を専門としていない者にも利用しやすい手法と考えられる.しかし肉眼で捉えることのできる色の違いとスペクトルの差とはまだ一致しない部分が多くあり,今後も検討を重ねていく必要がある.
【引用文献】
渡邉美紀ほか,2023,社会地質学シンポジウム論文・要旨集,51-52
渡邉美紀ほか,2024,社会地質学シンポジウム論文・要旨集,9-10

