講演情報
[T10-O-2]西南日本白亜紀地質進化に対する海嶺沈み込みモデルの再検討
*ウォリス サイモン1 (1. 東京大学)
【ハイライト講演】 日本列島の形成過程を理解するうえで、海嶺の沈み込みはきわめて重要な地質イベントの一つである。特に白亜紀の海嶺沈み込みは、三波川・領家変成作用や大規模な火成活動と深く関連づけられて議論されてきた。しかし近年、従来の枠組みでは説明しきれない地質記録が相次いで報告され、海嶺沈み込みモデルの再検討が求められている。本発表では、この海嶺沈み込みモデルに関する最新の知見を整理し、従来の理解を踏まえつつ一歩進んだ新たな枠組みをご紹介いただく。 ※ハイライト講演とは...
キーワード:
海嶺沈み込み、白亜紀西南日本、三波川帯、領家帯、スラブの年齢
これまで西南日本の白亜紀地質史は、発散海嶺や若いリソスフェアは重要視されてきた。特に三波川帯および領家帯の形成は、イザナギプレートとクーラあるいは太平洋プレートの海嶺がアジア大陸東縁に沈み込んだ結果とされてきた(e.g. 1, 2, 3, 4)。しかし、以下の地質学的観察事実は、このモデルと整合しない点を示している。 (i) 三波川帯における広域なメタチャートの分布は、放散虫軟泥の堆積速度から、沈み込んだ海洋プレートが必ずしも若くなかったことを示唆する(5)。(ii) 約150 Maの別子型硫化鉱床が、沈み込んだ海洋プレート起源の苦鉄質片岩中に存在し、プレートの年齢が150 Ma以前であったことを示す(6)。(iii) 変成したtrench-fill堆積物からは約100–80 Maの砕屑性ジルコン年代が得られ、プレート沈み込み時の堆積活動を反映している(e.g. 7)。(iv) エクロジャイト中の89 MaのガーネットLu–Hf年代が、高圧変成作用の時期を示す。上記(ii)及び(iii)と(iv)の間には約60 Myr以上の年代差が存在し、沈み込んだ海洋プレートは熱的に十分に古かったと考えられる。さらに、スラブウィンドウ形成を考慮した熱モデルでは、沈み込みおよび海嶺の拡大速度が速度数センチ毎年の条件では、含水ソレアイト質マグマの固相線を超える期間は数Myr未満とされている(8)。これは、領家帯における約30 Myr(100–70 Ma)にわたる連続的な火成活動とは整合しない。現代の地質例では、海嶺沈み込みに伴いマグマ活動が顕著に減少または停止することが知られており、これはスラブの消失に伴う上部マントルへの水供給の断絶に起因するとされる。実際、東アジア縁辺では50±10 Maに火成活動の空白期が認められており(9)、イザナギ-太平洋海嶺の沈み込み時期に対応する可能性があるが、これは三波川-領家帯の変成・造山作用の終了時期よりも大幅に遅れている。1980年代に提唱されたプレート復元モデル(10)は長年使われてきてきたが、その復元は白亜紀中期の海嶺沈み込みを支持する結果を示している。しかし、近年の古地磁気データおよび沈み込みによって地表から姿を消したスラブの量を推定するのに用いられるマントル地震波速度トモグラフィーの結果、そのプレート復元は大きく見直された(e.g. 11)。最新のものによると、三波川-領家変成作用当時のスラブ年齢が約60 Myrであったことが示唆し、岩石記録と調和的である。以上の地質学的および地球物理学的証拠は、海嶺の沈み込みを主要因とする従来の西南日本の白亜紀地質進化に関するモデルを見直し、新たな枠組みを考える必要があることを示す。
<参考文献> 1) Maruyama 1997, Island Arc; 2) Iwamori 2000, EPSL; 3) Aoya et al. 2003, Geology; 4) Wallis et al. 2009, Journal of Metamorphic Geology; 5) Aoya et al. 2013, Niihama 1:50,000 Geological Map, AIST; 6) Nozaki et al. 2013, Scientific Reports; 7) Knittel et al. 2024, Elements; 8) Okudaira & Yoshitake 2004, Island Arc; 9) Yamaoka & Wallis 2023, Progress in Earth and Planetary Science; 10) Engerbretson et al. 1985, Geological Society of America Special Publications; 11) Wu et al. 2024, Elements.
