講演情報

[T4-O-3]東北沈み込み帯アウターライズ域から採取された堆積物試料について高温高圧環境の保持による続成作用の再現と摩擦特性への影響に関する研究

*井藤 隼斗1、岡崎 啓史1,2、上田 瑞貴3、濱田 洋平2、山口 飛鳥4 (1. 広島大学、2. JAMSTEC、3. 筑波大学、4. 東京大学大気海洋研究所)
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キーワード:

浅部スロー地震、東北沈み込み帯、続成作用、摩擦特性、岩石変形

 沈み込み帯でのプレート境界断層は主にシリカ鉱物や粘度鉱物などから構成される堆積物・堆積岩で形成されるが、堆積物の摩擦特性の理解はプレート境界断層の多様な摩擦挙動(地震・スロー地震・津波地震)の詳細を解明する上で重要な役割を果たすことが考えられる。東北沈み込み帯のスロー地震や海溝型地震が発生する深さでは続成作用に伴う脱水が盛んであるほか、続成作用は堆積物の摩擦特性、断層の力学的特性に大きく影響する為、プレート境界断層の動きにも影響を及ぼすと考えられる。現在、沈み込み帯に存在する物質について温度依存の摩擦特性が数多く明らかにされているが、沈み込み帯浅部での比較的低温で発生する多様な摩擦挙動について説明できるような物質は明らかにされていない(Okazaki & Hamada 2022)。本研究では堆積物が経験する続成作用に着目し、実験室で続成作用を再現することで堆積物の比較的低温での続成作用による摩擦特性の変化を明らかにした。 実験試料は新青丸によりKS-15-3航海で東北沈み込み帯アウターライズ域から採取されたコア試料を用いており採取された堆積物試料は将来的に沈み込み帯での断層形成物質になる可能性がある。広島大学設置の高温高圧ガス圧式透水試験機を用いて封圧(Pc)150 MP、間隙水圧(Pp)58 MPaの環境下で温度(T)を 20℃から250℃、保持時間(t)を10分、1日、1週間、1カ月と変化させる事で続成作用の進行を段階的に再現した。また、続成作用の進行度を評価するため保持時間中の試料の圧縮量と浸透率を継続的に測定した。続成作用の再現後に軸変位速度0.1-1-10㎛/sの速度ステップ摩擦試験を行うことで続成作用の進行が摩擦特性に及ぼす影響について調べた。摩擦特性の評価は主に速度・状態依存摩擦則(RSF則)[Dieterich,1979; Ruina,1983]より摩擦係数の速度依存性を示すパラメータの(a-b)の値により行った。(a-b)の値が正であるとき断層は速度強化挙動を示し安定滑りを示すが、負であるとき断層は速度弱化挙動を示し地震の核となり得ると言われている。 高圧高温熱水環境の保持中には時間経過に対して試料の対数的な圧縮と浸透率低下が観察され、試料内で圧密作用や鉱物の溶解などの反応が起こった事を示すと考えられる。また、採取された堆積物の摩擦係数は煮込み時間、温度の増加に伴い上昇する傾向を持っていた。一方(a-b)の値は煮込み時間と温度の増加に伴って減少傾向が見られた。速度弱化挙動は100℃で1週間保持した時と150℃より高温で低速度ステップを起こしたときに観察され、それらの環境は地震発生帯の浅部の環境に相当する。これらの結果から堆積物試料は煮込み時間と温度の増加、つまり続成作用の進行度に対して速度弱化挙動を示す事が分かり、速度強化挙動から速度弱化挙動の漸移が続成作用の進行により説明が出来る事を示唆している。(a-b)の値の漸移から、本実験では150℃以上であれば煮込まずとも速度弱化挙動を示し、100℃であれば1週間、60℃であれば数年、40℃であれば10万年の保持により速度弱化挙動を示すと考えられる。以上の結果から低温での地質学的な時間スケールの続成作用は浅部での定常滑り、スロー地震、地震などの断層滑り挙動の遷移を引き起こす可能性がある事を示唆している。
[引用文献] Dieterich, J. H. (1978), Time-dependent friction and the mechanics of stick-slip, Pure Appl. Geophys., 116, 790–806.Ruina, A. (1983), Slip instability and state variable friction laws, J. Geophys. Res., 88, 10,359–10,370, doi:10.1029/JB088iB12p10359.Okazaki, K., & Hamada, Y. (2022), 熱水環境下での岩石変形実験に基づく沈み込み帯プレート境界の摩擦特性とすべり挙動の多様性に関する考察, 月刊地球, 518号, 582-590