講演情報

[J-P-23]模型実験によるスラブ内二重地震面の再現

*市川 高等学校1 (1. 市川高等学校)
PDFダウンロードPDFダウンロード
 研究者生徒氏名:藤井優衣

背景
 沈み込み帯において形成されるスラブ(沈み込むプレート)は、冷たく高密度な海洋プレートが他のプレートの下へ沈み込むことで形成される、比較的硬く冷たい構造体のこと。このスラブは、モホロビチッチ不連続面を境に、上部は玄武岩質の海洋地殻、下部はかんらん岩質のマントル部分から構成される(Hacker et al., 2003)。
 スラブが沈み込むことで起きる地震(スラブ内地震)は、深さに応じて分類され、深さ70〜300 kmは稍深発地震、深さ300〜700 kmは深発地震である。
 二重地震面(Double Seismic Zone;DSZ)とは、沈み込むプレート内部で深さ約70〜700kmの間で二層に分かれて地震が発生する現象を指す(長谷川, 1978)。
 上面では、沈み込むスラブの曲がりによって引張応力が生じ、岩石が剪断破壊を起こし、下面ではスラブ内の蛇紋岩などの含水鉱物が高温高圧下での脱水による間隙水圧の上昇により地震が誘発される(Hacker et al.,2003;Kita et al., 2006)。また、スラブ内部の応力場は深さに応じて変化し、上部では引張応力、下部では圧縮応力や流体圧が主に働く(Samowitz & Forsyth, 1981)。このような応力環境の違いや、含水鉱物の脱水など複数の要因が組み合わさることで、DSZが形成されると考えられている(Flórez et al., 2019)。ただし、関与する要因らの関係性やDSZの普遍性については、他の文献も含め断定されていない。
 数値シミュレーションでは震源分布や応力場の部分的再現に成功しているが(Gerya & Meilick, 2011)、アナログモデルによって二重地震面の形成過程を再現した報告は筆者の確認した限り存在しない。

目的
 模型実験により二重地震面を再現し、その普遍性が存在するか、地震の発生数が上下層で異なる現象が生じか検証し明確にすることを目的とする。

実験材料・方法
 スラブ(沈み込むプレート)を脆性破壊可能な乾燥粘土、周囲のマントルを粘弾性体であるシリコンゴムシートで模擬する。前実験ではCreative Paperclayと硬度40Aの透明シリコンゴムシートを使用し破壊の挙動を確認し、本実験では硬度50Aの透明シリコンゴムシートを使用する。また、どちらとも発泡スチロール(発泡倍率15〜20倍・密度50〜66 kg/m³ 、EPS素材)を使用する。透明立方体容器(1辺10cm程度)、スローモーション撮影用カメラも使用する。
 まず、2枚のアクリル板を垂直に20cm間隔で平行に設置する。装置は横から見た際に、20°、50°、65°の角度をもつ直角三角形になるように切断した発泡スチロール、固めた石膏斜面に発砲スチロール側に厚さ2 mm、石膏側に厚さ3 mmのゴムシートを貼りこれをアクリル板の内側に固定する。角度は、沈み込みスラブの傾斜角の中でも最頻値として浅部(0〜100 km)に対応する20°、中深部(100〜200 km)に対応する50°、そして深部(200 km〜)に対応する65°を採用した(Hu & Gurnis, 2020)。また、下層側のゴムシートを厚くすることで、スラブ深部での圧力増加を模擬する。粘土板は厚さ1 cmで均一に乾燥させ,ビニールシート上で行うことで台紙に貼り付くことを防ぐ。
 紙粘土を厚さ1cmで均等に完全乾燥させ粘土板を作り、作った粘土板を装置の上から粘土板を入れ、下から引っ張る。引っ張った時の紙粘土の破壊の様子を動画(スローモーション)で撮影し、割れの発生場所を記録する。実験は複数回行い、割れの位置(上側か下側)とその回数を記録する。これは、スラブ内の応力集中領域で地震が発生することに基づき、モデル中の脆性破壊を地震発生に対応する現象として扱う。これを踏まえ、上下層のどちらでより多くの破壊が生じるかを比較することで、二重地震面における地震活動の差を検証する。再現に成功すれば、容器サイズ(1辺30〜40cm)や角度(20°刻みなど)、粘土の厚さを変えて普遍性を検証する。

キーワード:沈み込み帯, スラブ, 二重地震面(DSZ), 脆性体(プレート模擬物質), 粘弾性体(マントル模擬物質)