講演情報

[J-P-2]生痕化石と統計学的新手法から明らかにする、8500万年前のスフェノセラムスの生態

*熊本県立 天草高等学校1 (1. 熊本県立天草高等学校)
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 研究者生徒氏名:田中彩絵 山並陽菜 山中詩穏

私達の住む熊本県天草市には御所浦という島があり、「スフェノセラムスの壁」と呼ばれる場所がある。ここは、白亜紀の層理面が広大に露出している場所であり、二枚貝のSphenoceramus.naumannni(以下、スフェノセラムス)の化石が多産されている。先行研究調査を行ったところ、田代ほか(1992)の研究ではカイ二乗検定を用いてスフェノセラムスのコロニーを判別していた。「スフェノセラムスの壁」についてはほとんど調査が行われておらず、壁のスフェノセラムスの生態については未解明な部分が多かった。そこで私達はこの壁について詳しく調査しようと思い、研究を開始した。
 
<目的>
①広大な層理面で貝化石のコロニーを判別する統計学的手法の開発
②周囲の生痕化石から当時の環境を推測する

<研究方法>
1.現地調査
 コドラート法を用いて壁を縦1.5m横1.5mの区画に分け、貝や生痕化石などの分布を調査した。貝については、向きや大きさ、裏表、生痕化石については種類や大きさを調査した。

2.貝化石の統計学的群集解析
 文献内で使われていたカイ二乗検定を用いて、壁のスフェノセラムスのコロニーを判別しようとしたが、田代ほか(1992)ではカイ二乗検定にかけるグループの判別方法が述べられていなかったため、まずは壁の貝化石をグループに分ける必要があった。そこで私達は検定にかけるグループを決定するk-means法と最終判別の為のレーダーチャートを加えた新たなコロニーの判別方法を考案した。
 まず、貝化石の位置を現地調査の結果を用いて座標に起こし、適当な基準点を2つ取る。そしてそれぞれの基準点に近い方でグループ分けをしてそのグループの重心を取る、という動作を重心の座標が動かなくなるまで繰り返す。最後に重心が動かなくなったところでグループ分けをした。
 グループ分けをした後に、グループの中の貝化石について「貝の向きに偏りはない」という帰無仮説を立てカイ二乗検定を行い、帰無仮説が棄却される確率が80%より大きければコロニーと判定した。
 しかし、研究途中でカイ二乗検定では1方向に偏っている場合と、2方向に偏っている場合で同じ結果となることに気づいた。先行研究より、コロニーを作っている場合は1方向に向きが偏ることが報告されていたので、2方向に偏っている場合はコロニーではないと考え、1方向のみに偏っているものを判別するためにレーダーチャートでの最終確認を加えた。

<結果・考察>
1.現地調査ではスフェノセラムス化石やその他の貝化石、生痕化石などが見つかった。またスフェノセラムス・ナウマニの合弁化石も発見した。このことはこれらの化石は現地性化石であることを示している。
 生痕化石についてはCosmorhaphe,Spirorhaphe, Lorenziniaの3種が見つかった。これらの生痕化石が示す古環境としてCosmorhapheからは小幡(1999)より、低酸素環境であったことが推測された。また、のだ(1993)からは深海であることも示唆された。3種の生痕化石を複合して考えると、小幡(2005)より、水深200mから6000mの深海であることもわかった。

2.私達が開発した手法が実際に使えるのか検証するために、国立研究開発法人海洋研究機構(JAMSTEC)が公開している深海に生息している現生の貝の写真の中から、コロニーであるものとないものを探し、考案した手法で判別を行った。その結果正しく判別をすることができた。今後、さらに枚数を増やして検証する必要はあるが、本研究で考案した手法は実用できると考える。
 考案した新手法を用いて、これまでに壁で4つのコロニーが見つかった。この4つのコロニーはそれぞれコロニーごとに向きが違っていた。今後の検証が必要であるが、海底の水流が影響しているのではないかと考えている。

これまでの結果より「スフェノセラムスの壁」のスフェノセラムスは水深200m~6000mの深海、低酸素環境でコロニーを形成して生活していたことがわかった。

<今後の展望>
 ①調査範囲を拡大し、より多くのコロニーの判別をする。
 ②現生の貝の新手法を用いたコロニー判別の回数を増やし、新手法の信憑性を高める。
 ③スフェノセラムスのコロニーの中での詳しい生態を明らかにする。
 ④スフェノセラムスが生息していた具体的な海の深さを明らかにする。

キーワード:スフェノセラムス・コロニー・統計学・生痕化石・サントニアン