講演情報
[T8-O-6][招待講演]JAEA東濃地科学センター 土岐地球年代学研究所における研究開発の現況
*石丸 恒存1、浅森 浩一1、花室 孝広 1、川村 淳1 (1. 日本原子力研究開発機構)
キーワード:
地層処分、地質環境の長期安定性に関する研究、火山・火成活動、深部流体、地震・断層活動、隆起・侵食、年代測定技術開発
1. はじめに
JAEA東濃地科学センター土岐地球年代学研究所では、「火山・火成活動」、「深部流体」、「地震・断層活動」及び「隆起・侵食」の自然現象の影響に関する研究課題に対し電力中央研究所と協働し、事例研究と年代測定・分析技術開発を通じて課題の解決に必要な知見の蓄積や調査・評価技術の体系的整備を進めている。以下、JAEAの実施概要について紹介する。
2. 火山・火成活動
2-1.第四紀に活動した火山の活動性に関する評価基盤の提示
九州・琉球弧を対象に、火山・火成活動の活動性評価に有用な情報となる火成岩の全岩化学組成について既往研究データや知見をコンパイルし、東北日本弧とは異なったマグマプロセスの特徴や火成活動を明らかにした。火山活動に関する編年技術の高度化を目的としてジルコンを対象としたU-Th非平衡年代測定法を整備、火山活動に関するマグマ供給源の把握の高度化を目的としてTIMSの導入及びSr同位体、Nd同位体やPb同位体分析に係る前処理手法を整備した。
2-2.地下に熱源を持つ非火山における火山活動への発展性の検討
東北地方を事例に電磁探査による地下の熱源分布の把握、低温領域の熱年代法による山地横断方向の熱履歴の把握といった複数手法を適用し、将来的な火山活動への発展の蓋然性提示のための基盤的技術構築に資する知見が得られた。
3. 深部流体
3-1.鉱物脈の微量元素、流体包有物解析による調査・評価技術の整備
深部流体流入時の温度・圧力条件、壁岩に与えた化学的・熱的影響推定の高度化を目的に、流体包有物分析や元素拡散プロファイル取得手法の適用性検討、鉱物脈の流体包有物分析による深部流体流入時の温度圧力条件の制約と、元素拡散プロファイルを用いた深部流体滞留時間の制約手法の開発を試みた。
3-2.深部流体の移行経路と空間的広がりに関する調査・評価技術の整備
地表近傍での移行経路に関する検討の一環として複数地域の露頭において実施した割れ目解析では、露頭における割れ目間距離などが流体流出に係る割れ目の傾向把握に有効である可能性を示した。地下深部における移行経路の検討の一環として2024年1月1日の能登半島地震のデータを用いてS波スプリッティング解析を行った結果、一部の観測点において地震前後に深部流体の関与を示唆する速いS波の偏向方向の変化を捉えることができた。
4. 地震・断層活動
4-1.活断層地形が不明瞭なせん断帯における活構造の分布や力学的影響範囲を把握する手法の検討
小断層解析を用いた解析手法の高度化を目的として、1984年長野県西部地震及び2016年鳥取県中部地震震源域を例に応力逆解析を行い、伏在する活断層近傍において現在の広域応力に近い応力で形成された小断層が多く存在する領域が確認された。
4-2.断層の活動性評価指標を提示するための分析・試験、年代測定による検討
断層粘土の化学組成データを用いた多変量解析に基づく機械学習による活断層と非活断層の分離評価手法について検討した。年代測定については、主にK-Ar法、FT法及びESR法を実施、新たな手法を整備するためK-Ca法の適用可能性に向けた分析システムを検討した。
5. 隆起・侵食
5-1.熱年代学的手法等を用いた隆起・侵食評価手法の整備
超低温領域の新しい熱年代学的手法として、モナザイトFT年代の実用化を目的とした実験的検討を進めた。また、熱年代データと応力場データとを組み合せた隆起・侵食過程の復元手法として、ヒールドマイクロクラックを用いた古応力解析法の整備も進めた。
5-2.離水地形のマルチ年代測定に基づく隆起・侵食速度推定技術の高度化
沿岸部におけるOSL法及びTCN法の信頼性向上を目的とし、年代既知の海成段丘を対象に手法の適用性を確認した。また、離水地形の編年に基づく河川下刻・隆起速度データを拡充し、沿岸部~内陸部にかけての体系的な隆起・侵食の三次元的変動傾向を検討した。
5-3.地質環境長期変遷のモデル化に反映するための地形解析・総合的調査技術の高度化
性能評価で用いられる河川による削剥シナリオの信頼性を向上するため、GISを用いた地形解析により河川の横断面形状や地形特徴量データを収集・整理し、河川下刻による上流から下流までの地形変化を明らかにした。
6. おわりに
以上により整備された調査・評価技術は、我が国の放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性を更に高め事業や安全規制への技術的基盤となると同時に、地質環境の長期安定性の評価について国民の理解に寄与するという観点で重要と考える。
【謝辞】本報告には経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和5~7年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(地質環境長期安定性総合評価技術開発)」の成果の一部を使用している。
JAEA東濃地科学センター土岐地球年代学研究所では、「火山・火成活動」、「深部流体」、「地震・断層活動」及び「隆起・侵食」の自然現象の影響に関する研究課題に対し電力中央研究所と協働し、事例研究と年代測定・分析技術開発を通じて課題の解決に必要な知見の蓄積や調査・評価技術の体系的整備を進めている。以下、JAEAの実施概要について紹介する。
2. 火山・火成活動
2-1.第四紀に活動した火山の活動性に関する評価基盤の提示
九州・琉球弧を対象に、火山・火成活動の活動性評価に有用な情報となる火成岩の全岩化学組成について既往研究データや知見をコンパイルし、東北日本弧とは異なったマグマプロセスの特徴や火成活動を明らかにした。火山活動に関する編年技術の高度化を目的としてジルコンを対象としたU-Th非平衡年代測定法を整備、火山活動に関するマグマ供給源の把握の高度化を目的としてTIMSの導入及びSr同位体、Nd同位体やPb同位体分析に係る前処理手法を整備した。
2-2.地下に熱源を持つ非火山における火山活動への発展性の検討
東北地方を事例に電磁探査による地下の熱源分布の把握、低温領域の熱年代法による山地横断方向の熱履歴の把握といった複数手法を適用し、将来的な火山活動への発展の蓋然性提示のための基盤的技術構築に資する知見が得られた。
3. 深部流体
3-1.鉱物脈の微量元素、流体包有物解析による調査・評価技術の整備
深部流体流入時の温度・圧力条件、壁岩に与えた化学的・熱的影響推定の高度化を目的に、流体包有物分析や元素拡散プロファイル取得手法の適用性検討、鉱物脈の流体包有物分析による深部流体流入時の温度圧力条件の制約と、元素拡散プロファイルを用いた深部流体滞留時間の制約手法の開発を試みた。
3-2.深部流体の移行経路と空間的広がりに関する調査・評価技術の整備
地表近傍での移行経路に関する検討の一環として複数地域の露頭において実施した割れ目解析では、露頭における割れ目間距離などが流体流出に係る割れ目の傾向把握に有効である可能性を示した。地下深部における移行経路の検討の一環として2024年1月1日の能登半島地震のデータを用いてS波スプリッティング解析を行った結果、一部の観測点において地震前後に深部流体の関与を示唆する速いS波の偏向方向の変化を捉えることができた。
4. 地震・断層活動
4-1.活断層地形が不明瞭なせん断帯における活構造の分布や力学的影響範囲を把握する手法の検討
小断層解析を用いた解析手法の高度化を目的として、1984年長野県西部地震及び2016年鳥取県中部地震震源域を例に応力逆解析を行い、伏在する活断層近傍において現在の広域応力に近い応力で形成された小断層が多く存在する領域が確認された。
4-2.断層の活動性評価指標を提示するための分析・試験、年代測定による検討
断層粘土の化学組成データを用いた多変量解析に基づく機械学習による活断層と非活断層の分離評価手法について検討した。年代測定については、主にK-Ar法、FT法及びESR法を実施、新たな手法を整備するためK-Ca法の適用可能性に向けた分析システムを検討した。
5. 隆起・侵食
5-1.熱年代学的手法等を用いた隆起・侵食評価手法の整備
超低温領域の新しい熱年代学的手法として、モナザイトFT年代の実用化を目的とした実験的検討を進めた。また、熱年代データと応力場データとを組み合せた隆起・侵食過程の復元手法として、ヒールドマイクロクラックを用いた古応力解析法の整備も進めた。
5-2.離水地形のマルチ年代測定に基づく隆起・侵食速度推定技術の高度化
沿岸部におけるOSL法及びTCN法の信頼性向上を目的とし、年代既知の海成段丘を対象に手法の適用性を確認した。また、離水地形の編年に基づく河川下刻・隆起速度データを拡充し、沿岸部~内陸部にかけての体系的な隆起・侵食の三次元的変動傾向を検討した。
5-3.地質環境長期変遷のモデル化に反映するための地形解析・総合的調査技術の高度化
性能評価で用いられる河川による削剥シナリオの信頼性を向上するため、GISを用いた地形解析により河川の横断面形状や地形特徴量データを収集・整理し、河川下刻による上流から下流までの地形変化を明らかにした。
6. おわりに
以上により整備された調査・評価技術は、我が国の放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性を更に高め事業や安全規制への技術的基盤となると同時に、地質環境の長期安定性の評価について国民の理解に寄与するという観点で重要と考える。
【謝辞】本報告には経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和5~7年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(地質環境長期安定性総合評価技術開発)」の成果の一部を使用している。
