講演情報
[T1-O-17]ホルンフェルスの面構造・線構造解析:丹沢山地でのケーススタディー
*増田 俊明1、田阪 美樹2、松本 拓己2、大嶽 良太2、倉科 萌4、楠 賢司3、酒井 瑞帆3、山下 浩之4、中村 俊文4、谷 圭司5、夏目 樹4 (1. 静岡大学防災総合センター、2. 静岡大学理学部、3. 静岡大学教育学部、4. 神奈川県立生命の星・地球博物館、5. 神奈川地学会)
キーワード:
丹沢山地、ホルンフェルス、結晶の選択配向、面構造、線構造
<丹沢山地の変成岩>
神奈川・山梨県境の丹沢山地では、中新世の酸性深成岩の周りにホルンフェルスや結晶片岩が分布することが知られている。本研究では、特にホルンフェルスと結晶片岩の面構造と線構造の強さに注目した。
<面構造・線構造>
深成岩体の南側に分布している結晶片岩には明瞭な面構造が発達している。一方、線構造に関しては際立って明瞭ではないが肉眼観察で確認は可能である。これに対して深成岩の東側に分布しているホルンフェルスについては、肉眼観察では面構造と線構造のどちらも確認できなかった。本研究ではEBSD(Oxford Symmetry S2)と解析ソフトMTEX(Mainprice et al., 2014の方法)を利用し、予察的に転石を使って、特に角閃石と雲母の格子配列を調べた。
<選択配向データ(ポールフィギュア)の定量化>
シュミットネット上のファブリックパターンを定量化するためにMasuda and Omori (2021) で提案した分布関数(これを蒲郡モデル(仮)と称する)を利用した。この分布関数は直交三方向の対称性を前提にフォン・ミーゼス分布を3次元に発展させたもので、元々は応力場での核形成の異方性を反応速度論で記述したものであるが、それを流用(目的外使用)した。このモデルでは方位の集中度をκ(κ>0)で、また方位異方性をψ(0<=ψ<=1)で表す。EBSDにより岩石試料中の雲母と角閃石のファブリックパターンを計測し、それと最も類似している蒲郡モデルパターンを選別する。選別されたパターンを生じたκとψをその岩石試料のκとψとする、という方法(基本的には絵合わせ)を用いた。
<フィッティング>
実際に計測されたファブリックパターンと、κとψをそれなりに選択したモデルパターンとの類似性(フィッティング)は満足できるレベルであり(”満足”の内容は講演で確認されたし)、計測したファブリックパターンから適切なκとψを引き出すことができた。
<シミュレーション>
得られたκとψが有意であるかどうか、のシミュレーションを2次元のフォン・ミーゼス分布を仮定して行い、測定粒子数が1,000個以上の場合には、κ>0.2では5%の危険率で方向性が認定されることがわかった。
<結果>
丹沢のホルンフェルスで計測された角閃石のκは~0.9、ψは~0.5だったので、このモデルに基けば面構造・線構造があることが確認できた。解析したサンプルは転石なので、面構造・線構造と貫入岩体との実際の方位関係は不明である。
<見通し>
ホルンフェルスと言われている岩石にも格子定向配列が認められた。今後、ホルンフェルスの定方位サンプリングを行い、深成岩体の周囲の岩石の面構造・線構造解析を行えば、深成岩体の貫入に伴う変形現象を検討することが可能であると考える。丹沢山地は国定公園なので、露頭からのサンプリングには県の許可が必要である。しかるべく許可を得て研究を進める予定である。
<教訓または拡大解釈>
従来、構造岩石学的研究の対象になっていなかった岩石(ホルンフェルス)にも、面構造や線構造解析を試みる価値があると確信する。
<補足>
深成岩体に捕獲されたゼノリスにも格子定向配列が確認できた(κ=0.3~0.7程度)。ゼノリスの研究も深成岩体の貫入に伴うプロセスを理解する手がかりになると考えられる。
<引用文献>
Mainprice, D., Bachmann, F., Hielscher, R., Schaeben, H., 2014. Geological Society of London Special publications, 409, 251-271.
Masuda, T., Omori, Y., 2021. Journal of Structural Geology, 146, 104275.
神奈川・山梨県境の丹沢山地では、中新世の酸性深成岩の周りにホルンフェルスや結晶片岩が分布することが知られている。本研究では、特にホルンフェルスと結晶片岩の面構造と線構造の強さに注目した。
<面構造・線構造>
深成岩体の南側に分布している結晶片岩には明瞭な面構造が発達している。一方、線構造に関しては際立って明瞭ではないが肉眼観察で確認は可能である。これに対して深成岩の東側に分布しているホルンフェルスについては、肉眼観察では面構造と線構造のどちらも確認できなかった。本研究ではEBSD(Oxford Symmetry S2)と解析ソフトMTEX(Mainprice et al., 2014の方法)を利用し、予察的に転石を使って、特に角閃石と雲母の格子配列を調べた。
<選択配向データ(ポールフィギュア)の定量化>
シュミットネット上のファブリックパターンを定量化するためにMasuda and Omori (2021) で提案した分布関数(これを蒲郡モデル(仮)と称する)を利用した。この分布関数は直交三方向の対称性を前提にフォン・ミーゼス分布を3次元に発展させたもので、元々は応力場での核形成の異方性を反応速度論で記述したものであるが、それを流用(目的外使用)した。このモデルでは方位の集中度をκ(κ>0)で、また方位異方性をψ(0<=ψ<=1)で表す。EBSDにより岩石試料中の雲母と角閃石のファブリックパターンを計測し、それと最も類似している蒲郡モデルパターンを選別する。選別されたパターンを生じたκとψをその岩石試料のκとψとする、という方法(基本的には絵合わせ)を用いた。
<フィッティング>
実際に計測されたファブリックパターンと、κとψをそれなりに選択したモデルパターンとの類似性(フィッティング)は満足できるレベルであり(”満足”の内容は講演で確認されたし)、計測したファブリックパターンから適切なκとψを引き出すことができた。
<シミュレーション>
得られたκとψが有意であるかどうか、のシミュレーションを2次元のフォン・ミーゼス分布を仮定して行い、測定粒子数が1,000個以上の場合には、κ>0.2では5%の危険率で方向性が認定されることがわかった。
<結果>
丹沢のホルンフェルスで計測された角閃石のκは~0.9、ψは~0.5だったので、このモデルに基けば面構造・線構造があることが確認できた。解析したサンプルは転石なので、面構造・線構造と貫入岩体との実際の方位関係は不明である。
<見通し>
ホルンフェルスと言われている岩石にも格子定向配列が認められた。今後、ホルンフェルスの定方位サンプリングを行い、深成岩体の周囲の岩石の面構造・線構造解析を行えば、深成岩体の貫入に伴う変形現象を検討することが可能であると考える。丹沢山地は国定公園なので、露頭からのサンプリングには県の許可が必要である。しかるべく許可を得て研究を進める予定である。
<教訓または拡大解釈>
従来、構造岩石学的研究の対象になっていなかった岩石(ホルンフェルス)にも、面構造や線構造解析を試みる価値があると確信する。
<補足>
深成岩体に捕獲されたゼノリスにも格子定向配列が確認できた(κ=0.3~0.7程度)。ゼノリスの研究も深成岩体の貫入に伴うプロセスを理解する手がかりになると考えられる。
<引用文献>
Mainprice, D., Bachmann, F., Hielscher, R., Schaeben, H., 2014. Geological Society of London Special publications, 409, 251-271.
Masuda, T., Omori, Y., 2021. Journal of Structural Geology, 146, 104275.
