講演情報
[T8-O-3]地層処分の安全評価に向けた地下環境の状態変化を考慮した地質学的視点
*大坪 誠1 (1. 産業技術総合研究所地質調査総合センター)
キーワード:
放射性廃棄物処分、地下環境、影響評価、FEPリスト、不均質性
我が国における高レベル放射性廃棄物の地層処分は、10万年を超える長期間にわたって放射性物質を人間生活圏から安全に隔離することが求められている。このため、処分施設が立地する地下環境の「機能」(閉じ込め・隔離・遅延)と、それらが評価期間内に十分に発揮される「性能」の定量的把握が不可欠である。特に日本列島は、活断層や活火山の密集するプレート沈み込み帯に位置し、地質・地形・地下水環境の時間的・空間的な変化が顕著である。これにより、地下環境の初期状態や将来的な変化の不確実性をいかに扱うかが、処分の安全性を議論する上での鍵となる。本発表では、地層処分の安全性評価における地質学的な視点の重要性を、自然事象の影響評価と地下環境の状態変化という2つの観点から整理する。すなわち、「ある自然事象が生じた際に、地下環境が有する安全機能や性能にどのように作用し、どの程度影響を及ぼすのか(感度評価)」を出発点とし、それに対する科学的知見と評価手法の整備を図る。たとえば、隆起・侵食速度の地域差、断層活動と深部流体の移動経路、熱水活動による地下水組成の変化、地下水流動場の長期変化など、多様な自然現象と地下環境の相互作用に注目する。また、国際的なFEP(Features, Events, Processes)リストに準拠しつつ、日本列島固有の地質環境に即した「日本版FEPリスト」の構築と、それに基づく定量的影響評価の枠組みの必要性を論じる。地層処分においては、「閉じ込め」「隔離」「遅延」といった機能が個別に完璧である必要はなく、各機能が相補的に働くシステムとして設計・評価されることが前提となっている。このため、それぞれの機能が時系列的・地域的にどの程度発揮されるか、またそれを評価するための地質データの信頼性と不確実性もあわせて考慮する必要がある。立地選定段階においては、地質・構造・地下水などに関する多様なデータを収集・解析し、地下環境の機能と性能を支える根拠を積み上げていく必要がある。とくに日本のように地質の不均質性が高い地域では、処分場の立地点ごとに異なる「岩盤の初期状態」や「状態変化の履歴と将来予測」を適切に評価することが、安全性の確保に直結する。さらに、地質変動の時間スケールと処分施設の評価期間との整合性を踏まえたリスク判断の指針作成も重要である。
