講演情報
[T1-O-13]沖縄県慶良間諸島「阿嘉島剪断帯(新称)」にみる沈み込み帯深部プレート境界剪断帯の形成過程と歪分布
*髙橋 慧1、山口 飛鳥1、大坪 誠2 (1. 東京大学大気海洋研究所、2. 産業技術総合研究所地質調査総合センター)
キーワード:
沈み込み帯、四万十帯、剪断帯、塑性変形
一般的な地震よりも遅い滑りにより引き起こされるスロー地震は、地震学的および測地学的研究によって沈み込み帯のプレート境界沿いで観測されてきた。中でも、巨大地震の震源よりも深い場所で発生する深部スロー地震は、温度350℃以上に達する摩擦・延性遷移領域もしくは延性領域の剪断帯で発生すると考えられている(Behr and Burgmann, 2021; Kirkpatrick et al., 2021)。しかし、沈み込み帯深部において形成された岩石が露頭として現れるまでには、剪断帯での重複変形や、上昇時の変形など、複数の変形・変成作用を受けていることがほとんどである。そこで本研究では、上昇時の変形や変成の影響が少なく、深部スロー地震に対応する温度圧力条件下で形成されたと考えられる沖縄県慶良間諸島阿嘉島の変形岩を分析することによって、沈み込み帯深部で形成される剪断帯の変形過程の解明を目指した。
調査地域である慶良間諸島阿嘉島は沖縄本島の西方に位置し、四万十帯に帰属すると考えられている(鹿島・高橋, 1978; 知念ほか, 2004)。近年、座間味島・阿嘉島では温度圧力が最大530℃・1GPaに達する高い変成度の岩石の存在が報告されており(山本ほか, 2022)、特に阿嘉島では、緑色岩と砂岩の境界付近においてマイロナイト状の変形組織を示す剪断帯の存在が確認されている(山口ほか, 2022)。この剪断帯は阿嘉島の黒崎(クルサキ)西方と端崎(ハンタヌサキ)の海岸に好露頭があり、北北西-南南東走向に水平距離2.5 km以上にわたり連続すると考えられることから、本研究では「阿嘉島剪断帯」と命名する。
本研究では、阿嘉島剪断帯の模式地である端崎において、この剪断帯を構成する砂質変成岩を露頭での岩相の違いから6つに分類した。剪断帯の厚さは約160mであり、面構造は西に20-30°傾斜する。変形の強い箇所はtop to SSEの伸長線構造やσ型のクラストが発達し、それらは剪断帯の構造的上位に局在する。また、変形度の異なる層は明瞭な境界面をもって接しており、それらが繰り返し現れる。微細構造については、露頭および試料観察の両方で、石英や長石の集合体、白色および黒色のバンド状構造が確認される。なお、石英・長石の集合体について山口ほか(2022)は砂岩中の礫岩と推定したが、石英・長石以外の鉱物をほとんど含まないことから結晶成長によって形成されたポーフィロブラストと判断した。偏光顕微鏡観察の結果、石英ポーフィロブラストには波動消光が確認され、動的再結晶による転位クリープの可能性を示す。長石ポーフィロブラストには包有物が含まれていたが配列に規則性はなく、変形初期段階で結晶が成長したことを示唆する。レンズ状に延びた多結晶石英のポーフィロブラストや、主に細粒の石英と長石からなる白色のバンド状構造は、亜粒子回転による動的再結晶を示す粒界形態を呈する。黒色のバンド状構造は主に雲母により構成され、ときにキンクが観察される。
以上の観察および推定される変形機構から、阿嘉島剪断帯の形成過程を推定する。本研究では、剪断帯の変形過程を6つの段階(Stage 0〜5)に分類した。これは露頭観察での6つの岩相分類と対応している。Stage 0では砂岩に層理面が見られる程度だが、Stage 1では圧力溶解により雲母が集まり面構造が形成された。Stage 2では温度上昇でポーフィロブラストが生成され、周囲の物質を取り込んで包有物が形成された。Stage 3では転位クリープによる変形が始まり、Stage 4では動的再結晶により石英・長石が細粒化し、バンドが形成された。細粒バンドでは粒界すべりが起こり変形が集中、Stage 5でその変形がさらに進行した。露頭観察においても確認された剪断帯内部における変形の局所化は、この細粒バンドでの動的再結晶によるさらなる細粒化および粒界すべりの卓越が原因と考えられる。
文献:
Behr, W.M., Bürgmann, R. (2021) Phil. Trans. R. Soc. A, 379 (20200218)
知念正昭・新城竜一・加藤祐三 (2004) 岩鉱, 33, 208-220.
鹿島愛彦・高橋治郎 (1978) 琉球列島の地質学的研究,3, 31-38.
Kirkpatrick, J.D., Fagereng, Å., Shelly, D.R. (2021) Nat. Rev. Earth Environ., 2, 285-301.
山口飛鳥・山本一平・中村佳博・針金由美子・奥田花也(2022) JpGU2022年大会.
山本一平・山口飛鳥・谷健一郎・纐纈佑衣・中村佳博・針金由美子(2022)JpGU2022年大会.
調査地域である慶良間諸島阿嘉島は沖縄本島の西方に位置し、四万十帯に帰属すると考えられている(鹿島・高橋, 1978; 知念ほか, 2004)。近年、座間味島・阿嘉島では温度圧力が最大530℃・1GPaに達する高い変成度の岩石の存在が報告されており(山本ほか, 2022)、特に阿嘉島では、緑色岩と砂岩の境界付近においてマイロナイト状の変形組織を示す剪断帯の存在が確認されている(山口ほか, 2022)。この剪断帯は阿嘉島の黒崎(クルサキ)西方と端崎(ハンタヌサキ)の海岸に好露頭があり、北北西-南南東走向に水平距離2.5 km以上にわたり連続すると考えられることから、本研究では「阿嘉島剪断帯」と命名する。
本研究では、阿嘉島剪断帯の模式地である端崎において、この剪断帯を構成する砂質変成岩を露頭での岩相の違いから6つに分類した。剪断帯の厚さは約160mであり、面構造は西に20-30°傾斜する。変形の強い箇所はtop to SSEの伸長線構造やσ型のクラストが発達し、それらは剪断帯の構造的上位に局在する。また、変形度の異なる層は明瞭な境界面をもって接しており、それらが繰り返し現れる。微細構造については、露頭および試料観察の両方で、石英や長石の集合体、白色および黒色のバンド状構造が確認される。なお、石英・長石の集合体について山口ほか(2022)は砂岩中の礫岩と推定したが、石英・長石以外の鉱物をほとんど含まないことから結晶成長によって形成されたポーフィロブラストと判断した。偏光顕微鏡観察の結果、石英ポーフィロブラストには波動消光が確認され、動的再結晶による転位クリープの可能性を示す。長石ポーフィロブラストには包有物が含まれていたが配列に規則性はなく、変形初期段階で結晶が成長したことを示唆する。レンズ状に延びた多結晶石英のポーフィロブラストや、主に細粒の石英と長石からなる白色のバンド状構造は、亜粒子回転による動的再結晶を示す粒界形態を呈する。黒色のバンド状構造は主に雲母により構成され、ときにキンクが観察される。
以上の観察および推定される変形機構から、阿嘉島剪断帯の形成過程を推定する。本研究では、剪断帯の変形過程を6つの段階(Stage 0〜5)に分類した。これは露頭観察での6つの岩相分類と対応している。Stage 0では砂岩に層理面が見られる程度だが、Stage 1では圧力溶解により雲母が集まり面構造が形成された。Stage 2では温度上昇でポーフィロブラストが生成され、周囲の物質を取り込んで包有物が形成された。Stage 3では転位クリープによる変形が始まり、Stage 4では動的再結晶により石英・長石が細粒化し、バンドが形成された。細粒バンドでは粒界すべりが起こり変形が集中、Stage 5でその変形がさらに進行した。露頭観察においても確認された剪断帯内部における変形の局所化は、この細粒バンドでの動的再結晶によるさらなる細粒化および粒界すべりの卓越が原因と考えられる。
文献:
Behr, W.M., Bürgmann, R. (2021) Phil. Trans. R. Soc. A, 379 (20200218)
知念正昭・新城竜一・加藤祐三 (2004) 岩鉱, 33, 208-220.
鹿島愛彦・高橋治郎 (1978) 琉球列島の地質学的研究,3, 31-38.
Kirkpatrick, J.D., Fagereng, Å., Shelly, D.R. (2021) Nat. Rev. Earth Environ., 2, 285-301.
山口飛鳥・山本一平・中村佳博・針金由美子・奥田花也(2022) JpGU2022年大会.
山本一平・山口飛鳥・谷健一郎・纐纈佑衣・中村佳博・針金由美子(2022)JpGU2022年大会.
