講演情報
[T10-O-1][招待講演]海洋底から造山帯へ:三波川変成帯の深部付加プロセス
*遠藤 俊祐1、栗原 那知1、崎 海斗1 (1. 島根大学)
【ハイライト講演】 高圧型の広域変成岩帯は、沈み込み境界の深部で起こるさまざまな現象を理解するための「窓」として重要視されてきた。発表者らは、四国の三波川変成岩類を主な対象として、緻密な野外地質調査と岩石記載に基づく研究を展開し、それらの形成に関わる底付け付加作用の実態を明らかにしてきた。本招待講演では最新の研究成果に基づき、三波川変成岩帯からみた白亜紀の海洋プレートの特徴や付加テクトニクスについて紹介していただく。 ※ハイライト講演とは...
キーワード:
白亜紀、三波川変成帯
【はじめに】
三波川変成帯の形成と上昇のテクトニクスは,野外地質学・構造岩石学・相平衡岩石学の手法により,地質構造・温度構造・個々の岩石の変成変形履歴の関連づけを通じて議論されてきた.近年,海嶺(別子型銅鉱床のRe-Os年代:Nozaki et al., 2013)から海溝(砕屑性ジルコン年代による制約:例えばNagata et al., 2019)に至る海洋底層序の原岩形成年代および変成年代(マルチ年代学+岩石学による定量的な温度-圧力-時間経路)のデータが十分ではないにしても蓄積されてきたことで,過去の海洋プレート復元モデル(例えばWu et al., 2024)と具体的なリンクが可能になりつつある.また,白亜紀沈み込み境界において,浅部に付加した四万十付加体と深部に付加した三波川変成岩という理解が定着し,両者の比較を通じて,沈み込み境界の変形・続成~変成作用・流体-岩石反応などの深度変化の追跡の可能性が開けた.本講演では,発表者が地質図作成を行った高知県本山地域および愛媛県桜樹屈曲地域の白滝ユニット(呼称は研究者により異なる)に焦点を当て,三波川変成帯の形成に関与した海洋プレートの特徴や付加テクトニクスについて整理する.
【三波川変成帯の範囲】
三波川変成帯の低変成度部は,一般的な付加体と同様に,下位若化のナップ集積構造を基本とし,その構造的上位には御荷鉾緑色岩類を含む前期白亜紀付加体や秩父北帯のジュラ紀付加体が位置する.地域により地質構造の姿勢や削剥レベルに差異はあるが,四国では後期白亜紀に付加した白滝ユニットが広く露出し,南縁部は南傾斜の構造を示す.したがって,「三波川変成帯」の範囲は,南限を画する断層に依存する.西南日本における中生代付加体~高圧型変成帯の海洋底層序を復元すると,白亜紀中頃に沈み込んだ海洋プレートの年齢が急変したことが示唆される.プレート復元モデルでは,白亜紀中頃からイザナギプレートの北東アジア縁への沈み込みが始まり,55 Ma頃にイザナギ-太平洋海嶺が到達する.これに先行する海洋プレートをWu et al. (2024)はMarginal Sea Plateと称している.前期白亜紀に付加した南縁部(御荷鉾緑色岩類を含む)と後期白亜紀の白滝ユニットとの境界は清水構造線であり,これが北東アジア縁に沈み込む海洋プレートの切り替わりに対応する地質境界と考えられる.
【海洋地殻の大規模な底付け付加】
清水構造線以南の弱変成岩や秩父付加体は,ホットスポット海山起源の玄武岩類や石灰岩を多く含むのに対し,三波川変成帯主要部(白滝ユニット)や同時期の四万十付加体はそれらに乏しく,苦鉄質岩類の大部分は中央海嶺玄武岩(MORB)起源である.一方で,白滝ユニットの遠洋性~半遠洋性堆積物に貫入した小規模なアルカリ玄武岩起源の変成岩が広域に確認され,イザナギプレート上にはホットスポット海山は乏しかったものの,プチスポット的な小規模プレート内火成活動は普遍的であったことを示す.白滝ユニットは,側方連続性の良いMORB起源の苦鉄質片岩の厚層により特徴づけられ,その複雑な内部構造(横臥褶曲を多数含む)は,これら苦鉄質片岩層の詳細なマッピングにより明らかとなる.苦鉄質片岩の厚層が出現する層序位置から,深さ約20 kmで大規模な海洋地殻の底付け付加(underplating)が生じたことが示されている(Endo et al., 2024).そのメカニズムや現世の沈み込み帯での対応現象は,重要な検討課題である.四国西部の白滝ユニットは特に厚い苦鉄質片岩層を含むが,そこではMORBに貫入したとみられる粗粒な変成斑れい岩が確認されており,このような海洋地殻の不均質性が底付け付加において重要な役割を果たした可能性がある.変質玄武岩とは異なり,Fe2O3に乏しく単純系に近い変成斑れい岩は不連続脱水反応を起こす傾向があり,原岩の斜長石に富む部分は沈み込み初期の加水によりパンペリー石やローソン石を形成し,深さ20 kmで緑れん石族鉱物に分解する際に顕著な脱水を起こす.この反応は浸透率の低い海洋地殻内で流体圧上昇を伴い,剪断破壊に寄与すると考えられる.このような反応の痕跡は,桜樹屈曲地域南部の苦鉄質片岩の厚層の下底部に薄く広がる変成斑れい岩(流体起源の炭質物を含有)から確認された.
文献:
Endo et al. (2024) Elements, 20, 77-82.
Nagata et al. (2019) Island Arc, 28, e12306.
Nozaki et al. (2013) Scientific Reports, 3, 1889.
Wu et al. (2024) Elements, 20, 103-109.
