講演情報
[J-P-18]彩雲と光環の再現実験の検証~光源と雲生成条件の変化~★ジュニアセッション奨励賞 受賞講演★
*中央大学 附属高等学校1 (1. 中央大学附属高等学校)
研究者生徒氏名:井上 怜
1研究目的・背景
彩雲は,巻積雲・高積雲などの輪郭に当たった太陽光が雲粒によって回折・干渉することで雲に色がついて見える現象である.彩雲の色や色幅は雲形に依存する特徴がある.彩雲の再現実験は大気光象の理解の導入として取り上げられることが多いが,雲や光源の条件を定量的に扱った例はほぼ無い.
先行研究として,ゴム風船がしぼむ時の減圧を利用してフラスコ内に雲を作り,光を照射して彩雲を作る報告(山下,2004)がある.減圧は正確だが,光源や気圧以外の雲生成における条件は変えていない.ペットボトルを用いた例として札幌啓成高校(2023)がある.この報告では彩雲を観察する角度と色の関係は数値化したが,雲の条件に関して定量的ではない.そこで本研究では,デシケーターを用いて減圧し,気圧差・水蒸気量・雲の体積をそれぞれ3段階ずつ変化させ,太陽光と白色LED光源を用いて比較し,彩度が高く持続性のある彩雲を作るための条件を見出すことを目的とした。
2研究方法・結果
2-1雲生成条件を変化させた実験と結果
(1)アクリルケースの中に濡らした雑巾を入れ密閉する.
(2)デシケーターの中に気圧計とアクリルケースを入れ,雲核に模した線香の煙を3秒間加える.
(3)真空ポンプを用いて減圧し,雲を生成する.
(4)光源(白色LED)を照射し,観察する(図1).
(5)撮影した画像から色を抽出し,HSL色空間で定量化する.
上記の手順において,雑巾を濡らす水量を10,50,100ml,アクリルケースの枚数を1,2,3枚,減圧度合を100,200,300hPa,それぞれ変化させる.なお,水量は大気中の水蒸気量(ml),アクリルケースの枚数は生成可能な雲の体積(1158,2316,3474㎤),減圧度合は大気と地上との気圧差(hPa)を表す.
結果として,表1のようになった.
2-2光源と気圧差を変化させた実験と結果
気圧差を2-1より細かく設定し,2種類の光源を照射することで,回折による色の変化の違いを分析することを目的とした.
(1)デシケーターに気圧計と50mlの水で濡らした雑巾を入れ,雲核に模した線香の煙を3秒間加える.
(2)真空ポンプにより6段階減圧し(50,100,150,200,250,300hPa)雲を生成する.
(3)光源2種類(太陽光,白色LED)を照射し,観察する.
(4)実験2-1(5)と同様.
光源に着目すると,太陽光では全色のスペクトルが見られたが,LEDを光源とした場合は緑,紫,マゼンダ,橙色に色が偏った.また気圧差に着目すると,どちらの光源においても気圧差を大きくするにつれて色幅が狭くなった(表2).
また,実験2-1,2-2では光環(彩雲と同じ原理によって起こる,光源を中心として同心円状に回折像が広がる大気光象)が発生した.
2-3シリカゲルを加えた実験と結果
彩雲を作るため,シリカゲルを用いて乾燥空気を作り(図2),できた雲に白色LED光を当てた.結果,シリカゲルを2.5g用いた場合に,最もよく彩雲が発生した(図3).
3考察
本研究の方法で,適切な水蒸気量を用いて減圧すれば確実に彩雲または光環を生成できる.従来の方法よりも安定して彩雲が生成できるのは,彩雲ができる範囲が広いことで観察が容易であるためと考える.体積を大きくすると雲量が増える.よって水蒸気量や気圧差が小さいときは1枚あたりに生じる雲量が少ないため体積を大きくした方が彩雲は観察しやすい.逆に水蒸気量や気圧差が大きいときは,1枚当たりの雲量が多いうえに雲を重ねてしまうことでミー散乱が生じ彩色しなかったのだと考える.また,回折は波長と粒子サイズに依存する.気圧差が大きいほど色の幅が狭くなったのは,気圧差が大きいほど雲の粒子サイズが小さくなったからだと考える.
光源によって彩雲の色が変化するのは,光源のスペクトルが異なるからだと考える.太陽光のスペクトルは比較的均一であるため彩雲もすべてのスペクトルが観察でき,白色LEDは青,緑のスペクトルが極端に多いため彩雲も色が偏ったのだと推察する.
4今後の課題および展望
彩雲と光環の違いの要因である粒子サイズが,空気の乾燥度合で変化することが検証された.雲の粒径を調整するための雲生成条件と乾燥空気の条件を,より細かく定量化していきたい.
分析においては,CD,レンズとカメラを用い,発生した彩雲のスペクトルを連続的に測定する方法を検討している.
5参考文献
山下晃.2004:フラスコ内に作る彩雲と光環.天気51.5.361-362.
北海道札幌啓成高等学校.2023:彩雲の見方による色の変化.
キーワード:彩雲 再現実験 デシケーター 定量化 シリカゲル

