講演情報

[T3-O-11][招待講演]たかが「石」 されど「石」

*一村 一博1 (1. みさと町 石橋の館)
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【ハイライト講演】  地球の営みが造った「石」は,私たち人類の発展になくてはならないものである.特に火山の大噴火が造った「石」の恩恵は,九州の文化形成に計り知れない影響を与え続けている.中でも「石橋」は,大噴火が造った難所を「石」の恩恵で克服した建造物であり,貴重な文化的土木遺産である.石橋の歴史、それを築造した石工集団、石橋の景観、保全活動などについて紹介していただく. ※ハイライト講演とは...

キーワード:

石、石橋、溶結凝灰岩、火砕流堆積物、霊台橋


 大規模な火山噴火は,人類に限らずあらゆる生物に対して,多大な影響を強いてきたが,同時に多大な恩恵も与えてきたとも考えることができる.
古(いにしえ)から都市の発展には,「石」が建築資材として多大な役割を果たしてきた.旧ローマ国家の繁栄は「石」を使ったアーチ工法がなかったらあり得なかったともいわれている.
現代のような多様な建築資材がなかった時代,「石」なくして多様な文化の成熟は成就しえなかったであろう.特に九州における「石」がもたらしたリスクと恩恵を以下に列挙しておく.
【リスク】九州には,世界最大級の火山「阿蘇」があり,これまで大きな活動を数多くしてきたが,中でも9万年前の破局的噴火では,地球規模の生態系に対して,多大な影響を与えた.そしてその時,九州の中北部から山口,愛媛まで到達した火砕流は,溶結凝灰岩となり,現在でも広範囲で確認することができる.また噴煙に至っては,北海道東部に15cmの火山灰堆積層を形成している.
【恩恵】「阿蘇は九州の母なる山」といわれるほど,多くの恵み(1~3)をもたらしている. 
1.水   
(1)九州の大河の源流は,ほとんどが阿蘇エリア・・・筑後川,菊池川,白川,緑川,球磨川,大野川,五ヶ瀬川
(2)豊富な地下水・・・琵琶湖の1.6倍.熊本エリアの上水道は,100%地下水であり,大企業の進出にも貢献している.
2.石・・・石垣,石段,堰,樋門,石畳,石棺,石碑,灯篭,石仏,岡城の石垣,熊本城の土台,推古天皇の石棺,臼杵のマガイ仏,八女の石灯篭,チブサン古墳
3.石橋   
 全 国  約1,900基   
 大分県   約500基   
 鹿児島県 約450基   
 熊本県  約350基
(例)霊台橋.美里町,1847年架橋,日本の石橋のシンボル,大型石橋のパイオニア
地球の営みが造った「石」は,私たち人類の発展になくてはならないものである.特に火山の大噴火が造った「石」の恩恵は,九州の文化形成に計り知れない影響を与え続けている.中でも「石橋」は,大噴火が造った難所を「石」の恩恵で克服した建造物であり,たかが「石」,たかが「石橋」ではない,貴重な文化的土木遺産である.「石」は文化形成の立役者と言っても過言ではないだろう。