講演情報
[J-P-4]知らない現象(不知火現象)を科学する6 ~ついに観測に成功!不知火の正体に迫る~★ジュニアセッション優秀賞 受賞講演★
*熊本県立宇土高等学校 科学部地学班1 (1. 熊本県立宇土高等学校 科学部地学班)
研究者氏名:
2年 徳丸 幸樹, 堀田 舞衣, 西田 琉花, 橋本 直大
1年 田代 崇真
1:はじめに
(1)不知火現象とは
不知火現象とは不知火海と呼ばれる八代海北側にて、1年に1度、八朔(旧暦8月1日)の晩にのみ見られる現象とされており、時間変化で1つの光源が横方向に分裂し、つながって見える蜃気楼の一種と考えられている(図1)。しかし、37年前に撮影された写真を最後に目撃情報はなく、さらに、鮮明な動画記録もなされておらず、時間変化も明らかになっていない。未だ科学的に解明されていない不思議な自然現象である。
(2)昨年までの成果
幻の現象を見たいと思い研究を始め、今年度で8年目となった。一昨年までの6年間に不知火が見られるとされる八朔を中心に計23回もの観測を行ったが、一度も不知火らしき現象は見られなかった。
しかし、シリコンヒーターを用いた不知火再現装置により室内での不知火の再現に成功し、不知火の発生条件が明らかになって来た。
2:目的
今回は、以下の3つの疑問を元に不知火の研究を行った。
疑問1:~現象~不知火とはどのようなもの?
疑問2:~原理~観測した不知火の原理は?
疑問3:~理由~今年不知火が見られた理由は?
3:研究内容
疑問1:~現象~不知火とはどのようなもの?
(1)聞き取り調査
不知火が現在見られていない理由を探るために、地元の方々に不知火に関する聞き込み調査を行った。その結果、昔不知火が見られていた時には夜間に漁を行っていたこと、また、不知火が見られなくなった時期と八朔の夜間に漁を行わなくなった時期が重なるということが分かり、現在不知火が見られないのは漁に使われる明かりである「漁火」がないことが原因ではないかと仮説を立てた。
(2)観測方法
八朔前夜(令和 6 年 9 月 2~3 日未明)、地元の漁師さんの協力の元、不知火海に漁火を乗せた船を出していただいき、これまで同様、宇城市不知火町永尾の永尾神社から不知火海を挟んだ八代市大島方面を観測した。(図2)
(3)観測結果
観測の結果、一つであるはずの光源の数が2→3→2と変化する不知火の撮影に成功した。これは、実に36年ぶりのことであり、不知火の鮮明な動画撮影は世界初の快挙となった。光源の数の変化は30 秒ほどで発生し、横方向の光の変化は約 10 分続いた。動画から、不知火の時間変化が明らかになった。(図3)
疑問2:~原理~観測した不知火の原理は?
(1)蜃気楼とは
蜃気楼は空気中の温度差によって光が屈折し、景色が不思議な見え方をする現象である。蜃気楼にはいくつかの種類があり、一般的に知られているものは下位蜃気楼と上位蜃気楼である。また、ほとんど知られていないが、「側方蜃気楼」というものも考えられており、不知火現象はこの側方蜃気楼の1 種とされている。
(2)蜃気楼の種類
A 下位蜃気楼
一般的な蜃気楼。上冷下暖の温度層である時に見られ、対象の景色が下方向に反転する。対岸の島が浮いているように見える「浮島現象」や暑い日にアスファルトの道路などで遠くに水があるように見える「逃げ水現象」もこの下位蜃気楼の一種である。
B 側方蜃気楼
上下方向の温度差がある時に発生する「下位蜃気楼」に対して、観測者が真っすぐと続く陸地と海の境界線上に存在し、陸地の冷たい空気と海上の暖かい空気との横方向の温度差により横方向に光が屈折することで発生するのが「側方蜃気楼」である。
C 不知火
不知火現象が見られる不知火海には、広大な干潟が直線的に分布している。干潟上には潮だまりという海水が残っている温かい場所が存在し、干潟上で左右方向に温度が異なる地点が無数に形成される。不知火海では微風が吹くため、干潟上はより複雑な温度分布となり、横方向に光が伸びたように見える不知火が発生する。(図4)
疑問3:~理由~今年不知火が見られた理由は?
今年の不知火の観測対象である「漁火」は、船の明かりであるため街明かりよりも海面に近い。そこで、光源の高さに着目して光路シミュレーションを行った(図5)。光源が街明かりの場合不知火を見る観望所は蜃気楼が見える範囲に入っていないのに対し、漁火の場合は、蜃気楼が見える範囲に入っていることが分かる。これは、光源が低く、海面付近にある温度層(気温が変化する空気層)の影響を受けやすいためである。よって、今年不知火が見られたのは、観測の対象として「漁火」を用いたためであると言える。
4:まとめ・今後の展望
(1)まとめ
・36年ぶりとなる不知火の観測に成功した
・世界初となる不知火の動画の撮影から不知火の時間変化を明らかになった
・不知火は、不知火海の直線的に広く分布する干潟と、微風による複雑な温度分布により発生する。
・今回の不知火観測成功は海面に近く光が屈折しやすい「漁火」のおかげ
(2)今後の展望
・なぜ八朔の晩にしか見られないのか
キーワード:不知火、蜃気楼、干潟、漁火、シミュレーション

