講演情報
[T8-O-2]地層処分の安全評価に向けた長期的な自然現象の確率論的評価手法の高度化
*後藤 淳一1、田窪 勇作1、三枝 博光1、稲倉 寛仁2、河村 秀紀3 (1. 原子力発電環境整備機構、2. 西日本技術開発(株)、3. mcm japan)
キーワード:
地層処分、安全評価、火山・火成活動、断層活動、深部流体、隆起・沈降、確率論
背景・目的:
高レベル放射性廃棄物等の処分地は,文献調査や概要調査等により将来にわたり火山・火成活動や断層活動などの自然現象の著しい影響を回避し,好ましい地質環境特性を有する地区を選定する。このように選定した地区における将来10万年程度を超えるような長期の安全性は,評価期間が長期にわたることに伴う不確実性を考慮する。この際,自然現象の発生可能性が極めて低い場合でも,その現象が発生し処分場の安全機能に著しい影響を及ぼす可能性が想定される場合は,その地質環境への影響の程度を推定し,発生確率と影響程度を分離して評価する [1]。これまでNUMOでは,長期的な自然現象の発生とそれに伴う地質環境への影響を確率論的に評価する手法として,ITM-TOPAZ手法を開発してきた[2]。このうち,火山・火成活動に関しては,約 100km四方の範囲における約5km四方の領域ごとに将来100万年間の発生確率をマップに示す手法を構築し一定の評価を得た[3]。一方,ITM-TOPAZ手法の適用性をさらに拡充していくうえでは,次のような課題が残されている。
・断層活動による岩盤変形や隆起・沈降に関して,将来10万年以降のプレート運動の変化に伴い生じる広域的な事象やそれらに伴い生じるサイト周辺の地域的な事象の変遷に関するシナリオ(変遷シナリオ)の設定根拠の整備
・火山・火成活動や断層活動,深部流体を含めた処分場周辺の地質環境への影響に関する基盤情報の拡充とそれらの時間変遷を含めたシナリオ(影響シナリオ)に設定方法の整備
・これらのシナリオの起こりやすさを専門家の意見集約により確率論的に評価する方法に対する合意形成
今後,概要調査及びそれ以降の段階においてITM-TOPAZ手法を安全評価に用いる際には,これらの課題の解決し高度化しておく必要があることから,2024年度より3カ年の検討に着手した。
結果概要:
2024年度は,従来の手法にベイジアンネットワーク(BN)やSSHACなどの手法を取り込み高度化する“ITM-TOPAZ-2手法”の評価の流れを検討した。
(1)評価スケールの設定:変遷シナリオのスケールとして,プレート運動に関する約100km四方の領域とサイト周辺の事象に関する約50 km四方の領域,影響シナリオのスケールとして約5km四方の領域を設定する。
(2)評価シナリオの設定:変遷シナリオについては,従来同様にロジックツリーを用いるが,その基となる現象モデルやパラメータは,国内専門家と議論しながら設定する。影響シナリオは影響伝播シナリオに改め,隆起・沈降,侵食・堆積,海水準変動などの緩慢なプロセスや,断層変位,マグマ貫入・噴火,火山性熱水・深部流体の流入などの突発事象の発生から処分場の地質環境に影響が伝播するシナリオを,国内専門家と議論しながら設定する。これらの国内専門家との議論や意見集約に際しては,国内でのSSHAC手法の適用における知見[4]を反映する。
(3)発生確率の算出:変遷シナリオの起こりやすさは,専門家の意見集約によりロジックツリーの重みづけを行う方法で設定する。影響伝播シナリオの発生確率の算出には,BN手法の適用を試みる。BN手法は,評価対象に係る情報,確率を求める数式・モデル,専門家の意見集約結果等を関連付けたBNモデルにより,客観性・透明性の高い評価,独立でない複数の要因が関与する事象の評価,現象モデルやデータが不十分な場合にも科学的に説明性のある評価が可能である[5]。また,BNモデルへの入力情報となる火山・火成活動や断層活動の空間確率密度分布の推定には,ランダムフォレスト法の適用を試みる。ランダムフォレスト法は決定木を用いた機械学習法であり,カーネル法などによる推定結果,地震波速度構造,重力異常などの様々な情報を取り込んだ客観的・包括的な評価を可能にする [6]。
(4)総合評価:リスク論的な安全評価への反映に向けて,変遷シナリオと影響伝播シナリオの発生確率を統合し,地層処分システムの安全機能に影響を及ぼす自然現象の発生確率を提示する。
今後は,国内外の専門家の協力を得てITM-TOPAZ-2手法の高度化を進め,日本列島背弧側を対象にケーススタディを実施し適用性の確認及び改善を図る。
文献 [1]NUMO(2021):NUMO-TR-20-03 [2]NUMO(2016):NUMO-TR-16-04 [3]Jaquet et al. (2017):J Volcan Geotherm Res,345,pp.58–66 [4]電中研(2023):NR22002 [5]Aspinall et al. (2023): J Appl Volcano,12:5 [6]INL(2024):INL/RPT-24-78997
高レベル放射性廃棄物等の処分地は,文献調査や概要調査等により将来にわたり火山・火成活動や断層活動などの自然現象の著しい影響を回避し,好ましい地質環境特性を有する地区を選定する。このように選定した地区における将来10万年程度を超えるような長期の安全性は,評価期間が長期にわたることに伴う不確実性を考慮する。この際,自然現象の発生可能性が極めて低い場合でも,その現象が発生し処分場の安全機能に著しい影響を及ぼす可能性が想定される場合は,その地質環境への影響の程度を推定し,発生確率と影響程度を分離して評価する [1]。これまでNUMOでは,長期的な自然現象の発生とそれに伴う地質環境への影響を確率論的に評価する手法として,ITM-TOPAZ手法を開発してきた[2]。このうち,火山・火成活動に関しては,約 100km四方の範囲における約5km四方の領域ごとに将来100万年間の発生確率をマップに示す手法を構築し一定の評価を得た[3]。一方,ITM-TOPAZ手法の適用性をさらに拡充していくうえでは,次のような課題が残されている。
・断層活動による岩盤変形や隆起・沈降に関して,将来10万年以降のプレート運動の変化に伴い生じる広域的な事象やそれらに伴い生じるサイト周辺の地域的な事象の変遷に関するシナリオ(変遷シナリオ)の設定根拠の整備
・火山・火成活動や断層活動,深部流体を含めた処分場周辺の地質環境への影響に関する基盤情報の拡充とそれらの時間変遷を含めたシナリオ(影響シナリオ)に設定方法の整備
・これらのシナリオの起こりやすさを専門家の意見集約により確率論的に評価する方法に対する合意形成
今後,概要調査及びそれ以降の段階においてITM-TOPAZ手法を安全評価に用いる際には,これらの課題の解決し高度化しておく必要があることから,2024年度より3カ年の検討に着手した。
結果概要:
2024年度は,従来の手法にベイジアンネットワーク(BN)やSSHACなどの手法を取り込み高度化する“ITM-TOPAZ-2手法”の評価の流れを検討した。
(1)評価スケールの設定:変遷シナリオのスケールとして,プレート運動に関する約100km四方の領域とサイト周辺の事象に関する約50 km四方の領域,影響シナリオのスケールとして約5km四方の領域を設定する。
(2)評価シナリオの設定:変遷シナリオについては,従来同様にロジックツリーを用いるが,その基となる現象モデルやパラメータは,国内専門家と議論しながら設定する。影響シナリオは影響伝播シナリオに改め,隆起・沈降,侵食・堆積,海水準変動などの緩慢なプロセスや,断層変位,マグマ貫入・噴火,火山性熱水・深部流体の流入などの突発事象の発生から処分場の地質環境に影響が伝播するシナリオを,国内専門家と議論しながら設定する。これらの国内専門家との議論や意見集約に際しては,国内でのSSHAC手法の適用における知見[4]を反映する。
(3)発生確率の算出:変遷シナリオの起こりやすさは,専門家の意見集約によりロジックツリーの重みづけを行う方法で設定する。影響伝播シナリオの発生確率の算出には,BN手法の適用を試みる。BN手法は,評価対象に係る情報,確率を求める数式・モデル,専門家の意見集約結果等を関連付けたBNモデルにより,客観性・透明性の高い評価,独立でない複数の要因が関与する事象の評価,現象モデルやデータが不十分な場合にも科学的に説明性のある評価が可能である[5]。また,BNモデルへの入力情報となる火山・火成活動や断層活動の空間確率密度分布の推定には,ランダムフォレスト法の適用を試みる。ランダムフォレスト法は決定木を用いた機械学習法であり,カーネル法などによる推定結果,地震波速度構造,重力異常などの様々な情報を取り込んだ客観的・包括的な評価を可能にする [6]。
(4)総合評価:リスク論的な安全評価への反映に向けて,変遷シナリオと影響伝播シナリオの発生確率を統合し,地層処分システムの安全機能に影響を及ぼす自然現象の発生確率を提示する。
今後は,国内外の専門家の協力を得てITM-TOPAZ-2手法の高度化を進め,日本列島背弧側を対象にケーススタディを実施し適用性の確認及び改善を図る。
文献 [1]NUMO(2021):NUMO-TR-20-03 [2]NUMO(2016):NUMO-TR-16-04 [3]Jaquet et al. (2017):J Volcan Geotherm Res,345,pp.58–66 [4]電中研(2023):NR22002 [5]Aspinall et al. (2023): J Appl Volcano,12:5 [6]INL(2024):INL/RPT-24-78997
