講演情報

[T8-O-5]長期的な地形変化や海水準変動を考慮した四次元地質環境モデル構築と地下深部の水理場・化学場への影響評価に関する検討

*高林 佑灯1、尾上 博則1、髙畑 祐美1、鐙 顕正2、奥木 さくら2、橋本 秀爾3、松尾 重明4、三枝 博光1 (1. 原子力発電環境整備機構、2. 株式会社大林組、3. 株式会社イーエムジー、4. 三菱マテリアルテクノ株式会社)
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キーワード:

四次元地質環境モデル、地形変化、海水準変動、地下水流動、地層処分

 NUMO(2021)では,日本の代表的な三岩種(深成岩類,新第三紀堆積岩類および先新第三紀堆積岩類)を対象に,地質構造の幾何学形状や水理特性などの三次元の空間分布を表現した地質環境モデルを構築するとともに,構築したモデルに基づき処分場の設計や安全評価を実施した。この検討を通して,数万年以上にわたる地層処分システムの長期安全性をより現実的に評価するためには,地質環境特性の長期変遷を考慮したモデル構築技術を整備することが課題として示された。
特に,地下深部の水理場・化学場に影響を及ぼす現象として,長期的な地形変化や海水準変動といった自然現象が挙げられる。これらの外的要因を従来の地質環境モデルに取り入れることで,地質環境特性の時空間的な変遷をより現実的に評価することが可能になると考える。
このような背景を踏まえ,NUMOでは将来100万年程度の長期にわたる自然現象を考慮した四次元地質環境モデル(三次元空間に時間軸を考慮した地質環境モデル)の構築技術の高度化を進めている。本発表では,この技術開発の成果のうち,地質環境モデルへの自然現象の統合手法と,これらの自然現象が地質環境特性に及ぼす影響の評価結果について報告する。

四次元地質環境モデルは,現在の地形・地質構造モデルに地形変化パラメータを適用して得られる地形・地質構造モデルと,これに基づく水理地質構造モデル,さらに水理地質構造モデルを用いた地下水流動・物質移行解析により構成される。
本検討では,全国規模で収集した地質環境特性データ(NUMO,2021)を用いて,三岩種が混在する地形・地質構造を考慮した仮想的な場を想定し,四次元地質環境モデルを構築した。
具体的には,まず,三岩種が分布する地域のDEMや対象岩種に特徴的な地域の地質図を用い,地形・地質構造の幾何学データを取得した。これらに基づいて,山地・平野・大陸棚や断層・割れ目などの地形・地質構造的要素を,統計値と整合させつつ,確率論と決定論を組み合わせて三次元で配置し,現在の地形・地質構造モデルを作成した。
このモデルに地形変化のパラメータを与え,約100万年間における海進・海退のピーク時の19断面に,地形変化に伴い河川争奪が発生した時点の3断面を加えた22の時間断面を設定し,それぞれの時点における地形・地質構造モデルを時系列的に構築した。地形変化には,地質学会(2011)に基づく長波長成分や断層運動に伴う山地形成といった短波長成分を考慮した隆起・沈降速度を設定し,藤原(1999)を削剥速度として適用した。堆積速度は,河川の滞留による瞬間的な堆積として与えた。海水準変動は,直近の最大海進は約6 ka,海退・海進の進行期間が8万年・2万年,最大高低差を現標高-140 m・+5 mとする,10万年周期の単純化モデルを適用した。
上記の地形・地質構造モデルを基に,各地層や断層の水理特性の空間分布を表現した水理地質構造モデルを構築し,構築した複数の水理地質構造モデルを用いて,飽和・不飽和状態における非定常の地下水流動・物質移行解析を行った。これらの解析では,前の断面の水理地質構造モデルの解析結果を,次の断面のモデルの初期条件として受け渡すことを繰り返し行うことで,約100万年間の地形・地質構造の長期変遷や気候・海水準変動を連続的に考慮した。

長期的な地形変化および海水準変動が地質環境特性に与える影響として,塩水濃度分布,地下水流速分布,地下水の移行特性(移行時間・距離)に以下のような結果が得られた。
・塩水濃度分布について,海退期には淡水領域が沖側に拡大し,海進期には塩水領域が内陸へ進行した。
・地下水流速分布について,淡水域では主に岩盤の透水係数の空間分布に支配されるが,地形変化や海水準変動による水頭分布の変化で動水勾配が変動し,地下水流速も変動した。
・地下水の移行特性について,海域近傍を出発点とする粒子は海水準変動の影響を受け,海退期には汀線の後退により移行時間・距離が増加し,海進期には流出点が近づくことで移行時間・距離が短縮した。
・断層運動に伴う山地形成に起因した河川争奪が発生することで,山地周辺では地下水の主要な流出域の変化が認められた。

以上の結果より,長期的な地形変化や海水準変動は,地下水の水理場や化学場に有意な変化をもたらし,地質環境特性の長期変遷を評価するうえで重要な外的要因の一つであることが示された。また,それらが地下水の水理場や化学場に与える影響には空間的なばらつきがあることも確認された。このため,対象地点における支配的な外的要因を特定するうえで,本報告で示した四次元地質環境モデルに基づく評価は有効と考えられる。

地質学会(2011)地質リーフレット4.
藤原ほか(1999)サイクル機構技報,5,pp. 85–93.
NUMO(2021)TR-20-03.