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[T8-O-9]表計算ソフトを用いた断層のすべり方向のミスフィット角の計算

*島田 耕史1 (1. 日本原子力研究開発機構)
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ミスフィット角、表計算ソフト

 ミスフィット角とは,ある応力場においてWallace-Bott仮説から理論的に求められる断層すべり方向(以下,理論すべり方向)と,実際のすべり面に記録されている最新の断層すべり方向(以下,観察すべり方向)のなす角度である.高レベル放射性廃棄物の地層処分事業において概要調査以降の露頭調査やボーリング調査で遭遇する断層破砕帯の活動性評価,すなわち将来活動する可能性のある断層等か否かを評価していく上で,ミスフィット角の算出は,現在の応力場において活動している場合にはミスフィット角が小さいことが期待されることから(藤内ほか, 2011;酒井ほか, 2024など)重要である.理論すべり方向の確度は,応力逆解析手法の発展により,最大・最小主応力軸の方向および応力比(以下,応力場情報)の確度向上が継続的に図られることで(佐藤ほか, 2017; Uchide et al., 2022)向上している.応力場情報を仮定又は既知とし,ミスフィット角の計算過程を確認しつつ簡便に実施できるようにすることは,破砕帯の活動性評価や調査の迅速化にも寄与すると考えられる.ここで紹介する表計算ソフトを用いたミスフィット角の計算表は,ステレオ投影図での回転操作をともなう図式解法(Means, 1989)を参考にしつつ,回転操作を行わず,方向余弦を用いて図式解法と同じ理論すべり方向を得るものであり,この方向と観察すべり方向との挟角,すなわち,ミスフィット角を計算する.実際には表計算シート上の10列程度のセルに応力場情報と条線やすべり方向の情報を入力すると,表計算シート上の50列程度の数式群により計算が進みミスフィット角が出力される.計算式の分量は多く,本要旨に掲載することはできないが,概要を以下に示す.
 右手系直角座標系と地理座標系との対応をx:北,y:東,z:鉛直下方をプラスとし,方位λは北から時計回りに,角度φは鉛直下方から測定する.応力比は,R =(σ2-σ3)/(σ1-σ3)から,中間主圧縮応力σ2を基準としたσ1およびσ3との偏差の比(σ2-σ3)/(σ1-σ2)=-(1-(1/(1-R)))に換算する(この値をRDとする).断層面に直交する線(面の極;P),最大主圧縮応力の方向(S1),最小主圧縮応力の方向(S3),観察すべり方向(断層上盤側のブロックの移動方向;SD)の方向余弦を算出する.S1とPのなす角a,S3とPのなす角bを求める.断層面上でσ1,σ3により発揮されるせん断応力T1とT3の方向(D1,D3)を示す方向余弦を算出する.Means(1989)に基づき,T1とT3を算出し(この時、σ1とσ3は1とRDに規格化),せん断応力Tの方向余弦を求める.観察すべり方向の方向余弦と,せん断応力Tの方向余弦から,観察すべり方向とTの方向と挟角(ミスフィット角)を求める.この表を用いて,Means (1989)の例を計算し,図式解法と同様の理論すべり方向を得た.
 続いて,活断層である木津川断層のボーリングコアの断層面で測定された2つの条線のミスフィット角を,歴史記録から推定される右ずれ逆断層センスを仮定して計算した.応力場情報は同断層を含む近畿地方の活断層の運動像から推定された値(Tsutsumi et al., 2012)を用いた.その結果,ボアホールカメラ観察に基づく巨視的断層面上の条線(断層面走向傾斜/条線プランジ→条線方向;N69E60N/23→263)のミスフィット角は11度,斜交するせん断面上の条線(N45E62N/57→279)では41度であった.この結果の解釈についても議論する.
 本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和6-7年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(地質環境長期安定性総合評価技術開発)」の成果の一部である.
[引用文献]
Means, W. D., 1989, J. Struct. Geol., 11, 625-627.酒井 亨ほか, 2024, 地質雑, 130, 89-109.佐藤活志ほか, 2017, 地質雑, 123, 391-402.藤内智士ほか, 2011, 活断層・古地震研究報告, 11, 139-150.Tsutsumi, H., et al., 2012, Geophys. Res. Lett., 39, L23303.Uchide, T., et al., 2022, J. Geophys. Res., Solid Earth, 127, e2022JB024036.