講演情報
[T4-O-2]MgO水和膨張反応における反応-変形-流体流動のフィードバック:拘束条件の影響
*坂下 福馬1、岡本 敦1、ダンダル オトゴンバヤル1、吉田 一貴2、奥田 花也3、宇野 正起4 (1. 東北大学 環境科学研究科、2. 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 、3. 国立研究開発法人海洋研究開発機構、4. 東京大学 地球惑星科学専攻)
キーワード:
反応誘起応力、水和、反応誘起破壊
蛇紋石化や炭酸塩化反応は、地球内部の大規模物質循環やダイナミックな現象に大きな影響を与える。例えば、海洋リソスフェアの蛇紋石化は地球規模の水循環を制御する一方、反応に伴う物性変化は沈み込み帯での地震活動にも影響を与える。また、かんらん岩の炭酸塩化は、大気中のCO₂を鉱物に固定する有望な手段として注目されている。しかし、かんらん石から蛇紋石への反応 (2Mg₂SiO₄ + 3H₂O → Mg₃Si₂O₅(OH)₄ + Mg(OH)₂) では+50.1%、かんらん石からマグネサイトへの反応 (Mg₂SiO₄ + 2CO₂ → 2MgCO₃ + SiO₂) では+80.4% という顕著な固体体積の増加を伴う。この体積膨張は岩石内の流体経路である空隙や亀裂を閉塞し、反応を自己停止させると予想される 。一方、天然ではしばしば数kmスケールに及ぶ広域的な反応が進行しており、この矛盾を解決するメカニズムとして、体積膨張自体が岩石内に亀裂を発生させ(反応誘起破壊)、それが流体経路となり反応を自己促進させるというポジティブフィードバックが提唱されている[1][2]。本研究ではアナログ物質として、反応が速く、かつ体積膨張率が+119%と非常に大きいペリクレース(MgO)の水和反応に注目し、水熱反応実験を行った。
出発物質として、「高空隙試料」(空隙率: 14-16%)および「低空隙試料」(空隙率: 5-7%)の2種類のペリクレース焼結体試料を用いた。低封圧(20MPa)と高封圧(50MPa)の2つの条件で実験を行った。比較的低い封圧下(20 MPa)で行った実験では、反応経路が初期空隙率に強く依存することが明らかになった。高空隙試料では、反応初期に空隙閉塞により浸透率が一時的に低下するものの、その後は反応誘起破壊を伴わずに均一に膨張した 。この際、浸透率は高い値を維持、あるいは高い差応力下では軸方向に微小亀裂が形成され約1桁増加した。一方、空隙率が極めて低い低空隙試料の挙動は対照的に、1500〜2900分という非常に長い誘導期間を示し、その間は表面からの層状剥離による遅い反応が特徴であった 。この誘導期間の後、膨張反応に伴う応力蓄積が自発的な差応力を生み出し、軸方向に平行なき裂が生じ突発的かつ大規模な破壊が発生した。これが引き金となって破壊、流体浸透、反応が連鎖するカスケード反応が見られ、最終的にはき裂ネットワークの形成が観察された。このプロセスにより、浸透率は初期値から2桁増加し、反応速度はバッチ実験と比較して約18倍にまで加速した 。これらの結果は、たとえ初期応力が等方的であっても、反応による膨張が周囲の拘束条件の非等方性によって自己誘起的な差応力を生み出し、それが破壊様式と浸透率の変化を支配することを示す。反応場の応力状態の重要性を明確に示している。
Zhengらの研究[3]では、30 MPa以上の高封圧下では反応誘起破壊が抑制され、反応進行が著しく困難になる可能性が示唆されている。本研究においても、50MPaの高封圧下では流体の流動が制限され、20MPaに比べて、反応速度が約1/2〜1/4に低下することが示された。しかし、Zhengらの研究[3]での低空隙試料の反応率が3.5%に留まったのに対し、本研究では反応率が50%を超える広範な反応が進行した。この結果は、高封圧下では大規模な破壊を介した反応は起きないものの、反応自体は必ずしも停止しない可能性を示唆する。これらの結果は、マントルウェッジなどの沈み込み帯や海洋プレート深部における応力状態、力学的、異方性においても反応誘起応力を伴う反応の進行を示唆する。
[1]Shimizu and Okamoto 2016, Contrib Mineral Petrol, 171, 1-18
[2]Uno et al., 2022 Proccedings of National Academy of Science, USA, 119.3
[3]Zheng et al., 2018 Geochemistry, Geophysics, Geosystems, 19.8, 2661-2672
出発物質として、「高空隙試料」(空隙率: 14-16%)および「低空隙試料」(空隙率: 5-7%)の2種類のペリクレース焼結体試料を用いた。低封圧(20MPa)と高封圧(50MPa)の2つの条件で実験を行った。比較的低い封圧下(20 MPa)で行った実験では、反応経路が初期空隙率に強く依存することが明らかになった。高空隙試料では、反応初期に空隙閉塞により浸透率が一時的に低下するものの、その後は反応誘起破壊を伴わずに均一に膨張した 。この際、浸透率は高い値を維持、あるいは高い差応力下では軸方向に微小亀裂が形成され約1桁増加した。一方、空隙率が極めて低い低空隙試料の挙動は対照的に、1500〜2900分という非常に長い誘導期間を示し、その間は表面からの層状剥離による遅い反応が特徴であった 。この誘導期間の後、膨張反応に伴う応力蓄積が自発的な差応力を生み出し、軸方向に平行なき裂が生じ突発的かつ大規模な破壊が発生した。これが引き金となって破壊、流体浸透、反応が連鎖するカスケード反応が見られ、最終的にはき裂ネットワークの形成が観察された。このプロセスにより、浸透率は初期値から2桁増加し、反応速度はバッチ実験と比較して約18倍にまで加速した 。これらの結果は、たとえ初期応力が等方的であっても、反応による膨張が周囲の拘束条件の非等方性によって自己誘起的な差応力を生み出し、それが破壊様式と浸透率の変化を支配することを示す。反応場の応力状態の重要性を明確に示している。
Zhengらの研究[3]では、30 MPa以上の高封圧下では反応誘起破壊が抑制され、反応進行が著しく困難になる可能性が示唆されている。本研究においても、50MPaの高封圧下では流体の流動が制限され、20MPaに比べて、反応速度が約1/2〜1/4に低下することが示された。しかし、Zhengらの研究[3]での低空隙試料の反応率が3.5%に留まったのに対し、本研究では反応率が50%を超える広範な反応が進行した。この結果は、高封圧下では大規模な破壊を介した反応は起きないものの、反応自体は必ずしも停止しない可能性を示唆する。これらの結果は、マントルウェッジなどの沈み込み帯や海洋プレート深部における応力状態、力学的、異方性においても反応誘起応力を伴う反応の進行を示唆する。
[1]Shimizu and Okamoto 2016, Contrib Mineral Petrol, 171, 1-18
[2]Uno et al., 2022 Proccedings of National Academy of Science, USA, 119.3
[3]Zheng et al., 2018 Geochemistry, Geophysics, Geosystems, 19.8, 2661-2672
